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日本異世界始末記  作者: 能登守
2031年
170/266

モンスターハント

 大陸南部

 天領アルバレア


 王国直轄領である天領だが、代官が一人赴任して切り盛りしている領邦が幾つかある。

 このアルバレアもそんな領邦の一つで、住民も少なく、鉱物資源も特に無い。

 一昔前はこんな地でも納める貴族がいたのだが、米軍による皇都大空襲で一族郎党が全滅した。

 治める後任がいないことから天領に組み込まれていたが、統治の役人が人手不足の王国の中央や西部に栄転してしまった。

 その煽りを受けて、代官が一人代官所に残されて、徴税から治安維持まで行っている。

 と、言っても代官一人で出来ることには限界があるので、モンスター退治等は地元の冒険者に委託していたが、この日は外部の冒険者達がアルバレアに来ていた。


「いたいた大物だ、抜かるなよ」


 この冒険者達は日本人のグループに露出過多なエルフと食い摘めドワーフが加わったものだが、些か素行の悪い。

 日本の植民都市でもつま弾き者だった彼等だが、強いだけで尊敬されるこの地では、水を得た魚のように活躍していた。

 今回の彼等の目的は、ミルメコレオ、別名アントライオンである。

 ミルメコレオは、ヨーロッパの伝承では、ライオンの上半身とアリの下半身を持ち、肉食も草食も不可というあり得ない生物だ。

 キリスト教的解釈では、二重人格例えや欲望に動かされて身を滅ぼす悪魔の象徴として、説教の題材にも用いられた。

 現在ではウスバカゲロウの幼虫、アリジゴクを指し、ウスバカゲロウの学術名にも使われている。

 では、彼等が求めているのはどちらのミルメコレオかと言うと、全長数メートルはある巨大アリジゴクの方だ。

 砂地にすり鉢のようなく窪みを作り巣として、落ちてきた生物を大顎で捕らえ、消化液を注入し、口器より吸汁する。

 その獲物には当然人間も含まれており、村人が数人ミイラのようになって発見されていた。


「釣り餌を垂らせ、アグネスは地中を固くしといてくれ」

「わかったわ」


 露出過多なエルフのアグネスの肢体を露骨に眺めながら、リーダーは付近で生け捕りにした鹿にワイヤーを巻き付け、ミルメコレオの巣穴に他のメンバーと投げ落とす。

 獲物に反応したミルメコレオの大顎がワイヤーに巻き付いた鹿を捕らえ、吸汁を始める。


「ワイヤーは……いい感じだ

 、巻き上げろ」


 ワイヤーはミルメコレオの大顎にも巻き付き、巣穴の外の4WD車に設置された電動ウインチのスイッチが入れられる。

 おおよそ1トンの物体を引き上げられる電動ウインチは、たかだか数百キロのミルコレオ等簡単に吊り上げる。

 地上に出てきたミルコレオは鉄製の檻まで引きずられて、閉じ込めらる。

 そのまま檻ごとクレーン付きのトラックの荷台に乗せられていく。


「これまでの冒険はなんだったのか考えちゃうわね」

「全くだ」


 エロフのマリーダと食い摘めドワーフのドネルは、複雑そうな顔をしている。


「楽でいいじゃねえか」


 そんな二人にリーダーの高倉は呆れた声を出す。

 リーダーはまだ若いが転移前に産まれた世代で、魔法は使えない。

 転移当時は小学生で、商社のエリート社員だった父親は失業し、食うのにも困った少年期を送っていた。

 自衛隊等の政府機関が失業者対策で、大規模な人員を雇用はしていたが、妙にエリート意識を持っていた父親は完全に出遅れてあぶれてしまった。

 両親ともに祖父の代から東京に住んでいたせいで田舎に知己もなく、食糧を増産する仕事にもツテは無く、新潟で募集していた農場の小作人として肩身の狭い生活を送ることになる。

 この次期は農業にしろ、漁業にしろ、第一次産業従事者が幅を利かせていた時代だったが、小作人として雇われただけの一家は、地主に頭が上がらずブラック企業並みの労働環境だった。

 そんな生活を送っていたが、東京都民として籍を残していたので、最初の移民対象として大陸に渡ることになった。

 ようやく自分の農場が持てて喜んでいた両親にかつてのエリート商社員だった面影は無い。

 高倉自身は少年期にこき使われた農業に嫌気がさして、家を飛び出し、冒険者になった。

 それなりに有能だったのだが、トラブルを起こすことも多く、似たような連中とパーティーを組んで辺境での活動を余儀なくされていた。


「でもいいの?

 代官の依頼は退治でしょ、捕獲じゃなくて」

「こういう化物を飼いたがってる好事家がいるんだよ。

 代官からの端金なんか目じゃねえし、ここからこいつがいなくなるなら文句無く、依頼料はくれるさ」


 幾つかの業者を介することになるが、手数料は相手持ちだ。


「今晩は派手に乱れようぜ」


 マリータの肢体を想像しながら今晩のプレイについて想いを駆け巡らせていた。





 大陸南部

 日本国 古渡市

 豪華客船『クリスタル・シンフォニー』

 石狩貿易本社


 石狩貿易CEOにして社長である乃村利伸は、取引先の後ろ暗い企業から持ち込まれた案件の書類をゴミ箱に投棄していた。


「くだらん」

「せめてシュレッダーに掛けて投棄してください。

 何がそんなに気に食わなかったんですか?」


 内容を知らない企画部部長の外山がゴミ箱から書類を拾い上げて目を通す。


「生け捕りにしたモンスターの本国輸送。

 報酬は悪くないようですが、動物園にでも展示するのですか?」

「依頼人は新潟の農業貴族だ。

 転移前から危険生物や希少生物の収集を趣味にしていたんだが、転移後に闇市でかなりの財産を作って県政財界の重鎮の座に収まったデブだ」


 これは相当毛嫌いしていると、外山は肩を竦める。

 農業成金とは職業差別にも聞こえるが、転移当時の食糧難を乗り切る為に政府は農作物や漁獲物を最大限買い取り、配給制を実施した。

 農家や漁師は自分達の食べる分は最低限確保し、政府への一律売却に応じた。

 ちなみに売却費用はツケである。

 経済自体が破綻してたから仕方がない。

 それでも最近では大陸で接収した土地を供与や売却した金で、支払いを完遂させたので問題になっていない。

 日本本国で餓死者が出てた状況では、彼等はそれなりに裕福となり豪農と呼ばれていた。

 同時に最低限の確保を最大に高めたり、隠し畑等で収穫した農作物を闇市で流し、莫大な収益を上げた者がいる。

 増大した失業者を小作人として雇い入れ、ブラック企業も真っ青な酷使で成り上がった連中だ。

 人は彼等のことを農業貴族と毛嫌いしたが、豊富な資金と大量の食糧生産は地方自治体の政界に触手を伸ばし、官憲の取り締まりをも遮っていた。


「個人的に気に入らないと?」

「それもあるが、大陸のモンスターを本国に持ち込むとはどういう了見だ、ということだ。

 いずれ訪れる未来にしても、日本人自身の手で時計の針を進めることはなかろう」


 意外と乃村は文化的な物には保守的な愛好ぶりをしている。

 その中には日本固有の生態系を崩すことに危機感を持っていたりする。


「既存の動物園も海外から動物を輸入していましたが?」

「奴は個人の邸宅の庭先をサファリパークにしている。

 長岡市の小動物園を拠点に裏手の旧市営スキー場やゴルフ場を買い取り、本人は長岡温泉の旅館を邸宅にして優雅にやっているよ」


 ふと乃村は悪いことを思い付いた顔をするので、外山は悪い予感がした。


「何かよからぬことを考えてません?」

「何を言う。

 犯罪が行われてそうなことを察知したら通報するのが、市民の義務だろ?

 ようするにチクッてやる」


 叩けば誇りが盛大にでる人間が言うから説得力がまるでない。

 乃村は電話を片手に通報しようとするが、その手が止まる。


「えっと、こういう場合はどこに通報すればいいのかな?」

「そこは素直に警察でいいんじゃないですかね」


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