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日本異世界始末記  作者: 能登守
2028年
101/266

警察庁特殊強襲連隊、SAR( Special Assault Regiment)

 大陸東部

 新京特別行政区

 大陸総督府


「よって残された旧アフリカ、西アジア、中央アジア、オセアニアの諸国民に日本人配偶者、無国籍者を入れても四万人に達するかどうかです。

 独立都市建設基準の五万人には至りません」


 秋山補佐官の説明を会議室の一同は面倒そうに聞いている。


「もう例外を認めてまとめて放り込んじゃえばいいんじゃないか? 

 どうせ大半はムスリムだろ?」


 北村副総督の発言に杉村外務局長が苦言を呈する。


「民族も宗教もバラバラの連中をですか? 

 内戦のフラグにしか見えません」

「だからと言って、うちの国でいつまでも養うのも問題があるだろ。

 外人部隊として、アフリカや西・中央アジアは旅団化した戦力まで持ってるんだぞ。

 軽歩兵程度の武装とはいえ、矛先がこっちに向かってきたら厄介だ。

 内戦をしたいならさせておけばいい。

 地球と違って消耗した武器や兵器は補充できないんだからな」


 出席者達の発言を秋月総督は聞き流していた。

 同じ内容の会議を一ヶ月事にやっている。

 内容も結論も対して変わらない。

 会議の時間が終われば次回に持ち越しで、また来月に会議が開かれる。


「実に不毛な時間だ。

 会議じゃなく、討論会だなこれは」


 思わず呟いてしまい注目を浴びる。


「確かに総督閣下の仰られる通りです。

 この一年で変わったことと言えば、アフリカ系の驚異の出生率で、人数が千人ほど増えたくらいです」


 一応、変動は合ったのかと秋月総督は冷や汗を掻く。


「増えてるのが確実なら、次の会議は人口が定数に達してからでいいだろう?

 浦和市に対する懸念や陳情も山のように溜まっているんだ」


 浦和市はさいたま市民が移民を開始した新都市だ。

 現状では自衛隊の守備隊がいない問題がある。


「その件なのですが、本国の警察庁から提案があります。

 次回の会議で提出しようと思ってたのですが」


 そう発言したのは、新京警視庁の柿崎亮警視総監だった。

 大陸東部の自治体名は新京都となる。

 それに伴い、警察組織は警視庁となった。

 警視庁の名称は、警察法により都警察の本部にのみ許されている。

 かつてはGHQ(連合軍最高司令部)の意向で、大阪市警視庁が存在していた前例がある。


「不毛な会議よりマシでしょう。

 検討はともかく、提案は聞かせてください」




 日本がこの世界に転移後、『隅田川水竜襲撃事件』の影響と失業者対策として、警察も大幅な増員と武装の強化、再編成が行われた。

 また、機動隊をはじめとする重武装警察官は、警察庁の指揮下になった。

 しかし、大陸への移民が始り、大都市の住民が激減したことにより、増員した警官達を持て余し始めたのだ。


「さしあたって特殊強襲部隊SATの隊員が、教導隊含め1200名います。

 先の戦争時に予備部隊として、連隊として編制されたのを参考に派遣できます」


 本国内のグール事件や『佐賀県ハーピー襲撃事件』で、モンスター相手に実戦も経験している隊員も多く、陸上自衛隊の普通科部隊にもひけを取らない。

 自衛隊が間に合わないなら他から戦力を抽出するしかないのだ。


「ふむ、派遣を要請してみますか。

 今は少しでも戦力が欲しいですからね」


 提案を聞くだけのつもりだったが、承認しても良さそうだった。

 会議出席者の反応も悪くない。

 但し、大陸への派遣は移民と同義となる。

 些か時間は掛かると、誰もが考えていた。

 部隊名は特に変えずに警察庁特殊強襲連隊、SAR(Special Assault Regiment)と呼称されることになった。







「確かに呼んだけどさ、まさか一週間で来るとは思わなかったよ? 

 強襲部隊ってそうゆう意味?」


 執務室に出頭した連隊長の高里三郎太警視長は、敬礼したまま返答に困った顔をしている。


「許可を得た時点で、連隊はSAT本部の有る成田空港跡で訓練中でした。

 そのまま最低限の装備をしたまま、成田空港跡に保管されていた旅客機で空輸されて来ました。

 車両、他装備、家族は後日空輸されてきます」

「いや、装備はともかく家族とかは大丈夫なの? 

 これは出張とか転勤どころか、移民なんだからね?」


 秋月総督は頭が痛くなってきた。


『絶対に承認されるのわかってて準備してたろ、こいつら』


 と、言いそうになったが、現場責任者の高里警視長を追究しても更に面倒な連中が出てきそうなので、諦めていた。

 秋山補佐官が頭を抱える上司の代わりに話を進める。


「基地に関しては守備隊用に用意していた駐屯地予定地と庁舎があります。

 家屋も駐屯地予定地周辺に優先的に用意しますので、隊員と家族のリストを頂いてもよろしいのでしょうか?」


 SATの隊員は、家族どころか同じ警察官同僚にも同部隊に所属している事を機密扱いにしていた。

 だがさすがに大陸に家族を含めた移民扱いではそうもいかない。


「SATが増員された時点で、機密扱いからは解除されていますので問題はありません。

 暫くは杜都市周辺のモンスター狩りで、市周辺の安全の確保と練度を高めたいと思います」





 大陸東部

 浦和市


 浦和市周辺は建設ラッシュで、資材を運搬する車両や工事車両が幹線道路を引っ切り無しに走っている。

 最優先の市街防壁は完成しているが、市外に繋ぐライフラインの工事が遅れていた。

 その工事現場では、遅れを取り戻すべく大勢の作業員が働いている。


「最近、蜂の羽音みたいなのが良く聞こえないか?」


「そうっすね。

 まあ、警備員もいるし、ドワーフ達もいますから大丈夫でしょう」


 会社は猟銃や刀剣で武装した警備員を配置している。

 また、難民キャンプから出稼ぎに来ていたドワーフ達も武器を携えて工事に参加していた。


「いつもなら事前に自衛隊が来て、演習を兼ねてモンスターの掃討をしててくれてたんだ。

 しかし今回は人手が足りなくて行われていないんだよな」


 代わりに役所や会社が雇った冒険者が駆除作業を行っている。


「俺等も武器を持ち込んだ方がいいっすかね?」


 工事の邪魔になるので、武器の携帯は禁じられていたが管理棟のロッカーや車両のトランクに保管していた。

 ちなみにドワーフ達に関しては、文化の違いと頑固さの前に説得を諦めている。


「まあ、明るいうちは大丈夫だろう。

 暗くならないうちに帰ろう」


 市外の工事は暗くなる前に撤収するのが原則だ。

 防壁の中なら大概のモンスターには越えられない。

 防壁にはサーチライトも設置されている。

 サーチライトで照射されれば猛獣系や爬虫類系のモンスターは逃げ出したりする。

 暗くなる前に作業員達をバスやワゴン車に乗せて、市内に帰還していく。

 市内の作業が残っているので、バスの中では大半の作業員達が寝ている。

 だが何かが車体に当たる音に幾人か目を覚まして、外を見る。

 車体の壁には無数の蜂が群がっていた。

 一匹一匹の大きさは、一メートルほどだ。


「スティングだ!!」


 ドワーフの一人が叫び、作業員の一人がモバイルで検索する。


「一つの巣に約三百匹程、その足や針は鉄の盾や鎧を貫通する。

 針で刺されると毒か、卵を産み付けられる。

 口からも蜜蝋を吐き、獲物の動きを止める。

 卵は早々に幼虫が出てきて、体内を食い散らかす」


 車のガラスが割られ、車体に穴が空き始める。


「車内に入れるな!!」


 警備員を乗せた車が発砲を始めている。

 バスの作業員達の武器はトランクルームにあるから一度外に出ないと取り出せない。

 それでも運転手の拳銃や棒切れで抵抗する。


「救援は?」

「連絡済みです」


 別のバスはドワーフの短い足に対応する為の低床のワンステップバスだ。

 当然、トランクルームは無いので、ドワーフ達は武器をその手に持っていた。


「打って出るぞ!!」


 40人のドワーフ達が斧やハルバードで、スティングを切り裂き、叩き落とす。

 上からの攻撃には安全ヘルメットでは心もとない。


「バス同士を横付けさせて、スティングの進路を限定させるんだ!!」


 バスとバスの間にドワーフ達が奮戦する。

 バスの車体が壁になり、曲線を描く飛びかたが出来ないスティング達が討ち取られていく。

 さらにドワーフ達の手で、トランクルームの扉が開けられ、車内に刀剣や猟銃、スコップが放り込まれる。


「弾を込めろ!!」

「この野郎、よくもやりやがったな!!」


 屈強な作業員達も反撃を始めるが、幾人かの作業員やドワーフは、噛まれたり、脚で腕を刺されたりで負傷者は続出している。

 幸いにも卵や毒を植え付けられた者はいない。

 各車両は微速で動きながら防壁に向かう。

 しかし、どの車両も次々と動かなくなる。

 運転手の言葉に作業員達は絶望する。


「蜜だ。

 巣を造る蜜がコンクリートの用に固くなって」

「おい、何やってるんだ!? 

 早く動かせ!!」

「駄目だ、タイヤがまわらない」


 よく見ると、車体の外周が蜜蝋で、塗り固められている。

 タイヤも針で刺されて全てパンクしている。

 バスの馬力ならそれでも進めそうだが、車外で戦うドワーフや作業員達の壁になっている車体のスピードを上げるわけにもいかない。

 並走していた低床のワンステップバスも動きを止めていた。



 数百匹のスティングは、バス二両と警備員を乗せたワゴン車に群がり、蜜蝋を口から噴射してドーム型の巣を造り始めた。

 作業員もドワーフ達も蜜蝋を浴びて、体の動きを封じられて行った。




 大陸東部

 那古野市

 海上自衛隊那古野基地


 海上自衛隊の基地の桟橋に、一隻の自動車運搬船『日王丸』が入港した。

 自動車運搬船は、移民達の車両を運搬する業務を担っていた。

『日王丸』は八百両を越える車両を積載する能力を有し、今回の航海では警察車両を輸送し、海自の基地に入港したのだ。

 柿崎亮警視総監と特殊強襲連隊隊長高里三郎太警視長が出迎えに来ていた。

 タラップから次々と全国のSATが使用していた車両が吐き出されていく。

 大陸東部方面隊総監高橋二等陸将や第16師団師団長青木一也陸将も見学に来ている。


「我々以外にも結構来てるな」


 さすがに海自の基地には入ってこれないが、対岸や遊覧船に大陸の貴族や商人らしき者達が、『日王丸』を見学に集まっていた。


「ああ、船の名前が誤解を招いてるようで、皇室御用達の船と勘違いされてます」


 自衛隊組のジト目に警察組は無視を決め込んでいる。

 高橋陸将達にもしても警察車両の見物に来ているだけなので邪魔をする気は無い。

 銃器対策警備車、特型遊撃車、小型遊撃車、現場指揮官車、人員輸送車が次々と目の前を通過していく。

 そのうちの1両に青木陸将が目を剥いた。


「おい、あれ、警察が何だってあんなものを持っているんだ?」


 高里警視長がやはり追求してきたか、という顔で答える。


「貴官等が不採用にしたので、我々が採用しました。

 財務省や通産省が不良在庫を押し付けてきたのは間違いないですが、我々的には十分な性能でしたからね」


 それは防衛省が開発していたが、転移三年目に開発を中止した装輪装甲車(改)と呼ばれていた車両だった。

 中止に至った経緯は大陸との戦争が始まって余裕が無くなったのと、地球標準の耐弾性能を要求してしまったからだ。

 結局のところ転移後も96式装輪装甲車の生産が継続することになり、新型装輪装甲車の開発は中止になった。

 この時点で試作していた装輪装甲車(改)を武装の強化に取り組んでいた警察が目を付けた。


「まあ、今のところ9両だけの虎の子、少数生産だから高く付くのが難点でな」


 柿崎警視総監が答えるが、送迎のパトカーから警官が駆けてくるのが目に映った。


「浦和市警から緊急連絡です。

 中型昆虫モンスターの群れに襲撃され、防壁にて応戦するも市街にすでに入られたと。

 すでに壁外では犠牲者も出ているとのことです」


 報告とは別に柿崎や高里、青木や高橋の携帯電話も鳴り始めた。

 内容は皆同じだろう。


「自衛隊さんは浦和市にどれくらいいますか?」

「空自が新設した第20警戒隊と三自衛隊合同の地方協力本部の事務所に5名か。

 全員に普通科隊員の装備と軽装甲機動車と高機動車が1両ずつ。

 動ける隊員には出動を命じるが、市警だけで持ち堪えられるのか?」


 どうあがいても近隣の自衛隊を緊急には派遣できない。

 市警には三百名の警官がいる程度だ。


「先行させたSAR第1・2中隊の隊員が汽車で神居市に宿泊している」

「神居市の装甲列車を用意させよう」

「問題がひとつある。

 隊員の武装や防具はここにある」


 一同の前を数台のトラックが通過していった。

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