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ピンクのかば  作者: 九頭竜 大河
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サーカス団に入りたい

草原にピンクのカバがいました。

 カバの夢は、サーカスに入ること。

 サーカスでトップスターになることでした。

 あーあー。僕はどうやったらサーカスに入ることが出来るんだろう。

 草原で一人考え事をしていると、どこからかやってきた禿鷹がその背中に止まりました。

 その禿鷹が言うのです。

 「ねえねえ知ってるかばさん?今町にサーカスがやってきているんだよ?君は見たことがあるかい?」

 「へえ、そうなんだ。それは是非見てみたい。僕はサーカス団に入りたいんだ。」

 実はかばはサーカスを見たことがありませんでした。

 ただ、サバンナの仲間たちから聞かされる輝かしい話の数々がかばをその気にさせているのでした。

 かばの話を聞いた禿鷹はおかしそうに首を傾げました。

 「サーカスに入りたいだって?本気かい?」

 その反応があまりに意外で、かばは禿鷹に尋ねました。

 「どうしてだい?サーカスに入れば、煌びやかな衣装を着て、華やかなステージに立って歓声を浴びて、誰からも愛されるんじゃないのかい?」

 禿鷹は目を丸くしてかばの話を聞いていましたが、「それじゃ一度サーカスがどんなものか見てくれば良い。」と言って飛び去ってしまいました。

 「サーカスが町に来ているのか。」

 かばは町まで歩いていってみることにしました。

 町まで向かう道すがら、がりがりに痩せこけたライオンの親子に出会いました。母ライオンは子ライオンを背中に乗せ、よろよろと歩いていました。

 「どうしたんだい?そんなに痩せて。」

 気になったかばは母ライオンに尋ねました。母ライオンは質問には何も答えずに逆に聞き返してきました。

 「いったいどこへ行こうっていうんだい?こっちの方向にはなにもないよ。」

 「そんなことはない。僕はサーカスを見に行くんだ。今町にサーカスがやってきているんだよ。君、知っているかい?」

 サーカスという単語を聞いただけで、母ライオンの顔はわかりやすく曇りました。

 「サーカスだって。あんた、サーカスを見に行くのかい?」

 「そうだよ。サーカスは素晴らしいんだってみんなに聞いたんだ。僕はサーカスに入って、いままで僕を馬鹿にしてきた奴らを見返したいんだ。僕はチーターのように早く走れるわけでもないし、ライオンのように強くかっこいわけじゃない。僕はただの僕でしかないんだ。僕はスターになりたいんだよ。」

 「へえ、そうなのかい。それじゃあ好きにすると良いさ。」

 母ライオンはそれ以上かばとかかわりたくないようで、さっさと行ってしまいました。

 母ライオンの体のあちこちに、鎖の痕や、鞭でぶたれた痕などがありましたが、かばは気づきませんでした。

 かばはそれからも歩いて、歩いて、ようやく町にたどりつくころには夜になっていました。

 夜であっても、町からは明かりが発せられ、昼と間違うほどにきらきらと輝いていました。その中でもひときわ明るい場所に、サーカスのテントはありました。

 「こんにちは。」

 テントの入り口まで行くと、受付に立っていた人間が話しかけてきました。

 「こんにちは。」

 かばは挨拶を返すと、周りを見渡しました。

 どこもかしこも人間だらけで、動物の姿はありません。

 かばの知るこの町は、昼も夜も動物と人間が和気あいあいと暮らしている町でした。

 しかし、かばは不思議がりませんでした。

 みんなきっともう寝てしまったのだと思いました。

 「かばさん、今日はどういった御用ですか?」

 「サーカスを見に来たんです。僕、サーカスのトップスターになりたいんです。」

 「ほう。」

 かばの返事を聞くと、男は黒いスーツで覆われたでっぷりとふくれた腹を突き出しました。

 「それならば、団長に会わせましょう。きっとあなたのことを気に入るはずだ。」

 「え?」

 それはかばにとってとても意外な言葉でした。

 誰かに気に入られるということを、これまで経験したことがなかったからです。

 いつも、かばはみんなに退けられていました。

 何も悪いことをした訳ではないのに、誰からも嫌われていました。

 「あんたの入った川の水なんて飲みたくない。」

 動物たちからはいつも冷ややかな目で見られていました。

 だからこそ、かばはとっても嬉しい気持ちになりました。

 夢にまで見た憧れのサーカス団に、喜んで受け入れられるかもしれないのですから。

 「是非、団長さんに会わせてください。」

 かばはきらきらと目を輝かせて言いました。

 「では、こちらのどうぞ。」

 男は右手でテントのすそをまくって、かばを招き入れました。

 「こちらです。」

 ずんずんと歩いていく男の後ろを、かばはついていきました。

 テントの中は橙色の光で明るく、ほんのりと暖かく、どこからか楽しげな音楽が聞こえてきて、かばにとってはとても居心地の良さそうな場所でした。

 

 「いいんですか?僕を、サーカスに入れてくれるんですか?」

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