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第18話「ペケペーケ様の御加護」

「それでワイト、お前は冒険者になるのかい?」


 それをさっき言ったばかりなのだが、改めて祖母は聞いて来た。


「うん。もう決めたんだ」


 今みたいに、祖母から言われたからユキさんの手伝いをしているような、気持ちが宙ぶらりんの状態に我慢ができなくなったからだった。


「僕はユキさんみたいになりたいんだ。自分の目標を持って生きてみたい。だから……ごめん、あの迷宮を探索し終わったらユキさんと一緒に村を出る!」


 僕は一気に言い切ってしまった。


「わかっとったよ。前からワイトはそう思っていたのをね。良く決心したね。私のことは構わないから、自分のしたいことをするんだよ」


 祖母はうんうんと頷くとそれ以上言わなかった。その代わり箪笥の引き出しから、小さなお守りを出してくれた。


「これは?」


「ああ、これかい。ペケペーケ様のお守りだよ。これを持って行きなさい。何か困ったら中を開けてごらん」


 ペケペーケ様本人が横にいるのだから、と断ることも出来た。でも祖母の想いがこもっていると思って僕は素直に受け取った。


「ワイトさん……」


 ユキさんが不安そうに僕を見た。だけど今の僕に迷いはない。


「だからユキさん、まずは一緒にあの迷宮をクリアしよう。それで破魔の聖剣を手に入れよう」


 そんな僕にペケペーケ様がツッコミを入れた。


「おうおう、よう大風呂敷を広げよったのう。お主、迷宮の最深部へ行ける自信があるのか?」


 そこまで言われて言葉に詰まってしまった。ますます敵も罠も強くなって来る。不安しかない。でも……。


「でも、ペケペーケ様の『無病息災』があるでしょ?」


「も、もちろんじゃ」


 任せろとばかりに胸をドンと叩くペケペーケ様。だけど内心は焦ってそうだった。

でも僕なりに勝算があった。それを試してみたかった。


 真っ当に競争してあの自称勇者連中に勝てる訳がない。それは十分わかっている。それでもこちらにはペケペーケ様の全力フルパワーを込められた御加護がある。これは大きなアドバンテージだろう。


「しかしどーする気なんじゃ、あんな大きなことを言うて」


 ペケペーケ様はちょっと不満そうだった。


「ペケペーケ様の十八番って無病息災と、あと……」


「平穏無事じゃ。忘れるな!」


 普通ならあまり役に立ちそうにないスキルだが、とにかく強引なまでの効力を今までも発揮していたのだ。これが使えないかと思ったのだ。


「つまり僕は今、平穏無事で無病息災ってことですよね?」


「うむ。そうじゃ」


 当たり前のことを言わせるな、とばかりのペケペーケ様。これを上手く使えばどうにかなりそうなのだ。


「どうするんですか、ワイトさん?」


 ユキさんも心配そうだった。だけどそれには及ばない。それは次に迷宮へ入ってみればわかるだろう。



 迷宮へ入る前に僕らは冒険者ギルドのテントを訪れた。決心した以上、僕はもう冒険者のつもりだったが、やはり形から入っておこうと思ったのだ。


「いらっしゃーい。……ふふふ、ワイト君ついに来たわね」


 お姉さんは「すっかりお見通し」と言わんばかりに待っていた。やはり見る人が見れば、違いがわかるのだろうか。


「お姉さん、僕も冒険者になります!」


 僕は宣言した。これでもう後戻りはできない。そう思うと、背筋が伸びる気分だった。


「よーし、良い心がけです。それじゃ早速石板に手を当ててもらいましょう」


「ワイトさん、頑張ってください!」


 ユキさんが応援してくれた。うん、頑張るようなことでもないが、その声援だけでレベルが何割り増しかになるような心強い気持ちになった。


 石板はひんやりとした冷たさで、つるりとした触り心地だった。


 思えば自分のレベルなんて正確に測ったことなんかなかった。普通に暮らしていれば必要のない数字だし、知ったところであくまでもそれは現在位置を知るための目安に過ぎないのだ。


「えーと、ワイト君は……」


 お姉さんが石板の測定した僕の力を紙に速記して行く。


 思わず僕もユキさんも手に汗握りながら、その続きを待った。


「うん、レベル3ね。」


 拍子抜けしてしまった。もっと高いものだと思っていたのだが、無いよりはちょっとマシ程度のレベル。これでも結構ハードな冒険をしてきたつもりだったのだが……。


「気を落とさないでね。ユキさんと一緒でワイト君も大器晩成型だから……あれ?」


 大器晩成なら安心して良いのだろうか。ずっと最後まで停滞したまま成長しないのじゃないかとやや不安になってしまう僕だった。


 でも、今「あれ?」とか言ったよな?


「ワイト君。君何か凄いアミュレット装備したりしてる?」


 そんな高価なものなど持っているはずもない。お守りは大したものでは無いし、服だって父親のお古を着ているくらいなのだ。


「いえ……」


「おかしいな。はっきりはわからないんだけど、何か凄い力でワイト君の力を底上げしてるみたいなのよね。何か心当たりある?」


 僕はユキさんと顔を見合わせた。言葉は交わさないが、ペケペーケ様の力だろうということで考えは一致していた。そのペケペーケ様は顔がにんまりしている。


「多分、うちはペケペーケ様を信仰してるからその御加護、ですかね?」


「ペケペーケ様?」


 僕の言葉にお姉さんが小さな手帳を取り出すと、パラパラ捲り出した。


「ああ、あった。ペケペーケ様、信者数全国二五四位の神様。またレアな神様ね」


 後ろに控えていたペケペーケ様はお姉さんの言葉にがっくりしてしまった。しかしペケペーケ様よりまだ下の神様がいたとは知らなかった。


「平穏無事に無病息災か……」


 お姉さんは微妙な顔をしてしまった。そりゃ一般的には冒険者には不向きな御利益なのは見ればわかる。それでも罠や毒の沼には効果があったのだから馬鹿にはできない。


「この簡易的な石板じゃ測定しきれないけど、どうやらワイト君を護ることに特化した力が働いているみたい。それも尋常じゃないくらい」


 腐っていたペケペーケ様の機嫌が直った。


「それってどれくらいなんですか?」


 ユキさんの言葉にお姉さんは首をかしげてしまった。


「うーん、細かいことはわからないわね。今度、うちの本部の方へ来てよ。しっかり測り直してあげる」


 お姉さんが驚くくらいの力をペケペーケ様が持っているのか。そう思うと、後ろで一喜一憂しているポンコツ神様が立派に見えて来てしまった。


「あーでも、ワイト君。これだけは忠告しておくね。防御はワイト君凄いことになってるけど、攻撃の方はからきしだから注意してよ。調子に乗って強い敵に喧嘩を売らないこと」


 やっぱりそうなるよな……。アランやスミスと喧嘩しても勝てないんだから。あくまでも平穏無事に物事が過ぎ去るのを待つしかないのだろう。そう思うとちょっと僕の決心は鈍ってしまいそうだった。


「ワイトさん、大丈夫です。私が魔物を攻撃しますから安心してください」


 そうユキさんが慰めてくれた。なお彼女はまだレベル1のままである。……うん、やっぱり僕が彼女を護らないといけないな。


 真新しい冒険者手帳を受け取ると、僕ら三人はテントを後にした。

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