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日本異世界始末記  作者: 能登守
2030年
142/266

第18即応機動連隊

 大陸東部

 那古野市

 海上自衛隊那古野基地


 この日の那古野基地の港には珍しい来客が訪れていた。

 本国にいるはずの第一海上補給隊並びに第一輸送隊の艦と雇船の防衛フェリー3隻を含む大規模なものだ。


「『YOT-01』に『YOT-02』も来てるじゃないか。

 やはり護衛艦を送っといて正解だったな」


 桟橋から出迎えに現れた那古野地方隊総監の猪狩三等海将は呆れていた。

 これ程の規模の支援艦隊が那古野に来たのは、昨年に大量に消費した弾薬や燃料を運んできたからでもある。

 防衛省からの連絡で本国からは護衛艦隊の護衛を受けていたこの支援艦隊が、途中から海保の巡視船に護衛される移民船団と航行してきたのだ。

 慌てた猪狩海将は、第5護衛艦隊(仮)司令の中川三等海将と相談して、護衛艦『むらさめ』と『はるさめ』を派遣して、那古野まで船団を同行させたのだ。

 桟橋では基地要員達が総出で各艦船から積荷の陸揚げ詐欺を始めている。

 それとは別に乗客の方も防衛フェリーから降りてくる。

主客の陸上自衛隊の部隊隊員とその家族達だ。


「すまんな。

 心配を掛けたようだ」


 新京から総督府付きヘリコプターMCH-101型で駆け付けた駆けつけた高橋二等陸将が謝罪を口にする。


「我々が言うのもなんですが、本国は危機管理が薄いですな。

いくら海賊など相手にならんといっても大型海棲モンスターだっているんです。

 注意喚起しとかないと。

 それはそうと、あれが機体の第18即応機動連隊ですか?」

「第18即応機動連隊を造るための交代要員部隊だ」


 人数だけは一個連隊分がいるが、大陸の知識と経験に乏しい彼等をそのまま使うわけにはいかない。


「今まではそれでもなんとか凌いでいたが、配備先が王都だからな。

 それにいい加減に昇進に関する不満も解消しないといけない」


 ここに来た彼等とその家族にしても希望の入植先と配属先もある。

 那古野に到着する前にその調整は終わっている。

 問題は大陸に先着していた第16師団や第17師団の隊員達だ。

 大陸に移民した自衛隊部隊は屯田兵的な性格を有しており、昇進による異動先に本国の部隊が選択肢からは消えている。


 退官等で上席が空くか、先遣隊が結成されて分屯地に行かないと昇進を保留状態となっていたのだ。

 さらに隊員に同行して移民してきた家族、親族が異動を伴う昇進を嫌がるといった状況が隊員達へのストレスとしてのし掛かってきた。

 土地家屋は転移の混乱時期に未払いだった給料の代わりに譲渡したものだ。

しかし、譲渡されたのだからと退官を促してくる家もあるらしい。

 総督府としては、ベビーブームが訪れていることもあり、同居の親族には早目に独立した生活を送るように推奨しているが、遅々として進んでいない。

将来的に遺産の相続権や財産分与で揉めるのは目に見える案件だった。


「移民を促進するためにも土地家屋付きで譲渡してきたから田畑を各家庭で造ったりと土地に愛着を沸かせてしまった。

 名義的には地主は隊員なのだが、取り上げて親族揃って異動というわけにもいかない。

 隊員だけを単身赴任させるのも士気に関わるが、土着化されるのも軍閥化されて困る。

 第一、組織として健全じゃない」

「海自は基本的にこの那古野市だけに隊員家族親族を住まわせてますからね。

 異動先も新しい艦が配備された時に同じようなことをしてますが、基地要員には同じような問題があります。

最も転居の必要が無いのはメリットなんですが。

 組織の硬直化は懸念材料ですが、空自さんも似たようなものでしょう」


 猪狩海将の言葉に時間の問題と思ったが、高橋陸将は口にしなかった。


「今回の第18即応機動連隊を始めとする第18師団設立を昇任問題解消の機会にする。

 なるべく独身の隊員や転居出来る隊員を優先的にな」


 そんな雑談を交わしていると、輸送艦『おおすみ』から降りてきた隊員が敬礼して駆け寄ってくる。


「紹介しよう。

 この連隊の連隊長直江龍真一等陸佐だ」


 比較的若めの一等陸佐で40代前半だ。


「お久しぶりです。

 大陸では指揮下に入りますのでよろしくお願いします」

「赴任先は王都ソフィアだからな。

 それなりの人材を揃えてある。

 高野旅団長はすでに小倉市に入って師団設立準備だ。

 王都に行く前に顔を出しといてくれ」


 高野陸将補は数年後に控えた第18師団設立の為に大陸に司令部直轄部隊として先乗りしていた。

 艦船から降りた隊員やその家族は、赴任先の用意したバスに振り分けられ乗車していく。

 連隊の半数近くが異動となり、本国で苦労を分かち合った彼等との別れは直江一佐にも惜しむところはある。


「まずは総督閣下や師団長達に顔合わせの為に新京に行く。

 ご家族の家財は王都の官舎に送ったが、ゆくゆくは小倉の次の植民都市で本格的な家屋と土地を譲渡する。

 それまで我慢してくれ」


 話には聞いていたが屋敷に土地とは、直江一佐も困惑するしかない。

 しかし、親族こぞって大陸に連れてきてるので助かるのだが、まだ都市建設も始まってないのは困った話である。

 猪狩海将は先程の話を聞いたばかりなのにと、結局抜本的解決は将来に先送りかと妙に納得していた。






大陸中央部

 王都ソフィア


 王都ソフィアでは緊張が走っていた。

 第17即応機動連隊が王都を去って以来、日本は大規模な部隊を配備したことが無い。

僅かに在ソフィア自衛隊駐屯地を管理する小隊がいるだけだ。

 ヴィクトール宰相は不安そうな顔で尋ねて来る。


「今度の部隊は大丈夫でしょうか?」

「と、言いますと?」


 宰相府に呼び出された在ソフィア自衛隊駐屯地を管理する小隊長小代二等陸尉は、第18即応機動連隊を出迎える準備に忙しく、早く帰りたい気分だった。

 だいたい二等陸尉ごときに宰相との折衝をやらせるなという本音もある。


「その先代の碓井一佐は些か乱暴な方でしたから」


 確かに第17即応機動連隊連隊長碓井一等陸佐は、顔は怖いし、喋り方もヤのつく自由業な人のようだった。

『嵐と復讐の教団』を制圧する為に王都に部隊を展開させ、貴族の館に押し入り、地下神殿を攻撃ヘリコプターで攻撃させた実績の持ち主だ。

 連隊長に感化されたのか、隊員達も強面に乱暴な発言が多く、小代達管理小隊が引き継いだ時の自分達に恐れおののく王都民の腰の低さに驚かされたものだった。


「言わんとすることはわかりますが、碓井一佐も任務に熱心で忠実だっただけだと思いますので」

「理解してはいますが、言い方とかあるでしょう?

 碓井一佐が部隊ごと任地が変更した時には、王都民は祝杯を挙げ、祭りが開催されたものです。

 で、後任の直江一佐はどんな方ですか?」


 そんな事を聞かれても小代二尉も面識はないのだ。

 上官を批判する言葉など、他国の高官の前で吐けるわけはがない。

無難に答えるしかないと、記憶を絞り出す。


「書類仕事が得意な方とは聞いています。

まあ、温厚な人だと思いますよ」

「そんな方が最前線の指揮官に?」

「上の考えはわかりませんが、武闘派ばかり出してもいられないのでは?」


 一頻り、ヴィクトール宰相の愚痴を聞かされた後に大使館には自分より階級が上の駐在武官がいるじゃないかと気が付いた。


宰相府を後にして駐屯地に戻ってきた小代二尉には辞令が交付されていた。


『一等陸尉に昇進、第18即応機動連隊本部管理中隊隊長任ず』


「当面は王都から離れられないみたいだな。

 王都に来る第18即応機動連隊の相談役というわけか」


確かに本国から来たばかりの連隊長には、補佐役が当面は必要だなとは理解できた。

単身赴任がいつまで続くのかはさっぱりわからなかったが……


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