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日本異世界始末記  作者: 能登守
2028年
102/266

浦和市市街戦

 大陸東部

 神居市

 セントラルホテル


 SAR隊員400名は市内の複数のホテルに宿泊していた。

 普段の厳しい訓練とは落差のあるスイートに部屋を割り当てれて戸惑っている隊員もいる。

 だが今は全員が叩き起こされて、駅に向かう準備を急かされている。


「私物は後でいい。

 準備の出来た奴は駐車場に整列!!」


 駐車場に集まっていた隊員達は、神居警察署が用意したパトカーや輸送バスに乗り込み車両内で説明を受ける。


「銃どころか、プロテクターも無いんだが」

「駅に署や予備の銃火器を掻き集めてます。

 それを持っていって下さい」


 運転している警官の言葉に隊員の一人が呟く。

 モンスターの駆除や町の防衛の為に予備の銃火器が保管されいる。


「言っちゃ悪いが、君らがフル装備で行った方が早くないか?」

「…‐」

「……」


 沈黙が輸送バス内を支配した。


「まあ、上からの命令ですから」

「そうだな」

「いや、いいんですかそれで」


 同じ組織内でも武器の貸与には手続きが手間が掛かる。

 転移後はかなり簡素化されたが、急な動員に誰もが気が付かなかったのだ。

 神居市警察署も急遽百名の警官がフル装備で、装甲列車に放り込まれることになった。






 大陸東部

 浦和市


『現在、市内には危険生物が複数侵入しています。

 市民の皆さんは建物から出ずに、守りを固めて下さい』


 パトカーのスピーカーから警告に市民達は、家屋のシャッターや雨戸を閉めて閉じ籠る。

 まだ、移民途中のこの町ではろくに自警団が組織されない。

 縦横無尽に飛び回るスティングの対処に警官や冒険者達は苦慮していた。

 空を飛び回るモンスターについては、当初から対策は施されていて、防壁に対空用M168 20mm機関砲を複数設置していた。

 だが群れで低空から侵入してくるスティングには対処仕切れなかった。

 なにしろ防壁まで飛んできたら、そのまま張り付いてよじ登って侵入して来たからだ。


「下に射角を取れ!!」

「真下には無理だ!!」


 防壁の警官達が小銃や拳銃で応戦するが数が多い。

 警官達の攻撃を避けるように防壁をすれすれに広がり、防備の薄いところが突破されていく。

 壁上では歩行するスティングが警官達に襲いかかるが、刺股で動きを止められ、刀剣や警棒で滅多打ちにされる。

 だが蝋蜜を吐かれて、警官は身動きが取れなくなり、針で刺されて泡を吹いていたり、痙攣して倒れている者もが続出する。

 むしろ市内の方が建物を利用しての防衛が容易だった。


「西側防壁守備隊、沈黙しました。

 北側と南側から向かわせてますが、続々と侵入を許しています」

「市内の市民の被害は出てませんが、防衛線が意味を成していません。

 冒険者の協力で、個別の駆除に専念するしかありません」

「防壁に蜜が塗られてます。

 連中、ここに巣を造るつもりなのでは?」


 市の防衛本部となっていた浦和警察署では、劣勢の状況に高須署長が眉をしかめていた。

 建設中の町だから予備の武器もあまり保管されていない。


「消耗戦だな。

 援軍が来るまで、被害を抑えつつ時間を稼ぐしかない」


 すでに援軍の出発は連絡が来ている。

 スティングに刺されても、すぐには補食されないが、麻痺状態で連れ去られるのは救出するか、判断が迷うところだった。


「卵が孵化すれば手遅れだし、全く何も食わないわけじゃなかろう。

 ショック死やアナフライキーショックも危険だ」


 壁外で捕まった者達の安否はようとしては知れない。

 これまで日本の大陸の植民都市がモンスターの大規模襲撃を受けたことは無い。 

 むしろ本国の大月市や唐津市、平戸市が襲撃を受けていたことが、皮肉と言えるだろう。

 内陸部に建設された都市も自衛隊や現地治安組織が事前に駆除を徹底していたことも大きい。

 基本的に警察しか事態に対処出来ない浦和市は、日本の大陸進出の限界点だった事が露呈した結果だったと言えよう。


「署長、確認できたスティングの死体は103匹です」

「戦える防衛隊は?」

「警官209名、自衛官35名、冒険者41名です。

 尚、殉職11名、負傷56名、行方不明は警官24名、民間人48名になります」


 スティングの数は尚も190匹以上が確認されていた。






 浦和市西側森林


 浦和市からは黙視できない森の中に、蜜を固められた巨大なスティングの巣が出来ていた。

 巣の中には大小問わず、近隣から収集された様々な動物やモンスターが蜜に塗り固められている。

 顔だけは栄養の摂取や息をする為に剥き出しにされている。

 その中には浦和市やその周辺で、捕まえられた人間の顔が壁から多数露出している。

 補食されてるのは、先に捕まった森の動物達が先で人間達はまだ手を付けられていない。

 巣の大きさは小さな砦くらいあり、通路は獲物やスティングが通るには明らかに大きかった。

 辛うじて意識があった作業員が見たのは、全長18メートルはある巨大なスティングだった。


「女王蜂か……」


 呟いた声が聞こえたのか、女王スティングは作業員を一瞥すると、腹部から産卵管を出して、蜜の壁を貫き作業員の腹に突き刺した。


「ぐはっ…‐」


 麻痺毒を注入されても動ける固体は、女王スティングの卵を産み付けるのにふさわしいと判断されたのだ。

 卵は外部に付着する形だが、一部は体内に刺された傷口からめり込んでいる。

 他の人間やドワーフも意識を取り戻し、女王スティングの巡回に反応を示して気がつかれると卵を産み付けられていった。






 浦和市内


 航空自衛隊の業務隊から出動を命じられた自衛官達は、普段は防空監視所の警備も請け負っている。

 高機動車の屋根の銃架や側面から89式小銃を連射して、スティングを一匹、また一匹と仕留めていく。


「弾が足りんな」


 市街地なので建物に向けて発砲することは原則禁止されている。

 空を飛び回るか、地上を這い回るスティングを攻撃するが、制約の為に前進を阻まれている。

 それは隣接する地方協力本部の自衛官達も同様だった。

 あちらは軽装甲車機動車からブローニングM2重機関銃を発砲してスティングを蹴散らしているが、弾丸がそんなにあるわけでは無い。

 自衛官達の武器が拳銃だけになるのに時間は掛からなかった。

 防空監視所からも管制官達が発砲して抵抗しているのがわかる。

 周りで戦っていた警官達の数も徐々に減っている。


「長くは持たんぞ、全く」






 大陸東部

 浦和市近郊


 浦和市と神居市を結ぶ線路に、神居市から発進した装甲列車『カムイ01』が、姿を見せたのは正午近くだった。


「総員、戦闘用意!!」


 陸上自衛隊第1鉄道連隊の小隊は、そのまま装甲列車の要員である。

 小隊長である広瀬二尉は司令車両から指示を出すと、最後尾車両に設置された2A38 30㎜連装機関砲が火を吹いた。

 毎分四千発の砲弾は、たちまち防壁周辺にいたスティング達を蹴散らしていく。

 その音を聞き付けたのか、防壁の向こうからもスティング達が身を乗り出して姿を見せる。


「だいぶ、入り込まれてるな…… 

 車両はこのまま駅に付ける。

 蜂供を近づけるな!!」


 各車両の屋根の銃架に取り付けられたPKT機関銃に隊員達が取り付き、引き金を弾く。

 SARの隊員達も銃眼から発砲する。

 スティング達は装甲列車に群がろうとするが、汽車の煙突から吐き出される煙を避けたり、気を失ったりする。

 蜂は煙の臭いを嫌い、避ける傾向がある。

 蜂は蜂は煙の臭いを山火事が起きたと思い込み、本能的に命の危険を感じるからだ。

 煙の臭いをかいだ蜂は巣から離れ、逃げ遅れた蜂は気絶してしまう。

 体は大きいが、スティングにもその特徴は残されていた。

 装甲列車の屋根から発砲する隊員や警官達は、それゆえにスティング達の動きが鈍り、対処することが出来た

 線路の防壁を都市の警官達が開き、市内の駅ホームに装甲列車が停車する。


「警官隊は総員降車!! 

 SAR隊員はスティングの掃討を、神居警察隊は負傷者の救出ならびにシェルターの防衛に専念しろ」


 有り合わせの銃火器だが、四百名以上の警官が戦闘に加わったことで、スティングの数を完全に上回った。

 すでに多大な犠牲を出しながらも浦和市警察や即席の防衛隊が奮戦した結果もあり、スティングの数は当初の三分の一にまで落ちている。

 自分達の不利を悟ったのか、スティング達が集り始めてる。

 蜜蝋を一斉に吐き出し、巣と同様の壁型の『巣』を造り銃弾の雨を塞ぐ。

 銃弾が通り難いと、報告を受けたSARはM79グレネードランチャーを模倣して開発されたガス筒発射器から、催涙ガス弾を発射する。

 隊員の中には手榴弾型のガス筒を投げ入れる。

 カプサイシン系の粉末が『巣』の中に散布され、スティング達は気絶していく。

 まともに戦える個体が少なくなったスティング達は、接近したSARの隊員達に掃討されていった。


「終わったのか……」


 猟銃を棍棒代わりに振り回していた浦和警察署署長の高須警視は、地面に尻餅を付いて荒い息を吐いていた。


「動ける者は援軍と連携して、市内の被害状況を纏めろ。

 相当、やられたな」

「警官だけで、殉職36名、行方不明21名、任務遂行不可能な負傷者は108名に及びます」


 署員の半数以上がやられたことになる。

 残った署員も疲労困憊だが、最後の力を振り絞って命令を遂行している。

 銃の弾丸も零だ。


「市外の救出任務は援軍に頼むしかないな」

「それなんですが、森の巣が拡大して壁上の監視塔からも見えているそうです」


 端末を署員から手渡されて、監視塔のカメラの映像を観る。


「まるでちょっとしたドーム球場だな」


 その言葉の通り、スティングの巣は森の中にドーム上に造られていた。


「内部には拉致された市民や警官など百名近くがいるかと、装甲列車の砲撃は危険すぎて無理だと」


 装甲列車には2A65「ムスタ-B」 152mm榴弾砲を備え付けて、列車砲として運用している。

 さすがに威力が強すぎて砲撃は論外である。

 すでに森の外ではSARの隊員達が、僅かに残った働き蜂を駆逐している。

 だが現状の火力では、堅牢な巣の壁に攻略が阻まれている。

 市内に造られた即席の巣と異なり、森の巣は銃弾でも貫通出来ないほど堅牢で、内部は迷路のように複雑だ。

 高須署長は映像の端に映る放置された重機に目を付ける。


「建築物なら解体してしまえ」


 車両系建設機械運転の免許証を持つSARの隊員がショベルカーやブルドーザで巣の解体を始める。

 邪魔が入らないように通路には、催涙ガスを叩き込む。

 巣の内部は半透明になっており、埋め込まれた人間の影が見てとれた。

 その都度に救出していくが、卵を埋め込まれた人間には、ナイフで抉って取り出すしか時間が無い。

 中にはすでに幼虫に食いつくされた死体もあった。

 巣を破壊しながら進む隊員達の前に、全高8メートル、全幅6メートルほどの女王スティングが姿を現した。

 自ら巣の壁を破壊し、SAR隊員達に破片を撒き散らし後退させる。

 さらに羽の羽ばたきによる風が隊員達に前進を許さない。

 僅かにホバリングし、壁の破片や蜜も飛び散り、隊員達に襲い掛かる。


「後退、後退!!」


 巣に漂う催涙ガスも吹き飛ばされ、生き残っていたスティングや幼虫達も通路から姿を見せている。

 今は負傷者や要救助者を巣から連れ出すことを優先するしかなかった。

 大陸東部

 浦和市


 解体と救助が進む中、1機の大型輸送機が建設中の自衛隊浦和駐屯地の滑走路に着陸した。

 AN-124 ルスラーン、転移前の2014年末頃から、ヴォルガ・ドニエプル航空の保有する機体が国際チャーター貨物便として中部国際空港へ毎日のように飛来していた。

 転移に数機が巻き込まれており、北サハリン共和国に籍を置いているが、ほとんどが日本に保管されていた。

 そのうちの1機は新京空港と仙台空港の定期便を担っていた。

 陸上自衛隊にはイラク派遣やパキスタンへの国際緊急援助活動で、CH-47を輸送したことで馴染みがある。

 最大ペイロードは150トンを誇り、福島第一原子力発電所事故時には、注水活動に使う60トンのコンクリートポンプ車を輸送を可能としている。

 その機体の内部から装輪装甲車(改)6両か各々に一個分隊のSAR隊員を乗せて、飛び出していく。

 今度のSAR隊員は新京に到着したばかりだった第3中隊のフル装備の隊員達ばかりだった。

 装輪装甲車(改)の後からは人員輸送車が一個小隊の隊員を乗せて後に続く。

 一路、郊外の森にある巣に向かう。

 彼等の目に映ったのは、巣から叩き出されていく同僚の姿だ。


「構わん突っ込め!!」


 約20トンの重さがある装輪装甲車(改)は、女王スティングの羽ばたきにも屈しない。

 女王スティング自体は巣の天井の低さの為に飛ぶことは出来ていない。

 重機が切り開いた道を通り、装輪装甲車(改)が巣の中に飛び込んでいく。

 人員輸送車から降りた隊員達も羽や頭部を狙い、射撃で援護をする。

 装輪装甲車(改)は、女王スティングが巣から外に飛び立つ前にその胴体部に体当たりをかました。

 さらに銃眼や窓から89式小銃による一斉射だ。

 他の装輪装甲車(改)体当たりをして、射撃が始まる。

 至近距離からの射撃に、女王スティングは体中に無数の穴を開けられ、地に伏していった。


「降車!!」


 女王は倒れたが、戦いはまだ終わらない。

 各装輪装甲車(改)から降り立ったSAR隊員達により、残ったスティングや幼虫の掃討が行われた。






 新京特別行政区

 大陸総督府


「追加報告による警官達の殉職41名、民間人の死者は36名です。

 卵を埋めつけられた犠牲者は外科手術である程度は処置出来ました」


 秋山補佐官の報告に、秋月総督は沈痛な面持ちで聞いている。


「本国政府は第17後方支援連隊を来年早々に送り込んでくる。

 彼等は浦和市に駐屯するとして、SARは次の都市と考えていたが、警察庁は些か勇み足を踏んできたな」

「と、言いますと?」

「政府が許可したのは、大隊規模の700名だけだそうだ。

 SAR(Special Assault Regiment)どころか、SAB(Special Assault Battalion)だ。

 しかもそのうちの400名は訓練部隊の要員だというから舐められたものだな。

 まあ、今後とも随時追加はあるからSARの呼称は認める。

 しかし、それでもこれほどの人員を警察が送り込んでくるとは、それほど本国の人口も減ったか」


 資料によると転移12年目の日本本国人口は、1億1800万人を割ったという。

 大陸に移民した日本人は880万人に及ぶ。

 出生数は毎年上昇しているが、死者の数には追い付かないのが現状だ。

 警察も自分達の行き場に焦りを感じているのかも知れなかった。


「ところで浦和市はスティングの巣の処理に困ってるそうですが……」


 主の失った巨大な蜜の固まりに多数の虫や動物、モンスターが群がっているらしい。

 また、大陸人の冒険者も蜜やモンスターを狙って集まっているらしい。

 一種のダンジョン化しているらしい。

 日本人からは、同胞の血を吸った血生臭い蜜は御免被りたいが、大陸人は気にせずに珍重されているらしい。

 人食いモンスターを遠慮せずに食っていることを気にしないのは、文化の違いとしか言えない。


「巣の放置が長期化すれば他のスティングを呼び寄せる可能性がある。

 後腐れが無いように焼き払え」


 蜂の巣は完全に除去しないと、戻り蜂という残党に巣を再建されることがある。

 モンスター化した蜂であるスティングもこの習性がある。

 駆除業者や専門家の意見を聞きながら、巣の完全除去の命令が下された。



 この事件は昨年から続く、モンスターのスタンピードの一貫だった。

 日本の支配領域では初めてのケースだったが、大陸の各所ではどこかの街が襲われ、村がモンスターの群れに飲み込まれた事案が多数発生していた。

 それに対して、王国軍や貴族私兵軍が対処に当たっているが、沈静化の目処が立っていない。

 そもそもの原因が日本を含む地球系連合軍による戦争により、皇国軍の壊滅や貴族私兵軍の弱体化し、モンスターの間引きが出来なくなったからだ。


「つまりは我々のせいか」

「ドワーフ難民にも手を焼いているんです。

 王国民がこちらで難民化しないよう対処しましょう」


 他のところがどうなろうと、基本的には知ったことでは無かった。




 日本国

 神奈川県横須賀市

 陸上自衛隊 武山駐屯地


 武山駐屯地は、海上自衛隊横須賀教育隊、横須賀音楽隊、衛生隊、航空自衛隊武山分屯基地を隣接させており、敷地や一部の施設は共用されている扱いとなっていた。

 転移後の再編で第52普通科連隊が駐屯しており、隊員の増員でやはり手狭になっていた。


「海自さんが引越しに同意してくれて助かったよ」


 連隊長の朝比奈一等陸佐は、胸を撫で下ろすように海自教育隊の引越し作業を連隊司令部庁舎から眺めていた。

 引越しには連隊隊員を手伝わせて、移転先の旧在日米軍吾妻倉庫地区にも同行させる。


「しかし、吾妻島は地続きじゃないだろ?

 どうやって渡るんだ」


 吾妻倉庫地区のある吾妻島は、元は箱崎半島と呼ばれて地続きだったが、明治22年に掘削されて島になった経緯がある。

 爆薬を仕掛けて無理矢理水路を作り、燃料や火薬庫が置かれた。

 太平洋戦争後もやはり米海軍の燃料や武器弾薬が大量に貯蔵されていた。

 転移後の混乱による燃料不足や皇国との戦争における武器弾薬不足を補う大きな一助となって、日本国に島ごと返還され譲渡される。

 どう考えても在日米軍はおろか、米軍全体が十年は戦えそうな貯蔵量を在日米軍基地全体に残していたのは謎とされている。

 現在は海上自衛隊横須賀基地所属の特別警備隊第一中隊の基地が置かれている。


「最近、仮設の橋で渡れるようにしたみたいですよ。

 やっぱり不便でしたから」


 武山駐屯地司令にて、52普連副連隊長の横瀬二等陸佐が言うように吾妻島は明治の頃から民間人立ち入り禁止の島だった。

 それは在日米軍時代も変わらず、転移後の現在も続いていた。


「落ち着いたら視察にでも行ってみるか」

「釣竿は置いて行って下さいね」


 吾妻島の釣り場ではシロギスやカレイが吊れたりするのだ。

 海に面したけど武山駐屯地では、スルメイカやヤリイカが吊れる。

 隊員達がイカの干物工場を駐屯地内に勝手に建築したことは、公然の秘密になっている。


「海自の連中も下手に探ろうとしなければ追い出されなかったのにな」

「いや、冗談ですよね?」


 朝比奈一佐は肯定も否定もせずに書類仕事をやりだした。


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