マンハンター
大陸東部
スワロフ伯爵領
貴族と言っても全員が城持ちというわけでは無いが、伯爵級になると小なりに城を持つ。
スワロフ伯爵家の城に日本からの先触れが届いていた。
「領内の街道に自衛隊車両の通行許可が欲しい?」
「はい、少々特殊な車両でして、汽車や通常の幹線道路で運ぶと他の交通に支障がありまして、迂回路にあるこの領を通らせて欲しいのです。
予定では余裕を持ちまして40日程、関所通過時の料金は年貢から差し引くので如何でしょう?」
「まあ、通過だけなら車両の重量に規定があるが問題なかろう」
伯爵は積載されている弾薬や荷物よりも車両自体がはるかに重いとは考えていなかった。
日本からの要請なら保証人としては申し分無い。
先触れの大隅三等陸佐は新京の陸上自衛隊大陸東部方面隊総監部の幕僚で身分的にも礼を尽くされている。
最近の貴族の認識では自衛隊の三佐は男爵相当と見られている。
警察なら警視だが、保安官は同格に思われている。
戦車隊が那古野市に大挙を押し寄せて問題となっていることは、新京屋敷の家族からも聞いていた。
スワロフ伯爵も戦車自体は神居市に駐屯する第16戦車大隊の10式戦車Eは見たことはある。
その砲撃の衝撃波には驚かされて立ち上がってしまったのは家族にも秘密にしている。
また、賠償にあたる年貢が戦車の通行程度で軽減されるなら安いものであるとも思えた。
「数人の騎士を誘導と監督の為に派遣するが、よろしな」
「はい、当然のことでしょう。
領内での糧食はこちらで用意しますので、野外における親睦も予定してます」
監督は監視を言い換えただけたが、親睦を深めると言われては大人数を派遣できない。
「細かい事はおいおい詰めていこう」
「はい、今回の実りある会談に応じて頂きありがとうございました」
スワロフ伯爵家の城を後にした大隅三佐は、新京から乗ってきた高機動車に乗り込む。
「出してくれ」
運転手の小池三等陸曹に指示すると、車内で携帯電話を充電をしようとケーブルを繋ぎ始めた。
「年代物ですね。
まだ、使えるんですか?」
「バッテリーの劣化が激しいが、ケーブルを繋げばなんとかな」
携帯電話はこの世界に転移して以降、最新機種が発売されていない。
在庫や倉庫やゴミ捨て場等の都市鉱山から収集された旧機種を修理して騙し騙し使われている状況だ。
ネックとなっているのはやはり、リチウムイオン電池を使用したバッテリーだ。
ニッケルやコバルトは大陸でも鉱山を確保しているが、リチウムに関しては発見出来ていない。
リチウムイオン電池のバッテリーは概ね500回目の充電後に劣化していく。
リサイクルなどにより、回収も行われているが、技術的、経済的に再使用率は5%に満たないのが現状だ。
政府としても希少資源のリチウムの消費を抑える為に充電マナーとして、充電は八割程度に抑えて過充電は避ける。
「繋げたままの使用はしない、ですよ三佐」
「報連相はそうもいかないさ」
20年近く使い続けた携帯電話だ。
修理には何度か出したが、ひび割れも多く、バッテリーの膨張も蓋を閉めれない程だ。
「本国は移民の完了させた都市の電話BOXを地方に移転させてるそうだ」
「こっちも都市にいる時は基本有線電話ですからね。
そろそろ携帯に関しては何とかして欲しいですね。
若い奴らはポケットベルを支給されて戸惑ってますよ」
総監部への報告はメールで済ませて、再び電源を落とす。
海水からのリチウム抽出も研究は進んでいるが、実用には至っていない。
研究の成果は海自のリチウムイオン蓄電池搭載型潜水艦にまわされている。
人気の動画配信も電話回線を利用したレトロなもので、移動しながらの配信などもっての他だ。
「打開できなければ我が国の通信体系も半世紀は逆行だな」
「電気自動車なんて夢のまた夢ですね。
せめてアラブ並み油田でも見つからないと」
「発電所自体も石炭式火力発電所が限界、電力の確保もギリギリだ。
原発なんか巨大モンスターリスクもある大陸では無理だ」
大型水棲モンスターやドラゴンまで確認された大陸で原発が破壊されたら致命的だ。
ましてや最近は下火だが皇国の残党軍もいるのでリスクは高い。
高機動車は関所で通行料を払い、日本領を目指す。
「大陸中の天領や領邦に関所が完備されてますね。
流通に支障はないんですかね?」
「それぞれの領邦が自己完結出来るように開拓されている。
故意に発展させないようになっているとは学者の見解だったな
寧ろ年貢の徴収でバランスを崩したのは我々だな」
日本が大陸に進出して、貴族達からの富の徴収と新京での留学というの名の人質はそれぞれの既得権益への打撃と新たに知識を得た次期当主達による領邦開発へと導かれた。
貴族家次期当主とその一族が領内一の知識人となり、皮肉なことに封建領主の立場を強化した。
日本のリベラル的NGO団体『大陸民主化促進支援委員会』は
『おかしい、なぜそうなった?』
『残念ですがもはや手遅れ』
『どうしてこんなになるまで放っておいたんだ』
『もう駄目だ、この世界』
と、嘆いてたりする。
「まあ、食糧の増産や鉱山開発が進めば悪くはないが、技術を渡しすぎる匙加減も難しいんだろうな」
「資源といえば三佐、本国の都市鉱山の噂知ってますか?」
「ああ、ハゲタカの連中のことか」
日本国
東京都 錦糸町
移民政策は日本本国全土を対象に都、道、二府、17県で実施された。
異世界転移後に食糧事情の改善の為に大勢の民が都市から離れたが、その後に引越しは大幅に制限された。
そして移民政策が実施されたが、大半の人間は食い扶持を得る為に大人しく従い、一部の人間は第1次産業従事者や公務員、宗教関係者、特別な技能を持つ者などが免除された。
しかし、それらに従わず移民対象から逃亡する者が多数出た。
移民作業に忙しく、それほど厳しくも取り締まりも行われなかった。
配給の対象からも外れるため農業貴族に小作人としてこき使われたり、犯罪者に身を落として更正師団送りになったりと様々な末路を辿っている。
そんな彼等が行き着いた場所が、最初に移民が行われた都市東京であった。
「移民が行われ地の家財はほとんど大陸に持ち込まれるか、富裕層に買取りされているが全てではないし、無数の家屋はそのまま遺されている。
そこから資源としてる物をかき集め、廃屋に住み着き、闇市を開き、歓楽街を造り上げている連中がいる。
奴らは自らをハゲタカと自称し、錦糸町に勢力を広げている。
ハゲタカを含む、不法都民の一斉検挙が今回の任務だ!!」
不法都民の取締りは『隅田川水竜襲撃事件』で旧江東区、旧墨田区の警官隊は多数の死傷者を出して、この地域の影響力は低下し、その後の移民で更に人数が減った。
自衛隊は職責が違うと関わりを断った。
移民本部を擁する国境保安庁物を人手不足と手をこまねいていた。
東京23区に組織されていた自警団はその組織が出きる前に移民が実施されて計画倒れになり存在していない。
錦糸町に展開した部隊は東京都保安機構、民間警備会社の警備員をみなし公務員とした委託治安組織である。
ようするに東京都公認の都保安官である。
警察はこの組織を苦々しく思っていたが、警察ではできない荒事専門と割り切っていた。
彼等は黒いボディーアーマにヘルメット、警棒と銃火器は持っていないが江東橋3丁目の不法都民を取り締まるべく動き始めた。
「ノルマは30人だ。
狩り過ぎるなよ、仕事がなくなるから」
仕事が無くなれば彼等も移民対象となることは全員が認識した。




