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日本異世界始末記  作者: 能登守
2026年
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抵抗 前編

『よさこい3号』最後尾車両


 先頭客車の乗客から私有の武器が返還されている頃、最後尾車両では、斉藤達が持ち込んだ物を並べて浅井二尉は呆れ返っていた。

 鉄道公安官の2人もこれが何のか理解できなかったらしい。


「てっきりおもちゃかと」


 女性公安官の建川は困惑している。

 実際の物を見て浅井が思ったのは、模型か夏休みの自由研究である。


「間違いなく使えるんだな?」

「使い捨てだがね。

 まあ、4発が限界かな?」


 斉藤は自信満々だ。

 サークルのメンバーが問題の物体を組み立ている。

 手順の確認を取っていると、前方車両から公安主任の久田がやってくる。


「来ましたよ、ケンタウルスがいっぱい。

 マッキリーとトーヴェのテロと同様です」

「安否メール通りだな」


 列車の乗員、乗客達はすでにテロの情報は伝わっていた。

 各々が身を守る準備を始めている。

 ヒルダも護身用のレイピアを抜いて宣言する。


「こちらも歓迎の準備は整いましてよ」

「よし、戦える奴等を配置に付けろ」






 王都ソフィア

 第17即応機動連隊司令部


 第17即応機動連隊は王都ソフィアにて、各分遣隊を派遣する基幹部隊である。

 すでに半数もの隊員を分遣隊に派遣したが、残りの半分はこのソフィアに駐屯して、近隣の盗賊や皇国残党、モンスター退治を一手に引き受けている部隊でもある。

 その司令部に次々と訃報が届けられる。

 所用で留守にしていた連隊長碓井一等陸佐は、司令部に帰還後の幕僚達からの報告の数々にこめかみに青筋を立てている。


「マッキリーで朝倉三佐が殉職されたとの報告がありました」

「トーヴェで大林陸曹長の戦死に続き、加藤二等陸士が内臓破裂で死亡したとの報告がありました」


 机の上に隊員の訃報や被害の報告書が山と積まれていく。


「どこもかしこも馬、馬か……鉄砲玉に出入り、列車強盗とは恐れ入る。

 最近、馬にケンカ売られるような事態はあったか?」

「南部で装甲列車がケンタウルスの略奪集団を攻撃した事例が2週間ほど前にありました。

 その報復ではないかと思います」

「その件は総督府が役人送って、シルベール伯爵と交渉中だろ? 

 交渉中に手を出して来やがったのか? 

 あと鉄道公安本部から要請の件はどうなった」

「マッキリーの連中が朝倉三佐の敵討ちだと、Mi-8に普通科1個小隊が乗り込み現地に向かっています」


 自分の留守中でも対応していた幕僚達に満足する。


「だがこの出入りの馬頭はなんだ?

 こんなのが今までノーマークだったのか?」

「その件に付きましては、王国外務省が総督府に取り次いで欲しいとの連絡がありました。

 あちらが何やら情報を持っているようです」






 大陸東部

 東西線沿線


 東西線、『よさこい3号』先頭車両は当然機関車である。

 運転台には機関士と助手が、交代要員も含めて四名が乗り込んでいた。

 昔は3名で運用していたが失業者対策と労災の問題がそれを許さなかった。

 機関士大沢は最初にバリケードを発見すると、列車にブレーキを掛けて停車し、助手を車掌に知らせに行かせた。


「まずいな司令車から銃を持って来い」


 2両目の炭水車の梯子を登って、2両目の司令車に向かう。

 司令車には列車乗務員の待機室や通信室、食料や水の保管庫、武器庫、発電機が置かれている。

 話を聞いた車掌の岡島は


「鉄道公安本部に電話だ。

 それと乗客に武器の返還と窓のシャッターを閉じさせろ」


 もう2人の車掌平田が受話器を手に取る。


「こちら『よさこい3号』、大規模な襲撃を受ける可能性有り、線路上に石を積まれ進路を防がれた、救援を求む。

 襲撃者はケンタウルスが数十頭、頭だよな? 

 数十人か、数十匹かな?」

「どっちだっていいさ」


 平田は武器庫から猟銃を取り出している。

 何れも散弾銃でシトリ525だ。


「4挺を機関車に2挺は我々が使う。

 森山くん達の2挺と後尾車両の建川さん、久田さんの分」


 銃を渡された車内販売員の女性、森山と鉄道公安官久田にも銃が渡される。


「あの、やはり私達も?」

「訓練は受けてるだろ?

 お客様と自分の身の安全は守るんだ」


 国鉄職員としての公務員の義務でもある。

 機関車の運転台では機関助手達が、炭水車の中や運転台の壁に身を潜めて手渡された銃に弾込めをしている。


「おやっさん……」

「情けない声を出すな。

 1時間もしないうちに鉄道公安本部や自衛隊から援軍が来る。

 それまで持ちこたえればいいだけだ。

 開通当初は、山賊だの帝国残党だのゴブリンだのが襲ってきて蹴散らしてやったもんだ」


 大沢の言葉に機関助手達が勇気付けられる。


「おやっさん来ました!!

 左右に別れて、弓をこちらに向けてる!!」

「奴等は密集している。

 狙いなんぞいらんから、通過する音が聞こえたら銃口だけ隙間から出して、とにかく外にぶっぱなせ!!

 体を壁から出すなよ?」


 大量の蹄の音が接近を告げている。

 左右に2挺ずつ散弾銃。

 ケンタウルスの集団が、最初の1頭が炭水車に到達すると一斉に発砲された。

 至近距離から互いに効果範囲がカバーしあうように放たれた為に、ケンタウルス4頭が転倒、3頭が死亡し、1頭が後続のケンタウルス達に踏まれ死亡した。


 攻撃されたことを悟ったケンタウルス達は一斉に上半身を後ろに捻り、前進しながら騎射を敢行してくる。


「おやっさあ~ん!?」

「馬鹿、頭あげんじゃねえ」


 立ち上がろうとした助手の服をつかみ引きずり倒す。


 トルイは倒された戦士達が起き上がらないことを憂慮を覚える。

 だがまずは前進を優先させた。


「4騎ずつ残して前進だ!!」



 司令車両では平田と岡島が銃眼から銃を射っていた。

 司令車両はモンスターや武装勢力の襲撃に備えて窓はなく、壁は鉄板を貼り付けてある。

 外の状況は外部カメラで確認できる。

 狙いは外部カメラから確かめたので、機関車で不意打ちを受けたトルイ達は少し距離を取っていたが、右側で3頭、左側で2頭が撃ち殺される。


「あの穴に向けて一斉射!!」


 ケンタウルスは何れも弓の名人である。

 鉄張りしてある司令車両とはいえ、一ヶ所に20本もの矢がほぼ同時にに命中すれば、2、3本は壁に刺さって車掌達を驚かす。

 平田は驚いて銃から手を離して後ろに転がっている。


「だ、大丈夫か」

「ああ、当たってはいない、すまない」


 だがケンタウルス達の武器は弓矢だけではない。


「やれ」


 左右から3頭ずつが紐に球形の物体をくくりつけて投擲してくる。

 車両に当たると同時に爆発する。

「爆弾!?」

「馬鹿な、そんな物が使えるのか?」


 幸い司令車両には穴は空いてない。

 外側に幾つか燃えてる部分はあるが、極僅かな損害だ。

 だが銃眼や矢で開けられた穴から幾つかの物体が侵入し、壁や床を破壊した。

 迂闊に壁際に近付けなくなった。


「外部カメラも破壊されたか」


 傷ついた穴には、ケンタウルス達の馬力とスピードで威力を増した破城槌を両側から叩きつけてきて穴が拡大されていった。




 最後尾車両


 望遠鏡で前方車両の戦闘を覗き見てた斉藤は眉を潜める。

 各客車の銃眼からも乗客が銃撃を加えているが、素人の銃撃に警戒を悟って、距離をとるケンタウルスにはなかなか当てることが出来ていない。


「まずいですな」

「そうですの?」


 望遠鏡をヒルダに渡すとサークルスタッフのメンバーを集める。


「諸君、あれはてつはうだ」

「てつはう?」


 ヒルダも混じって聞いてくる。


「「てつはう」は鉄や陶器の容器に火薬を詰め込み、導火線で火をつけて相手に投げつける擲弾です。

 巨大な爆裂音をたてて爆発するので、人馬がその音に驚いたと記録されていますが、それほどの破壊力はありません」

「何が不味いの?」

「ネタが被りました」


 斉藤とヒルダのまわりでもサークルのメンバーが座席を車両から取り外して、即席の砲座やバリケードを作っていた。

 座席を2つ重ね合わせて紐で縛る。

 問題は砲身だ。

 だがそこに和紙を塗り作り上げた紙の筒を、重ねた座席の真ん中にセットする。

 すでに内部に火薬と導火線は仕込んでいる。


「ネタは被ってるからもう一工夫、やれ!!」

「座席、後で弁償が必要かしら?」


 左右に2門ずつ。

 座席の砲台は、紙砲の発射の衝撃を可能な限り固定して狙いをぶれさせないためだ。

 紙砲の中に装填された日本版てつはうが四発発射される。

 てつはうは、こちらに向かってくるケンタウルスの集団内部の足元にそれぞれ着弾する。


「鎌倉武士なら馬がケガした程度かも知れないが、連中は人馬一体。

 さて、どれほど効果があるか?」


 斉藤が望遠鏡で確認すると、負傷して倒れたケンタウルスが八頭。

 反対側も六頭が負傷して倒れている。


「死んでないみたいね」

「動けなくなれば上等です」


 だが爆煙の中から10頭ずつのケンタウルスがそれぞれから飛び出してくる。

 機関車や司令室への攻撃していたケンタウルスは留まっている。


「怒らせたみたいですから客車に立て籠りますよ」

「紙砲はいいの?」

「どうせ試作品であと一発しか撃てません。

 さっさと逃げますよ!!」


 紙砲を補強していた座席はボロボロになっている。

 紙砲がどうなったかは見るまでも無いだろう。

 大急ぎで斉藤やヒルダ、サークルのメンバーは隣の客車に逃げ込んでくる。


「予定通りこっちに引き付けたから、浅井様は辿り着けたかしら?」






 4号車


 浅井二尉は車両内部を姿勢を低くして移動し、司令車まで後一両のところまで来ていた。

 持っている武器はマカロフ拳銃一挺と途中で取り外した座席。

 四号車の連結部から屋根によじ登る。

 司令車は先程から爆発にさらされていたが、意外に破損は少ない。

 だが破城槌やてつはうが交互に叩きつけられて、穴が空くのは時間の問題だろう。

 屋根の上から先ず右側のケンタウルスを始末することに決めた。

 ケンタウルスの腰に紐で括りつけられたてつはうに、9mmマカロフ弾を三発命中させてあたりを爆発させる。

 そのまま破城槌を持っていた四頭にも銃口を向けて発砲する。

 重量物を持っていたケンタウルス達は回避行動も取れずに3頭を射殺、1頭が地面に倒れ伏す。

 予備のマガジンに交換して、てつはうを持っていた2頭も始末した。


「残り6発」


 浅井の存在に気がついた左側のケンタウルス達が、矢やてつはうを放ってくる。

 浅井は屋根まで持ち込んだ座席を盾に移動し、司令車両の屋根に飛び付く。

 だが幾つかのてつはうに仕込まれていた土器の破片が、座席の隙間から背中や足に当たる。


「痛……」


 幸い刺さりはしなかったようだ。

 叫びたいのを我慢して、手近にいた破城槌を持ったケンタウルス2頭に残りの弾丸を全部叩き込んで射殺する。

 半分は八つ当たりだ。

 槍に持ち変えたケンタウルスが屋根の上で転がる浅井を狙うが、屋根の扉を開いた平田が散弾銃で槍持ちを射殺し、岡島が浅井を車内に引き摺って中に入れる。


「状況は?」


 ようやく一息付けるが休む暇はない。


「機関車両に8頭にこちらは4頭、最後尾車両に25頭までは確認できてます」


 司令車両には各車両からの内線から報告が来ている。


「こちらは悪い知らせだ。

 拳銃の弾がもう無い」


 岡島と平田は顔を見合せて苦笑する。


「ご安心をこちらも弾切れです。

 でも預かってたものがありましたよね?」

「ああ、そいつを取り来た」


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― 新着の感想 ―
[一言] 自衛隊が間に合わなければまとめてDAM!ですね。
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