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第8話「ペケペーケ様と僕」

 僕は女の子を引きずって家まで帰ることにした。


「わしをどこまで連れていく気じゃ! やめんか、この誘拐魔!」


 散々騒いで暴れる女の子は道を行く人の視線を集める。だけどユキさんの件で慣れっこの僕はもう気にしなかった。


 幸い祖母は外出していたようだった。僕は女の子を裏庭へ引きずり込む。


「さてと……やっぱり」


「何がやっぱりなんですか……あれ?」


 ユキさんが驚いて声を失った。裏庭の片隅に鎮座していたはずのペケペーケ様の像が無くなっていたのだ。


「どういうことなんでしょう? おばあ様がペケペーケ様の像を背負ってどこかへ行ってしまわれたのでしょうか?」


 ペケペーケ様が大好きとは言え、さすがに祖母もそこまではしないだろう。うん……しないと思う。その可能性を否定しきれないのは困ったものだった。


「むぅ……」


 女の子はだんまりを決め込んでしまった。


「ユキさん、この子はペケペーケ様だよ。本物の」


「?」


 僕の言ったことの意味がわかっていないようだ。まあ僕もよくわかっていないのだが。


「そうですよね、ペケペーケ様」


「……そうじゃ。だから離さんか!」


 もう逃げる気力も無くなったようなので僕はペケペーケ様を解放することにした。


「本物……?」


「だからそう言うとるじゃろ」


 ユキさんとペケペーケ様の会話は噛み合わない。信仰する者とされる側の邂逅というのはこうなるのか、と不信心者の僕はただ眺めるだけだった。


「ああ、なんという幸福……」


 そういうとユキさんは気絶してしまった。まぁ信心深い彼女のことである。目の前に神様がいるとなればこうなるのも予想の範囲内ではあったのだが……。


 とにかくもペケペーケ様と協力して彼女を家の中で寝かせることにした。


「なんだか納得がいかないのじゃが」


「文句は後にしてください。脚の方を持ってくださいよ、一、二、三!」


 ユキさんが軽くて助かった……しかしこんな子が勇者として冒険に出ようというのだから、きっと苦労もしただろうな。うん、僕の方が苦労しているような気もするのだけど。


 布団にユキさんを寝かせると、僕はペケペーケ様と対峙した。

しかし全く悪びれる様子も無くふんぞり返る神様。自分は偉いということを僕にアピールしたいのだろう。と言ったところで、信者が全世界で一〇人もいないマイナー神様なのだが。


「大体わしは何も悪いことはしとらん。だというのにお主はこのような乱暴狼藉を働きおって」


 そうは言われても、そうでもしないとすぐ逃げられてしまうのだ。これくらいの荒業は勘弁してもらいたいところだった。


「ペケペーケ様、さっき願いがどうのと言ってましたよね。僕のどんな願いを叶えたって言うんですか?」


 僕としては普通に迷宮探索を行っていただけである。恩着せがましく言われる筋合いは無いのだ。


「ん? ああ、それじゃな。お主の腰にあるものじゃ」


 腰と言われても……。さっき迷宮で手に入れたブロンズソードしか無い。


「お主は今朝方わしに、このユキと言う娘の力になりたいと願ったじゃろ? だから叶えてやった」


 あ……。そういうことね。何やら脱力する思いだった。確かにあのエントランスで青ゴブリンが出るのは珍しいし、ブロンズソードを落とすのも滅多なことでは無い。


 つまりペケペーケ様としてはこのちょっとした幸運を僕に授けてくれた、と言いたいらしい。


「あー、お主。この程度か、と疑っておるな!?」


 僕の目付きが気に障ったのか、ペケペーケ様が抗議を申し立てた。


「まあ信者一〇名未満のマイナー神様じゃこの程度ですよね」


 つい本音を言ってしまった。それを聞いたペケペーケ様は顔を真っ赤にして怒り出した。


「なんじゃと! これでもわしはお前のために色々と願いを叶えてやっとる。そっちの方に力を使ってしもうて、今はこれが精一杯なんじゃ!」


 そんなこと言われても僕にはそんな願いを聞いてもらった覚えはない。


「お主、前からこの村を出たいとずっと思っとったじゃろ?」


「……はい」


 勘は鋭い。やはり腐っても神様のようだ。


「じゃからユキを通じてそのチャンスをやったのに……。お前はそれを無駄にしおった! まーったく意気地のない奴じゃ」


 そういうことだったのか。……ってことユキさんからの誘いじゃなかったってことか。裏側を知ってしまうと、なんだかショックを受けた。まぁそうだよな……。


「なーにいじけとるんじゃ。元からユキはお前を誘いたいと思っておった。それにわしが便乗しただけじゃ」


 安心した……。僕は内心胸を撫で下ろした。


 とはいえこの神様、本当やってることがせせこましいというかケチというか。ユキさんの想いにタダ乗りした挙句に、僕にくれたのが一番安いブロンズソード。どうせなら王宮の騎士が使うロングソードとか、もっと高価な剣をくれれば良かったのにと思ってしまう。


「なんじゃその目は。じゃからわしは今別のことで力を使い果たしておるんじゃ。そもそもわしの信者がひとケタしかいない現状では力が出ないのを必死で頑張っておると言うのに……」


 ブツブツとペケペーケ様は不満を漏らした。気持ちはわかるが、仮にも二五五柱神の一人ならもうちょっとわかりやすい力を示してほしいところだった。


「大体何にそんな力を使っているんですか?」


「ああ、お主のおばあさんの頼みを聞いておる」


 そう言えば最初会った時にそんなことを言われたような気がした。でも祖母の願いといえば精々平穏無事に無病息災くらいだろう。そんなに力を使うものなのであろうか。


「まーた疑っとるな。無病息災はわしの十八番中の十八番じゃ。現に頼みをきちんと聞いて、お前を無病息災にしておるわ」


 へえ僕が……。祖母が毎日そんなことを祈っていたとは思わなかった。とはいえ無病息災など意識したことも無い。確かに風邪を引いたことはないし、大けがもしたことがない……?


「そうじゃ、そうじゃ。わかってきたじゃろ」


「わかりません」


 自分のありがたさをアピールできるはずが大空振りだったためかペケペーケ様はズッコケそうになった。実際これといって何かあっただろうか。


「お主はわしの力のほとんどを使って『無病息災』状態にしておる! この前、あの迷宮で地雷原を歩かされたじゃろ?」


 そうだ。あの自称勇者達から無理矢理歩かされた地雷原だったが、僕が歩いた時は一つも罠は発動しなかった。これが無病息災ってことなのだろうか。


「そーいうことじゃ。わしの力がある以上、お前はこれから先死ぬまで無病息災じゃ。病気もしないし、災いに遭うことも無い。どーじゃ凄いじゃろ!?」


 「えへんぷい」とでも言いたげにペケペーケ様はまたふんぞり返って見せた。


 これは凄いことなのだろうか……?


 確かに結構な高レベルだったはずの自称勇者連中が全滅する程の罠を、一切被害を受けることなく通過できたのは地味に凄い。うん、でもやっぱり地味だ。


「地味ですね」


「凄いじゃろ!?」


 僕とペケペーケ様の会話も噛み合わなかった。

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