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第17話「僕の決心」

 狭い村のことだ。どうしてもあの自称勇者連中と鉢合わせなんてことは十分あり得る。だが僕としては二度と顔を見たくもない奴らだ。とにかく奴らの気配がしたらさっさと逃げてしまっている。


「まーったく弱虫じゃのう、ワイトは」


 呆れた顔でペケペーケ様が言うが、仕方ないじゃないか。あんな連中、顔を合わすだけでも不愉快なんだ。近寄らないで済むならそれに越したことはない。


 でもそうも言っていられなかった。


 地下二階にやって来た僕ら。さすがに魔物も強くなって来たのを実感していた。ゴブリンはあまり出て来ず、たまに出くわしても以前苦戦した青ゴブリンだ。それに加えてコボルトの相手をすることが多くなった。


「えい、えい、えーい」


 ユキさんは頑張っている。でも相変わらずへっぴり腰で剣をぶんぶん振り回すのは一緒だった。冒険者ギルドのお姉さんのところへも何度か通ったが、レベル1なのは一向に変わらない。


 お姉さんの話ではユキさんは超が付く程の大器晩成型らしい。だから焦っちゃ駄目と言われた。それなら良いのだが、剣の力があっても敵に苦戦する展開が多くなって来たのはつらいところだった。

本来は非戦闘要員である荷物持ちの僕が何とか支えることで先へ進めているが、その度にユキさんは申し訳なさそうな顔をするのだ。


「本当に申し訳ありません。私が不甲斐ないばっかりにワイトさんに苦労をかけてしまって」

 地下二階探索の休憩中、ユキさんはついに僕へ頭を深々下げて謝り出してしまった。


「そんなことないよ。ここまで無事に来ている訳だし。ユキさんだって経験を積んでいるからいずれレベルだって上がるよ」


 そうだ。ユキさんはこうして日々強い魔物を相手に戦っているんだ。僕だって頑張らなくちゃいけない。


 ペケペーケ様は相変わらず飴を舐めていて何も言わない。最近僕を見る目がどこか冷たいような気がする。やっぱり決心できない僕に不満があるのだろう。


 そこへあの自称勇者連中がやって来てしまった。


「誰かと思ったらワイトか。こんなところで遊んでいると邪魔だ。とっとと帰れ」


 いきなりそんな暴言を吐いて来た。他の連中もニヤニヤして見下した目線を僕へ向けてくる。

ムッとしたが僕は無視した。


「あなた達、失礼じゃないですか。私とワイトさんは一生懸命探索をしているのです。それをどうして、そんなひどいことを軽々しく口にできるんですか!」


 珍しくユキさんが怒った。


「ふん。何だ、弱っちぃ勇者じゃないか。この難関迷宮の入り口辺りで、冒険者面してウロチョロされると目障りなんだよ。とっととお家へ帰ったらどうだ?」


 その物言いに、僕はさすがに我慢できなくなって立ち上がった。


「僕もユキさんも頑張っています。あなた達の邪魔をしているつもりはありませんし、だから僕らの邪魔をしないでください」


 バイト中、一切抗弁しなかった僕の反論に自称勇者は少し驚いたようで、肩をすくめた。


「随分と大きな口を叩くようになったな。だけどよ、お前らがこんな浅い階でままごとやってる間に、俺らは最深階まで到達したんだよ。あとちょっとで破魔の聖剣が手に入りそうなんだ。それくらいのことをやってから一人前の口をきくんだな」


 自慢とも捨て台詞ともつかない言葉を吐くと、連中は立ち去った。


 僕はショックだった。ようやく地下二階に来たというのに、奴らもうゴール寸前まで行っていたのか。


 そりゃ冷静に考えればそうかもしれない。だけどユキさんの目標が失われてしまう。そう思うとどうして良いのかわからなくなった。


 いや……わかっていた。


「私、悔しいです。あんな人達に、私のせいでワイトさんまでが馬鹿にされて」


 ユキさんが声を震わせている。目には涙まで浮かべていた。


 違う、これはユキさんのせいじゃない。僕がウジウジ迷っているせいなんだ……。


 僕は決心をした。


 僕らはすぐに迷宮を出た。あんな不愉快な気分で探索を続ける気分にはなれなかったし、なにより僕の決心が変わらない内に行動を起こしたかったのだ。


「ばあちゃんいる!?」


 家に帰るなり祖母を探した。祖母は畑で雑草取りをしていた。


「なんだい、ワイト。藪から棒に」


 いきなりのことに祖母は不審に思った様子だった。


「ばあちゃん、僕は冒険者になる! それでユキさんを支える!」


 僕の後を追いかけて来たユキさんとペケペーケ様はいきなりの宣言に目が点になっている。そりゃそうだろう。それまで散々逃げて来た人生の選択を、いきなり選んだのだから。


「あの……ワイトさん?」


 ユキさんは挙動がおかしくになっている。何か自分の言葉で僕を惑わしてしまったのかと心配しているようだった。


 ペケペーケ様に至っては口をあんぐり開けたまま、呆然と立ち尽くしている。自分が散々言ってもチャンスをふいにして動かなかった。それなのに、急に僕が決心を決めたのが信じられないようだった。


 だけど祖母は僕の宣言に動じなかった。まるでそれを知っていたかのように、静かに頷いた。


「ああ。ワイトもそういう年頃になったか。そうかい、そうかい」


 そう言うと雑草取りをやめて家の中へ入って行った。僕に話があるという。

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