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日本異世界始末記  作者: 能登守
2026年
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グルティア竜騎兵団 後編

 調査団一行は7つの村の調査、測量をどうにか終えて、マディノの街に戻ってきていた。

 鉱山局の松本が車両を入れた庭先で出迎えてくれる。


「お帰りなさい、あなた方が最後でした」

「状況は?」


 浅井は高機動車から降りて間髪入れずに問いただす。


「グルティア兵と石和黒駒一家が町の各所で睨み合ってます。

 代官所はグルティア兵に制圧され、逃げ延びた兵士や役人がこちらに。

 また、やはり石和黒駒一家が、女性達の保護を求めるとこちらに押し付けてきました。

 現在、市原女史に面倒みてもらってます。

 鉱山街の日本人達は避難所に誘導しました。

 駐在が数名と自警団が警戒に当たっています。

 我々も含めて三勢力がこの町で睨み合ってる状態です」


 松本の言葉に浅井は首をふる。


「4勢力です。

 各村で蜂起した一揆軍800がこちらに向かっています。

 自分はこれより旧子爵邸防衛の指揮を執ります」


 駆け出して行ってしまった浅井を藤井は目で追うが松本が話し掛けて来た。


「藤井課長、問い合わせのあった石和黒駒一家のだが、総督府から連絡があった。

 連中は移民じゃない密航者だ」


 グルティア騎竜兵団と睨み合う石和黒駒一家は、日本人の組員40名、ギルドに加盟した傭兵や冒険者30名を戦力としていた。

 ギルドホームである酒場や娼館や事務所としてのギルド本部、組員寮を街の一角に集めて守りやすいようにしている。


「代官所の役人や兵士達にこちらとの合流を呼び掛けましょう。

 代官が竜騎兵団に拘束されてるのならば連中を仲間に入れれば錦の御旗はこちらのものです」


 荒木の提案に勝蔵は悪くないと思っていた。

 武力はともかく、大貴族の権力と戦うには石和黒駒一家の公的な力はあまり強くない。

 だが代官所の残党の証言があれば十分に渡り合える可能性があった。


「兵士は一緒に戦ってもらうとして、役人に死なれるわけにはいかないからな。

 安全なアジトを提供しよう。

 そのへんは荒木に任せる」

「へい兄貴」


 細かいことは荒木に任せて、区画の入り口に築いたバリケードを視察することにした。

 十数人の組員や傭兵達がここを守っている。


「組長、グルティアの連中に動きは無いです。

 竜騎兵が15人、兵士が50名がこちらと睨みあってますわ」


 若頭、もといサブギルドマスターの北村がここの指揮を取っている。


「誰かギルドマスターって、呼んでくれないかな」


 少々悩みつつも双眼鏡で敵陣を観察する。


「やっぱり連中も銃を持ってるか。

 撃ち合いになったら不利かな?」


「マズルローダー(前装式)ってやつだから、一発撃ったら弾込めに時間掛かるんでしょう?

 でも歩兵の二人に一人、竜騎兵は全員持ってますな。

 はい、これが実物。

 娼館で身ぐるみ剥いだ奴から代金代わりに貰ったもんです」


 グルティアの紋章を付けた前装式弾込め銃を手渡されて観察する。

 そして、銃を持ってない若い組員に渡す。


「一発しか撃てないから大事に使え」

「は、はい!!」


 今から弾込めの仕方なんて教えても意味が無いだろうとそこは割り切ることにした。

 屋根から双眼鏡で、観察していた組員が声を掛けてくる。


「組長、何台かの馬車が街の外に出ようとして戻ってきました!!

 なんか街の外にえらい人数が集まってます。

 兵士じゃないですが、あれは農村の連中です!!

 手に農具や棒きれもって馬車を威嚇してます」

「なんだ一揆か?

 連中も仲間に出来そうか?」

「いや、無理だと思います。

 旗みたいのに打倒代官とか、こっちの言葉で書いてます」


「なんということだ、強硬突破しかないかな?」


 竜騎兵団団長マッシモは追い返された馬車からの報告にうんざりした声をあげる。

 マッシモの目的は戦闘ではなく、商品価値のある食料をグルティアまで送り届けることにある。

 幸い一揆軍は代官所がこちらの一味と思い込んでるので、代官所残党と組む様子はない。

 だが馬車の通れる街道に陣取られてるのは面白くない。

 さらに街中では街の権益を代表する自衛組織がこちらと対時している。


「まったく難儀なことを。

 だが、その程度の戦力で我らを止めることが出来ると思っているのか?」





 一揆軍は7つ村の若者を中心に約800人ほどに膨れ上がっていた。

 街から4方向に伸びる街道に200名ずつ、馬車や土を掘り返し、木を倒壊させて進路を塞いでいる。


「本当は今すぐにでも村に乗り込みたいのだが、竜騎兵とまともにやり合うわけにはいかないからな。

 封じ込めて少しずつ削り取るつもりだ」


 一揆に唯一参加してないアンクル村の村長モンローがここにいるのは、いざという時の仲介役になる為と一揆に参加した村が免罪を勝ち取れない時に遺された家族をアンクル村で保護してもらう為だ。

 モンローは一揆の代表になっているリボー村の村長に蜂起を辞めて解散するように促していた。


「甘いぞ、竜騎兵は馬の騎兵とはわけが違う。

 この程度の障害はモノともしないぞ」


 何よりモンローはこの蜂起に反対なのだ。


「だが街にいる娘達が心配な親がいきり立っている。

 これでも自制しているんだ」

「日本人達は女に興味はないという噂ではないか。

 それに彼等に保護されてるなら代官所やグルティア侯爵家も手出しは出来ない。

 落ち着かせるんだ」

「だからと言って、このままでは何も事態は解決しないじゃないか!!」


 そこに街を見張ってた若者が飛び込んでくる。


「大変です、竜騎兵団が街から出てこちらに向かって来ます」

「弓で迎え撃て!!」


 農民の集まりといえ、畑を狙う害獣や狩りをする為に弓くらいは持っている。

 武芸者のように練習しているわけでは無いが、数十本もの矢が竜騎兵10騎ばかりに飛んでいく。

 しかし、竜騎兵達が駆るデイノニクス達は軽々と矢を避け、鱗は矢を弾きながら前進してくる。

 盛った土や倒木も意に介さず飛び越えて来る。


「蹴散らせ!!」


 農民の一人が文字通りデイノニクスに蹴り飛ばされるとパニックで総崩れになっていく。

 軽く噛まれた農民は、そのまま放り投げられ仲間たちに当たって互いに動けなくなる。

 鍬や鋤を持った農民数人が、一匹のデイノニクスを狙うがその場で一回りされて尻尾で弾き飛ばされる。

 これでもなるべく殺さないように剣や槍、銃の使用は控えているのだ。

 倒木はデイノニクス二匹に食わえられて排除し、後から来た歩兵達が盛り土を破壊して街道を均していく。

 竜騎兵達の前進は留まるところを知らない。




 街から竜騎兵が数を減らしたことを双眼鏡で確認し、石和黒駒一家は代官所の奪還に乗り出そうとした。

 案内役の代官所の兵士や役人もいる。

 僅かばかりの竜騎兵など銃弾で黙らせればいい。

 しかし、竜騎兵と石和黒駒一家の間に高機動車2両が立ち塞がり、RPK軽機関銃の銃口がこちらを向いていた。

 高機動車から浅井二尉が降りてくる。

 勝蔵も組員を抑えて前にでる。


「どういうことで?」

「我々は基本的に王国内の争いに関与しない。

 我々に火の粉が振り掛からないか、公的な機関からの要請がない限りな。

 まして相手は出ていこうとしているんだ。

 大人しく出ていかせればいい」

「ここは日本の管理区域じゃなかったので?」

「正確には来年からな。

 租借してはいるが正式には王国の領地だ」


 統治機関の代官所も今年限りの予定なのだが、今はまだ存在している。


「アレを行かせれば来年のここの領民は苦境に晒されますが、それでも我々を止めるので?」

「前者は答える権限はない。

 だが、石和黒駒一家を止めるのは大陸密航の容疑者として拘束する為だ」


 駐在所のパトカー2両も封鎖線に加わっている。


「なるほど、なら日本人でないギルドメンバーや代官所の兵士達は関係ないと?」


 手を振って大陸系のギルドメンバーや兵士を先に行かせ、自衛隊側も素通りさせる。

 だが若頭の北村や荒木は納得が行かない顔をしている。


「あいつらじゃ勝てませんぜ。

 敵は銃を持っているが、あいつらには持たせてません」

「かといって強引に押し通ればモロともに銃弾の餌食だ」


 浅井は日本人だけになったところで話を再会する。


「黒駒さん、あんたらは日本の移民局の許可を得ずに大陸に渡ってきたのはすでに判明している。

 その経緯を説明してもらおう」

「大した理由じゃない。

 青木ヶ原事件で、外道仕事がバレて地元に居場所を無くした。

 大半の幹部組員が死ぬか、逮捕されて残されたこいつらを見捨てることも出来ずに組を継いだ。

 だが日本では大組織に狙われ、地元を追われた。

 で、紹介状を貰ったので、綺麗所を温泉街に斡旋する仕事で知り合ったタイ人マフィアに密輸船でタイ人の植民都市スコータイに渡ってこの地に来てみたのさ」

「紹介状?」

「ベッセン、その名を総督府に照会してもらいな。

 そうすれば俺らのことは不問になるから。

 まあ、そんなわけで密航かも知れないが、密入国じゃないんだ。

 ああ、なるべく上の人間に掛け合ってくれよ、訳ありな名前だから。

 そうだな経済難民というのが一番近いかもしれない。

 日本人ではあるが、すでに王国に国籍を移したのさ。

 つまりあんたらは王国の民に銃口を向けていることになる」


 日本人が難民になる発想はほとんどの日本人には理解しずらい。

 皇国は大陸に一つしかない国家だった為に国籍の概念はなかった。

 王国は総督府からの提案を受けて国籍の制度を採用した。

 皇国に比べて半分以下となった財政を改善する為に税制の効率化をはかる意味があった為だ。

 その時にすでに町の住民となっていた勝蔵逹が、どさくさに紛れて、滑り込ませたのだ。


「だ、だが日本の施政権がこの街に及べばやはりあんたらは国を捨てた犯罪者として逮捕されるぞ」

「だがそいつは来年からなんだろ?

 まだ、年は明けてないですぜ。

 さあ、そこをどいてもらおうか」

「だいたいその銃器はどこから手にいれたんだ」

「あんたら植民都市造る際に厳重に刀狩りみたいなことしたんだろ?

 タイマフィアも移民するのに足手まといになるから買い叩いたのさ。

 元はタイ王国陸軍の横流し品さ」


 そう言いながら封鎖線を駆け抜けていく。

 不問にならなかったらならなかったで、この街は大陸系組員に任せて隣の領邦の事務所に拠点を移せばいいだけの話だ。

 別に石和黒駒一家の縄張りはこの街だけではないのだ。

 すでに竜騎兵団と大陸系組員の市街戦は始まっている。


「代官を救出したら我々に救援要請を出させろ。

 公的な機関からの要請なら我々も動ける」


 浅井が聞こえるように大声で伝える。

 後ろ姿の勝蔵は片手を上げて応えていた。

 方針を転換するようだが、せめて自衛隊としては介入の余地を残しておかないといけない。

 このままでは石和黒駒一家の影響力だけがこの領地内で大きくなる。


「連隊司令部の一番偉い奴を出すよう通信しろ。

 総督府の偉いさんに紹介状の真偽を確かめないといかん」


 浅井は高機動車の無線機を担当している隊員に告げた。





 建物の屋根や窓から銃撃を始める石和黒駒一家に竜騎兵団も応戦する。

 しかし、竜騎兵団は銃撃戦を市街地で行うという経験はない。

 通常は突撃と同時に発砲し、距離を詰めてから槍や剣で敵陣を蹂躙するのが役目だ。

 激しく揺れる騎乗中は弾込めは不可能でもある。

 障害物だらけの市街地では、歩兵の小銃の方が弾込めが出来る分有利だ。

 だが歩兵達が一発撃って弾込めしている間にトカレフの銃弾が5発も6発も飛んでくる。

 負傷してもがいていると盗賊ギルドや傭兵出身の大陸系組員に路地に引きずり込まれて武器を奪われていく。


「一揆軍なんぞより余程手強いな」


 不利を悟ったマッシモは、食料を積んだ馬車を先行させて街からとにかく脱出させる。


 石和黒駒一家の強みは市街地でのゲリラ戦だ。

 野外ならば形勢は逆転する。



「深追いはするな。

 街から出たなら門を閉じたり、馬車で封鎖しろ」


 自らもベレッタ自動式散弾銃を発砲しながら勝蔵は大声を張り上げなから指揮をとる。


「代官所にまだ竜騎兵一騎含む30名ばかりが、立て籠っています」


 荒木が息を切らせながら駆け寄ってくる。


「攻め落とせそうか?」

「駄目ッス、代官所はさすがに水掘と土壁が合って近寄れません。

 正門と裏門に橋が掛かってますが・・・何より弾がもう有りません」


 さすがに在庫が底を尽き始めていた。

 以前から問題となっていたが、出入りでケチるわけにもいかなかった。

 代官さえ抑えて、大義名分を掲げれば石和黒駒一家に取っては勝利なのだ。

 ふと、勝蔵の目に入るものがあった。


「なあ、俺にあれが乗りこなせると思うか?」

「兄貴、なら出来ます!!」

「ちょっと試してみるか、富士吉田では何度か慣らしたもんだが、要領が同じならいいんだが」


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