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日本異世界始末記  作者: 能登守
2030年
159/266

琵琶島防衛戦

 髙麗国

 琵琶島


 髙麗国琵琶島は旧北朝鮮羅先特別市に存在していた島である。

 観光名所として名高かったが、異世界転移後は髙麗国領として、髙麗国最北端の島となった。

 現在は管理できないとして、鬱陵島より北の島は全て無人島となった。

 一応は髙麗国領なので、大邱級フリゲート『慶南』の護衛としてひうち型多用途支援艦『えんしゅう』と牽引された中型漁船が接舷しようとしていた。


「よし全艦で汽笛を鳴らす。

 総員、音響に注意せよ」


『慶南』、『えんしゅう』が汽笛を鳴らして島内にモンスターが潜伏してないかを確認する。


「問題は無いな。

 接舷作業に掛かれ」


『慶南』からはAW159哨戒ヘリコプターが飛び立ち、哨戒任務にあたる。

 両艦からは警備の為の国防警備隊員と中央即応連隊の隊員が港に展開して安全を確かめる。

 中型漁船は廃船だが、通信機器やレーダー、仮設された対人センサー、監視カメラが設置されている。

 ドックから陸揚げされて哨戒施設とする予定だった。

 こうした無人島に哨戒廃船を配置して、海洋結界から外れた領域を監視する計画だ。

 廃船のタンクの燃料から発電させるが、最低限の消費量で済ますつもりだ。

 定期点検や給油は必要となるが、人間を無人島に駐在させることが出来ない以上の苦肉の策だ。

 監視システムが設置される迄は人間による索敵も行われている。


「やっぱりいたか……」


 中即旅の隊員がホテルの陰から姿を現した

 中央即応旅団の隊員は転移前は中央即応連隊として、有事における緊急展開部隊として組織されたが、人員の確保に苦慮していた。

 当初の目標であった空挺やレンジャー資格を有する隊員を連隊隊員数確保するという高いハードルの為だ。

 しかし、皇国との戦争で遊撃部隊として密林や湖沼、山岳地帯と転戦するうちにもともといた隊員が有資格を得るのに十分な技能を身に付けてしまった。

 逆に拡大した陸上自衛隊の各部隊の穴を埋める為に隊員が引き抜かれるという事態に陥り、部隊の性格を都市防衛と国家の特別なイベントや式典の保護と実施を担う部隊へと変貌した。

 一応は中央即応連隊を基幹部隊として、旅団直轄部隊が付随している。

 旅団司令部直属だがわりと他部署への応援任務に動員される普通科隊員で構成される第1中隊。

 皇居警備隊から首相警護隊、官庁警備隊を専門とする実質的に首都警備部隊である第2中隊。

 音楽隊や礼砲隊、儀仗隊、騎馬隊から冠婚葬祭を取り仕切る聖職者隊といった儀式を専門とする第3中隊。

 各自衛の秩序維持の職務に専従する統括し、一般国民に対する司法警察権や行政警察権をも有する憲兵同様の権限を持つ中央保安警務中隊である第4中隊。

 そして、かつては特殊作戦群として組織された中央特殊作戦第5、6中隊などが所属している。

 今回、琵琶島に来ているのは第6中隊の第一小隊だ。

 彼等が遭遇したのは背中に羽を生やした肉食魚、フライングスネークヘッドだ。

 ピラニアのように陸上でも襲ってくるが群れることは無い。

 大きさは50センチほどだが、狂暴な牙をもっている。

 但し飛行速度は手で叩き落とせるほど遅い。

 どうやって飛んでるのか、原理は物理学者も生物学者も匙を投げてふて寝するほどわかっていない。

 中即旅の隊員達は、慌てずに20式5.56mm小銃であっさりと退治する。

 小隊長の牛嶋一等陸尉はうんざりした声を挙げる。


「問題なのはこんなのが地球由来の島に出るようになったことか」


 今は北サハリンや髙麗国の領域だが、いずれ日本本国にも訪れる未来である。

 同行している髙麗国国防警備隊の隊員達の顔は蒼白気味だ。

 彼等とて巨斉島で海棲亜人達との戦闘経験がある精鋭達なのだ。


「全く、これが日常の大陸の連中はすげ~わ」

「隊長、朝霞の司令部からです。

 可能な範囲で島内からモンスターを駆逐せよ、と」


 日本から一日でも遠ざける為の悪足掻きである。


「さてまたなんか出てきたぞ」


 今度は名称も生態も不明な地を這う魚が複数出てきた。


「司令部から追加の命令です。

 掃討の範囲を近隣の島々に拡大させると」

「マジかあ、増援寄越せと返信してやれ。

 おら仕事だ。

 一匹たりとも逃がすなよ」





 日本国

 山梨県南都留郡忍野村

 陸上自衛隊北富士駐屯地


『青木ヶ原・オブ・ザ・デッド事件』(公式事件名)で活躍した北富士駐屯地の第1特科連隊連隊長長岡一等陸佐は、板妻駐屯地で開催される当事件の合同慰霊祭に参加、したくないとダダをこね、屈強な隊員達の手で高機動車に放り込まれていた。

 礼砲部隊に臨時編成した特科小隊ともに駐屯地を出発させられた後もブチブチ文句を言っていた。


「あいつら、仮にも連隊長に対する扱いが雑じゃね?」


 高機動車を運転する幕僚の荒戸三等陸佐に訴えるが、彼の対応も冷ややかだ。


「今回は大臣も抜きか?

 県知事は出てくれるようだが、気合いが抜けるな」

「代わりに大陸から円楽大僧正も来てくれてるんですから問題発言はやめて下さいよ」


『青木ヶ原・オブ・ザ・デッド事件』で多大な貢献をしてくれて、日本仏教会の重鎮である円楽大僧正による読経は、静岡県、山梨県両知事が集まるくらいにはありがたがれていた。


「なおさら政府も大臣クラスが来いよと、俺には思えるね」

「それに関しては私も同感です。

 それはそうと自衛隊側の仕切りは連隊長なんだから、しっかり頼みますよ」


 転移当時は旧来の第1特科連隊から第1特科隊に縮小した同隊は、皇国との戦争や失業者対策の為に再び連隊としてか返り咲いていた。

 代わりと言ってはなんだが、栄光の皇室・国家行事関連の礼砲部隊の座は、中央即応旅団特科隊に譲り渡してしまった。

 また、部隊の拡大に伴い、北富士駐屯地から各地に部隊を派遣して対モンスター用の警戒に当たらせている。

 何しろ山梨県は海に面していないからここに特科部隊を配置しておく意味は特にない。

 あえて言うなら富士駐屯地と共同で、広大な北富士演習所の管理くらいだろう。

 後は各所に派遣する特科隊の補給、整備の拠点として機能している。

 派遣先はいわゆる旧東京湾要塞、東京湾海堡、第1海堡、第2海堡、品川第三台場。

 神奈川県三崎市城ヶ島公園(旧城ヶ島砲台)。

 千葉県木更津市中島地先海ほたる。

 上記五ヶ所に各所各中隊から週代わりで小隊を派遣している。

 正確には少しずつ特科陣地を整備させに行ってる、である。

『隅田川水竜襲撃事件』のような惨劇はあったが、基本的に日本国本土が海上、海中からのモンスターの襲撃を受け事態は少ないと政府筋は考えていた。

 しかし、国民感情は恐怖を忘れておらず、政府にいざというときの対応を求めた。

 政府としても少ないリソースで、国民にアピールする事を考え、東京湾に大砲という目に見える説得力を配置したのである。

 実際には砲台と呼ぶには稚拙であり、潮風に晒したままにしておきたくないので、ローテーションで北富士駐屯地に帰還させているのが現状だ。


「富士教導旅団の連中が帰ってこないから俺に仕事が押し付けられてるな」


 富士学校を初めとする富士教導団も旅団に格上げされ、人員が補充された。

 施設科や通信科はおろか、教導会計隊やら教導音楽隊まで創設されて、まとめて板妻駐屯地に放り込まれた。

 静岡県の駐屯地は全部富士教導旅団の縄張りだ。

 問題なのは富士教導旅団主力自体が、米軍の要請で西方大陸アガリアレプトに派遣されていることだ。

 留守居の副旅団長が板妻駐屯地司令として残っているが、階級は長岡一佐と同じ一等陸佐でも格の問題が残る。


「うちの連隊事件の当時者でもあるから逃げれませんよ?」

「ああ、スピーチしたくねぇ」


 グダグダ喚いてるが、長岡一佐は板妻駐屯地の特科教導中隊を中隊長を歴任したほどの大砲屋として名声を得ていた身だ。

 ここでスピーチをしないのはあり得なかった。


「ほら着きましたよ。

 お迎えが来ていますよ」


 長岡一佐の性格を熟知していた特科教導中隊の隊員が逃げないように待ち構えている。

 逃げられないことに観念した長岡一佐は幕僚達に代筆させたスピーチ原稿を読んで見ることにした。



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