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第16話「勇者さんギルドに入ってなかった」

何故か前回、間違えて完結済みを押してしまっていました。

連載は続きますのでこれからもよろしくお願いします。

 市に並ぶ店を一通り見終わった僕ら。帰ろうかと思っているところ、広場の隅に奇妙な小さいテントが張られているのに気が付いた。冒険者や村人で賑わっている市の中では、珍しく客らしい人影が無い。


「あれなんだろう?」


「冒険者相談承ります、……と書いてありますね」


 夕飯までは時間がありそうだったので、二人して入ってみることにした。


「いらっしゃーい」


 そう出迎えてくれたのは、これまた随分と綺麗なお姉さんだった。ちょっと露出が高い衣装を着ており思わず僕は見惚れてしまった。


「ワイトさん!」


 ユキさんの声で僕は我に返った。危なかった……。


「あの、こちらのテントは何のお店なんですか?」


「良くぞ聞いてくれました。うちはね冒険者ギルドの出張窓口なのよ」


 冒険者ギルドはうちの村ではあまりメジャーな存在では無かった。基本的にフリーの個人事業主である冒険者が加入する取りまとめの組織だった。

僕ら一般人が冒険者へ依頼したい場合、ギルドを通して冒険者を派遣してもらう。そのための仲介団体と言えば良いのだろうか。


 以前、村の畑が魔物に荒らされて困っていた時に、村長さんがギルドのある町まで出て退治を依頼したことがある。ただ僕の村で関りがあったのはそれくらいで、どこか遠い存在だと思っていた。


「二人ともその様子じゃ冒険者? それならうちに加入しておいた方が色々良いわよ。福利厚生も充実してるし、色々特典もあるからね」


 そう言われても、僕は困ってしまった。ユキさんは国公認の勇者であり、それは自動的に冒険者でもあるので加入した方が良いだろう。だけど僕はあくまでアルバイトで荷物持ちをやっているだけなのだ。


「へえ、そんな組織があったんですね。私知りませんでした」


 やはりユキさんは知らなかったようだ。勇者でありながら冒険者ギルドを知らないというのも何やらチグハグな感じがした。だけど初心者レベルのユキさんならさもありなん、と僕は思った。


 お姉さんの説明によると、何でもギルド発行の手帳を持っていると提携している宿屋の宿賃や、関所の通行料が割引になったりするそうだ。他にも依頼をこなしてポイントを貯めると、より高報酬な依頼を受けられる。また場合によっては国や騎士団への仕官も斡旋してくれるそうだ。


 今後のことも考えてユキさんは加入することにした。本人としてはお金稼ぎではなく、あくまで魔王討伐が目的ではある。だがこれから旅を続けていく上で、どうしてもギルドの力が必要になって来ることもあるだろうという判断だった。


「はい、決まりね。じゃあそこのお嬢さん。この石に手をかざして。嘘をついていないか調べるから」


 ちょっと僕はびっくりしてしまった。そんなことまで調べられるのか。


「ふふふ、驚いた? でもね、これで現在の自分のレベルとかまではっきりわかるから」


 ユキさんはちょっと心配そうな顔をしたが、黒く分厚い石板に手を当てた。丁度右手のような手形の窪みが付いていて、白いユキさんの小さな手はすっぽり収まった。


 数秒間でそれは終わった。ユキさんだけでなく、何故か横に立っているだけの僕まで緊張してしまった。


「はい、ありがとう。『ユキ』さん、ね。それで登録しておくわね。あと、レベルの方だけど……残念。まだレベル1ね。大丈夫よ、これからどんどん経験を積めばすぐ上がるから」


 ゴブリンやモスキートクイーンの相手をしたけれど、駄目ってことか。どれだけ判定が厳しいんだろう。もしかしたら剣頼みの戦いばかりしているのが良くなかったのだろうか。


 そう考えていた僕だったが、話が今度は自分の方へ飛んで来た。


「君も登録するんでしょ?」


 当然と言わんばかりのお姉さんの言葉だった。僕は躊躇してしまった。まだ、この前のユキさんからの誘いを受けかねていたのだ。


 この村を出て行くには、そして広い世界を渡って行くには、冒険者になるしかない。でもその決心が付かない。本当に自分がやっていけるのか不安だった。


 ユキさんみたいに勇者試験に挑戦する勇気も、合格できるような才能も努力する力も無い。それに祖母を独り置いて村を出て行くことへの罪悪感もあった。


「ワイトさん、無理に登録しなくても良いのですよ」


 ユキさんは助け船を出してくれた。心はこの村にはとっくに無いのに、決心できない自分が何やら情けなかった。


「最初は結構迷う人も多いのよ。当分私もここへ出店してるから、気が向いたらまた来てね」


 そう言ってお姉さんは送り出してくれた。


 僕は一体どうしたいんだろう。それがわからない。家を飛び出す決心をしたユキさんのような決断力が僕に欲しかった。


「ほー、またやらかしおったか」


 お賽銭で買ったらしい棒付きキャンディを舐めながらペケペーケ様が僕に言った。口調はどこか突き放したような冷ややかな印象を持った。


 思えばこの前のチャンスもふいにしてペケペーケ様から叱られたんだった。そう考えると僕はとことこん決心できない性格らしい。


「ワイト、わしら神は何百年、何千年と生きられる。だがの、人間はそうはいかん。少ないチャンスをものにできんと、後で必ず後悔するぞ」


 その言葉に僕はぐうの音も出ず、打ちのめされてしまった。

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