海と空の港
日本国
大阪府 東大阪市(旧八尾市)
陸上自衛隊八尾駐屯地
東大阪市は旧八尾市、旧松原市、羽曳野市、南河内郡の市町村と合併して再編された。
陸上自衛隊八尾駐屯地は、八尾空港内に所在していたが、転移後は陸自が空港全域を駐屯地とすることになった。
大阪府警航空隊や消防隊の航空隊には伊丹空港に移転してもらい中部方面航空隊や第3師団隷下の第3飛行隊が部隊規模を拡大させて駐屯している。
今日も滑走路や格納庫には主力の第3飛行隊の多用途ヘリコプターUH-2が12機、大型輸送ヘリコプター CH-47Jが3機が整備を受け、有事に備えている。
その光景に満足しつつ、第3師団師団長草鹿清三等陸将は八尾空港内のテラスで、羽曳野の郷土食材、油かすを使ったかすうどんを食べていた。
「現在、松戸市市民が移民を始めた新都市は丹南市と命名された。
謂れはこの東大阪市に合併された旧松原市に有った丹南藩だ。
丹南市は松戸市、東大阪市の移民を受けいれた後に西宮市の移民を受け入れ、10月頃に完了する。
あっちの方面隊司令は宮迫二等陸将だから市民の不安も少ない」
前任の第3師団師団長だった二等陸将宮迫延有は、大陸の大陸東部中央方面隊司令官として赴任しており、市民の不安を払拭する材料となっている。
また、西宮市も隣接した旧尼崎市、旧芦屋市を合併し、移民の準備を進めている。
「しかし、松戸の方は大変だったと聞きますが、決着は着いたんですか?」
中部方面航空隊田所勝三等陸佐もかすうどんを食べつつ、一向に続報が流れない『市川百鬼夜行事件』に首を傾げているが、さすがに草鹿三将の元に幾分かの情報は流れ込んではいる。
「首謀者と黙される呪術士を拘束したのはいいが、本人には呼び出されただけだから責任なんぞ知らんと言われてな。
将門公の娘と聞いた途端、追及しようとする千葉県警を宮内省と財務省が宥めるおかしな自体となっている」
事件の引き金となったのは、帰還派の自衛官なので、防衛省も火消しに奮闘する。
千葉県警は被害に遭った市民世論を味方に着けようとするが、財務省による移民特別手当てや防衛省による引っ越し援助で市民達は口を噤んだ。
移民の為の引っ越しや手続きで忙しかったことも大きい。
千葉県警は法務省も動かそうとしたが、容疑者に年齢を質問し
「ん~、五月ちゃん数えで一歳?」
と、答えて明らかに高校生くらいの少女に逮捕状が出せるのか、法律学者と民俗学者、魔術学園の研究者を招いて結論の出ない議論が繰り広げられた。
「誰だ、あんな馬鹿な芸を教えたの!!」
「可愛いからいいんじゃないすかね?」
さすがに異世界転移後に官僚になった若手は色々訓練されている。
「伝承の人物だから戸籍どころか実在も信じられていない」
「召喚により具現化したなら確かに数えで一歳は受け入れなくてはならなくなる」
「神の眷属ならば彼女はお稲荷さんの狐や天神さまの牛、春日大社の鹿のような神使ということになる。
人の法でそれを裁こうなどと畏れ多いことではなかろうか」
転移後は少年法も改正し、適用は義務教育の期間までと引き下げられた。
実際に未成年といえども経済破綻と食糧不足で、田畑から盗難を行う者が続出した。
食い扶持を減らす意味でも少年法が改正され、更正師団に放り込んだ。
さすがに皇国との最前線で全滅した第1更正師団では無く、戦争後期と南方大陸アガリアレプトにの戦線に投入されて壊滅した第2更正師団ではある。
現在も犯罪者は第3更正師団行きだが、さすがに数え1歳は無理がある。
学者達はそもそも少女が、法の適用対象である『人間』としてカテゴリーしてよいのか、議論を始めだし、議論は明後日の方向に脱線しまくり、法務省も匙を投げた。
おさまりがつかないのか千葉県警で、出席した県警本部長が、
「彼女は戸籍も無く我が国に滞在している不法滞在者である。
ならば国外退去処分が相応しい」
と、主張すると国境保安庁の川崎長官が、
「只今の千葉県警本部長の発言は職責を越えた謁見行為である!!
発言を撤回されたし!!」
と、一触即発の空気となった。
「財務省は大蔵省時代のトラウマが刺激され、宮内省からすれば大昔の貴人に類する人物で、神の眷属となれば各神社が黙っていない。
文科省は魔術学園に古来の術式を提示させて恩赦でいいんじゃないかと言い出す」
結局、平将門命を祭神とする神社が保釈金を出し、公安調査庁から保護監察官を出すことになり、彼女は自由を手に入れた。
また、彼女自身も千葉県にいずらい空気を察して、『千葉所払い』を自主的に受け入れた。
「保護観察では無く、保護監察ですか。
まあ、最低限首輪は着けておくということですか」
「ようするに『調布の相談役』みたいな国内ファンタジー路線のアドバイザーとして、国が確保した形だな。
マスコミが元気な時代なら叩かれまくったな。
大陸では復活してきてるらしいが」
「本国でマスコミ従事者なんて、真っ先に移民対象者ですしね」
かすうどん食べ終えた2人は視察場所まで歩いていく。
「今回の件を受けて、全国の警察、自衛隊を含む各機関に同様の眷属や神隠しの伝承が残る地を監視する様に命令が出た。
堺市の白蔵主、若宮葛ノ葉姫、泉南市の蛇王姫とかが大阪府の管轄だ。
この駐屯地も管轄地域の伝承を集めといてくれ」
概ね神社や寺の敷地なので、彼らの強力も欠かせない。
特に近畿地方は彼らの発言力が、自警団や政界にも伸びてきている。
雑談を続けながら二人は駐屯地に隣接するこども園、小学校2件、中学校2件の敷地を視察する。
市内の移民が完了すればいずれも廃校となるので、駐屯地の施設、敷地として接収するからだ。
「空港を接収した後だとさすがに広すぎるか?」
そんな疑問も感じるが、有効に活用しないとと視察に専念することになる。
北海道
苫小牧市 苫小牧港
自衛隊海上輸送群、海上自衛隊第1輸送隊、防衛フェリーが同港に集結していた。
「おおすみ型3隻で90式戦車は54両運べますが、残りは何両でしたっけ?」
海上自衛隊第1輸送隊隊司令の神田一等海佐は、陸上自衛隊第3戦車旅団団長吉岡陸将補は眉をしかめて
「46両だな。
防衛フェリーや海上輸送群は他の車両も運ぶので30両。
全部はやはり無理かあ」
旧第73戦車連隊を母体とする第3戦車旅団は、100両の90式戦車と3000名隊員が所属する。
他にも多数の車両が防衛フェリーに積み込まれており、隊員の家族や家財も客船や貨物船に乗船、積載されていく。
第3戦車旅団は遠く南方大陸アウストラリアスの植民都市丹南市に駐屯する為に北海道を離れることになる。
「二周目はドックの都合上困るんですが、移民船団の支援や護衛任務、大陸部隊への補給物資も今回の輸送でスケジュールに遅延が出てるんです」
「調整役の統合司令部も別件で忙しくて、対応が遅れてたからな。
旅団司令部付き戦車中隊、連隊司令部付きの車両と部隊を後発にまわして引き帰させる」
「旅団団長、連隊長が行かないんですか?
さすがにそれは示しが付かないでしょう」
そのとおりなのだが旅団長車はどうせ前線には出ないんだからと、整備士やメーカーの技術者達が好き勝手に技術を投入し、魔改造が施されている。
砲塔と車体前面を中心に複合装甲板を追加し、主砲が1.3mほど延長された。
それらの改良によって重量が増加したため、油気圧式とトーションバー併用サスペンションから外装タイプの油気圧式サスペンションへと変更された。
「まあ、王都でのパレードに間に合えばいいさ」




