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日本異世界始末記  作者: 能登守
2027年
60/266

プラットホーム型要塞『コロンビア』後編

 第7桟橋


 海上自衛隊に割り当てられた第7桟橋では、2隻の潜水艦が停泊していた。

『わかしお』、『ふゆしお』の2隻である。

 はるしお型潜水艦『わかしお』は、2013年に一度除籍された艦だ。

 2015年に解体されるはずだったが、日本の異世界転移に伴い解体は中止となった。

 転移4年に大陸との戦争に伴い、再就役を果たした艦だ。

 各艦の上部艦橋から拳銃や小銃を持った乗員が、桟橋から上陸するイカ人の兵士達に発砲して逃げ遅れた乗員や『コロンビア』の基地要員が退避する時間を稼いでいる。

 彼等の制服も吐瀉物を被って、黒く汚れている。

 拳銃で応戦しているが、時々銛が飛んで来るので身を隠して避けなければならない。


「くそ、忌々しいな、なんだこの液体は!!」


 粘着質な液体の為に動きずらくなって苛つかせる。


「航海長これは多分」

「何だ?」

「イカスミです」





 海上プラットフォーム要塞『コロンビア』


『コロンビア』内部では、侵入してきたイカ人達との戦闘が続いていた。

 要塞防衛を担当する海兵隊や退避出来なかったり、持ち場を死守する為に残った要員が応戦を継続している。

 そこはアメリカ人だけあって小銃や拳銃の配備ぶりは充実していて、奇襲による混乱はすでにおさまっている。

 そこには要塞内で休息を取っていた海上自衛隊第3潜水艦隊や北サハリン第3潜水艦隊の乗員も含まれる。

 桟橋に付けていたり、ドック入りした艦の乗員は要塞内で上陸していたのが仇となった。

 ドック内はともかく、桟橋に停泊していた艦は乗員の半分が要塞に上陸したことにより、動かせなくなったからだ。


「近接戦は避けろ。

 イカスミは予想以上に厄介だ」

「手隙の要員を武装させて対応させろ。

 第7桟橋に人手が足りない」

「武器の無い隊員は消火栓を使って、イカスミの洗浄に専念しろ」


 CICルームからオペレーター達が、矢継ぎ早に各所に指示を出す。

 司令官ブローワー少将はようやく膠着状態に持ち込めたことに安堵する。

 内部は落ち着いたが外部はそうはいかない。

 外部カメラはほとんどイカスミを塗りたくられて機能していない。

 レーダーやブイによる観測情報、通信による報告を頼りにCIWSや62口径76mm単装速射砲で、敵大型生物に対応しているが命中打を与えられていない。

 洗浄された外部カメラの機能も徐々に回復しているが、すで近距離にまで接近されていると報告に上がっている。


「こ、攻撃を中止して下さい!!」

「今度はなんだ?」

「『シヴァティテル・ニコライ・チュドットヴォーレツ』と、『モゴーチャ』の2隻が敵大型生物の触腕に捕まりました!!

 攻撃が両艦に当たります!!」


 ドック入りの順番待ちをしていたキロ級潜水艦の2隻だ。

 基地の周辺で待機させて並ばせていたのが仇となった。


「続いて、『わかしお』、『ふゆしお』も触手に捕まりました」

「砲撃中止、様子をみる」


 2隻もの潜水艦が1匹の巨大生物に引き摺られて操艦を失っている。




 はるしお型潜水艦『わかしお』


 二本の触手触腕に巻き付かれた『わかしお』は、機関を全開にして振り切ろうとしたが、正面に『シヴァティテル・ニコライ・チュドットヴォーレツ』がいて身動きが取れない。

『シヴァティテル・ニコライ・チュドットヴォーレツ』の正面にも『コロンビア』があって、動きが封じられた。


「くそ、考えてやがる」

「艦長、さらに後方から別の大型海洋生物が来ます」


 巨大赤エイ『黒き闇に咲く聖騎士』号がその背中に岩で出来た城を乗せて『コロンビア』に激突する。

 激突の衝撃と大量の海水が『コロンビア』を大きく揺らすが、その巨体を支えている海底に直接固定した鋼鉄のレグは持ちこたえた。

 だが巨大赤エイ『黒き闇に咲く聖騎士』号の背中の城から跳ね橋の橋桁が降ろされて、『コロンビア』のデッキにイカ人の兵士達が雪崩れ込んで来る。

 このデッキから銃撃を行っていた海兵隊は、先程の衝突の震動で多くが転がったままだ。

 対応に遅れ、幾人かの海兵隊隊員は銛で突き殺された。

 先程の海水で外部カメラのイカスミの大半が洗い流されて、近距離に設置されていたCIWSの発砲が始まる。

 橋桁を破壊され、城門に向けられた銃撃がこれ以上の侵入を防ぐべく発砲されたが、数十の敵兵の侵入を許してしまった。

 器用にも触腕や触手をデッキの手摺に掴まらせて、他のデッキにラペリングの様に侵入してくるイカ人の兵士もいる。





 CICルーム


「第3、第4デッキに敵侵入、交戦に入りました」

「失態だ、中央階段だけは死守しろ。

 そこを奪われたら各デッキの将兵が分断されるぞ」


 ブローワー少将は肩を落とすが、『コロンビア』に接舷した『黒き闇に咲く聖騎士』号への砲撃を命じた。

 8門の62口径76mm単装速射砲が次々と発砲され、城壁を砕き、城を崩壊させ、『黒き闇に咲く聖騎士』号の背中を爆発させて燃やしていく。

 城内に残っていた兵士達は海中に飛び込もうとするが、大半がCIWSや各デッキの海兵隊による銃撃の餌食になって息絶えていく。

 なんとか海中に逃れた兵士達は橋頭堡として確保されたウェルドックや第7桟橋の味方と合流する。


「後はウェルドックの化け物だけか」

「司令、『おうりゅう』の有沢艦長から通信。 」

「繋げ」


 司令席に備え付けられた受話器から『おうりゅう』艦長有沢二等海佐の声が届けられる。

 受話器から伝えられた有沢二佐からの作戦提案にブローワー少将も冷や汗を足らす。


「わかった、存分にやれ」


 受話器を置くと、命令を待っているオペレーター達に指示を出す。


「第9、第10デッキは放棄。

 放棄が完了次第、全隔壁を閉鎖。

 残っている者達に退避を命令しろ」






 潜水艦を盾にしたハーヴグーヴァは、海中からウェルドックに胴体にあたる外套腔を捩じ込んで砲撃を封じていた。

 だがハーヴグーヴァは、この海上の巨大な建物を攻めあぐねていた。

 残った触手を何度も壁や柱に叩きつけるが、金属で出来ていて容易には破壊できない。

 侵入した兵達も人間達の飛び道具に前進を阻まれている。

 大量のイカスミで人間達を押し流して地道に攻めるしかない。

 ようやく小賢しくも攻撃してくるCIWSを、触手一本犠牲にしてもぎ取ったところで触腕に多少の違和感を感じた。

 触手に痛覚は無いが、獲物の動きを感じる感覚は存在する。

 触腕は潜水艦『わかしお』に巻き付くが、乗員達が艦内に装備品として置かれていた斧で触手を斬り始めたのだ。

 さらに傷口に拳銃や小銃を浴びせて拡大させる。

 触腕自体は数mの幅が有るので簡単には落ちないが、『わかしお』を掴む触手の圧力は弱まりつつある。

 さらに奇妙な物体をその傷口に塗りはじめた。

 準備が出来たところで有沢艦長が乗員を呼び戻す。


「艦内に戻れ!!

 爆破用意……爆破!!」


 触手の傷口に塗り込まれたプラスチック爆弾C4が爆発する。

 潜水艦の任務は特殊部隊を送り届けることが多くなった為に用意されていた代物だ。

 海上自衛隊最古参の潜水艦『わかしお』も艦体に多少の損壊を受けたが、浮上航行には問題は無い。

 触手は爆発で消し飛び、艦は微速だが動き出す。


「取り舵45、正面の『シヴァティテル・ニコライ・チュドットヴォーレツ』にぶつけるなよ

 微速前進、残った触手は気にするな。

 魚雷1番、2番発射用意」


 海上都市での攻撃で最後に残された魚雷二本を装填した発射管に海水が注水されていく。

 浸水する艦内で有沢艦長が命令を下す。


「1番、2番発射!!」


 2本の魚雷は『コロンビア』に胴体を埋めるハーヴグーヴァへと真っ直ぐ延びていく。

 魚雷の威力を側近から聞かされていたハーヴグーヴァは、咄嗟に触手二本を盾の様に立たせて1本目の魚雷を受け止める。

 その瞬間に爆発した魚雷は、2本の触手を吹き飛ばした。

 その爆発の横をもう1本の魚雷がすり抜けて、ハーヴグーヴァの顔に向けて直撃した。

 爆発の炎はハーヴグーヴァを包み、『コロンビア』自体にも破損と火災を発生させた。


「やったか?」


『わかしお』の艦橋から先ほどまで斧を振るっていた副艦長の中井三佐が双眼鏡で確認を取ろうとする。

 次の瞬間に彼の上半身は無くなっていた。


「副長?」

「か、艦内に戻れ!!」


 ハーヴグーヴァは生きていた。

 全身が焼けただれていても残った触手を伸ばして、『わかしお』に向けて振るったのだ。

 ハーヴグーヴァに触手や触腕を巻き付かれていた他の潜水艦が一斉に動きだし、力が弱まったハーヴグーヴァの巨体を『コロンビア』から引き摺り離した。


「全砲門開け、目標、敵大型生物。

 撃ち方始め!!」


 ブローワー少将の号令で、『コロンビア』の攻撃可能な搭載砲や銃座の攻撃がハーヴグーヴァに降り注ぐ。

 炎上する巨大な深海の悪魔が、完全に見えなくなるのに数分も掛からなかった。


「要塞内の残敵を掃討しろ。

 ようやく終わりだ」




 第7桟橋

 はるしお型潜水艦『わかしお』


 第7桟橋に係留されていた『わかしお』では、銃弾が底を尽き艦橋のハッチまで敵兵に押し込まれていた。

 ハッチを閉じようとはしたのだが、イカスミが固形化して上手く閉まらなかったのだ。

 斧や銃剣で艦内での侵入を防いでいたが、負傷者が続出していた。


「銃声?」


 限界を感じていた乗員の耳に銃声が聞こえる。

 銃声は味方が近くまで来ている証だ。

 気力を取り戻した乗員達の抵抗が激しくなる。

 消火器にゴミ箱、分度器に三角定規まで使えるものは何でも使った。

 イカ人の侵入が止まり、艦内にいたイカ人を昏倒させると、ハッチから出て周囲を見渡す。

 艦の外では海兵隊によってイカ人の兵士達が撃ち倒されていく光景が目にはいる。


「ああ、終わったんだな」






 海都ゲルトルーダ


 海上自衛隊第2潜水艦隊と連合潜水艦隊の攻撃がゲルトルーダに行われていた。

 先日の戦いで珊瑚の壁に空いていた穴の補修は終わっていない。

 18隻の潜水艦による魚雷の集中攻撃が敢行され、都市内部に侵入した魚雷が各地で爆発を起こしていた。

 空からもハープーンが飛び、高層の建物を破壊していく。

 ゲルトルーダには指導者も兵も残っていない。

 一方的に破壊された攻撃に曝されたゲルトルーダは抵抗も降伏も出来ず廃墟と化していった。






 アウストラリス大陸東部

 新京特別区大陸総督府


「海都ドミトリエヴナ、エフドキヤ、ゲルトルーダの攻略を持って、多国籍軍司令部は作戦の終了を宣言しました。現状の死傷者ですが、米軍32名が戦死、負傷者102名。

 自衛隊は戦死3名、負傷者26名。

 北サハリン軍、戦死7名、負傷者37名に及びました。

 以後の三海域の平定はシュモク族に一任します」


 秋山補佐官の報告に、秋月総督は首を傾げる。


「予想以上の損害だな。

 しかし、シュモク族かい?

 彼等に任せて大丈夫なのかね」

「すでに敵のまともな戦力は全滅しています。

 三海域は『エンタープライズⅡ』が修理と平行して監視を行い、

 多国籍軍から援軍も出ますので問題は無いでしょう。

 すでに降伏してきた集落もあり、そこから兵力を徴発することで、反抗勢力の弱体化を図る計画もあります」


 平定した海域はシュモク族による伯邦国の領海となる。

 大陸のケンタウルス自治伯を参考にしたものだ。

 色々議論はあったが、現在の日本ではシュモク族を同じ国民として扱うのは無理があり、独立勢力として扱うことに落着した。

 シュモク伯邦国を衛星国とする間接支配の方が都合がよかったのだ。

 まだ他の海棲種族も残っているので、シュモク伯邦国が日本の盾として維持できる程度の力さえあれば問題はないのだ。

 一応、他の海棲種族には、シュモク族から使者を送り、外交的に対処する予定だ。

 何れも日本から戦力を派遣できる位置には無いので、敵対しなければ干渉しない方針だ。

 自衛隊にしても相当数の魚雷の消費で、暫くは潜水艦隊を動員出来ないのが現状なのだ。


「まあ、そちらは本国の連中に任せていればいい。

 こちらの準備は出来ているのか?」

「はい、新香港と呂栄にクルーズ船50隻と4万人の援軍の集合が完了しました。

 予定よりは規模が小さくなりましたが近日中に出港します」





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