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日本異世界始末記  作者: 能登守
2028年
100/266

或る大陸人の生活

 大陸東部

 日本国統治地域

 西陣市

 西陣中央病院


 半月前の起きた米海軍強襲揚陸艦『ボノム・リシャール』火災事件の負傷者達は、この西陣中央病院に収容されていた。

 西陣市の中央病院と言ってもまだ設立して一年足らずの病院では不足する医療物資も多い。

 しかし、最近はその物資の消費を大幅に解消する人材が採用されていた。



 この日も手術室では火災で大火傷を負った米海軍士官が、検査で見つかった悪性腫瘍の摘出手術が行われていた。

 腫瘍は腸に見つかっており、執刀医は日本では考えられないくらいに多目に腫瘍付近の腸を切除していた。


「摘出は完了、後は頼む」


 執刀医が後ろに下がると、手術着を着た大陸人の女性が切除部に手をかざし、祈りの言葉を唱えた。


「『地と記録の神』よ、彼の者の傷を癒したまえ……」


 切除された腸がみるみる正常な形に復元されていく。

 この奇跡の光景に日本人の医療関係者は羨望や嫉妬、呆れの目で見つめている。

 だが彼女の癒しの奇跡では、腸を回復させるだけで限界だった。

 倒れ混みそうな脱力感に他の看護師が体を支え、椅子に座らせて額の汗を拭き取ってくれる。

 患者の開腹された部分は、通常の医師達が縫合を行っている。

 幸いなことに契約では奇跡の力を使用は、手術が予定されてる日は一日に一回。

 西陣中央病院に限らず、市内の病院全域を複数人の奇跡の力の遣い手で担当している。


 彼女の名前はマリーシャ・武井。

 れっきとした大陸人であり、日本人の都市に居住・労働が許された際に、戸籍登録の必要から付けた通名である。

 元々孤児院出身なので家名は無いし、孤児院では一番同名が多いマリアという名前だったので、通名が許可されたのは幸いだった。

 武井と家名は、西陣市に来る途中の汽車で読んだ雑誌に載ってたモデルの苗字から採用した。


 奇跡の力が使えるようになったのは、孤児院を運営していたのが『地と記録の神』の教団であり、神官に準ずる生活や教育を受けていたせいだろう。

 初代皇帝の定めた法で、神殿には孤児院や施療院を併設し、運営することを義務付けられている。

 マリーシャが育った孤児院もそんな孤児院の一つだった。

 その中でも資質があったのか、神の声が聞こえて奇跡の力が使えるようになった。


 問題は彼女は神殿に仕える動機が全く無かったことだ。

 それでも育ててくれた恩から、最低限の奉仕の義務を果たすと、侍祭の階位を貰って神殿から出た。

 侍祭は奇跡の力を使える者の最下位だが、身元保証としては最適な物だ。

 最初は村や町で癒しの力を生かした診療所でも開こうかと思っていた。

 義務奉仕の時に隣接する施療院で、最低限の医療も学び、従事していたからだ。



「でも診療所を開く為の資金も無かったし、地域医療は各教団の神殿や引退した神官の縄張りだったのよね」

「ああ、既得権益を持った先人がいたのね」



 仕事が終わり、マリーシャは看護師の友人達と居酒屋でビールを飲んでいた。

 看護師の宮嶋杏子や春沢美幸が酒の肴に、マリーシャの話を聞いていた。

 そういえばマリーシャは成人してたか杏子は疑問に思うが、大陸人に飲酒に関する義務年令は無かったと気にするのを止めた。

 最もここは日本の領土内なので、日本人の法律が適用されるのだが、最近マリーシャの好物となった唐揚げを頬張ってる姿が可愛くてどうでもよくなっていた。

 まあ、彼女達も酔っていたのだ。



「最低でも村の出身者とかだったらあ~ 

 診療所に就職出来たんだけど、これも枠が埋まってたの。

 職の無い村の未亡人とかを看護師として雇用する制度まであったし、地元の冒険者の大事な仕事だったりね」


 これも皇国の初代皇帝が定めた法だ。

 ただし、本来ならそこまで雇用の枠が埋まる程では無かったのだ。

 当時は日米含む地球系連合軍との戦争で、未亡人や孤児が急激に増えていた。

 奇跡の力に目覚めていたマリーシャがあっさりと教団を抜けれたのも、教団のキャパシティが逼迫していた事情もある。

 冒険者も依頼の仕事として、地域医療や老人介護も含まれている。

 冒険に出なくても日銭を稼ぐ事が出来るようにする為だ。

 その費用は領主からの寄付や年貢や徴税官に支払った税金から積立てされているらしい。


「医療保険みたいね。

 初代皇帝って、凄かった?」

「そのおかげで、私は仕事にあぶれたけどね。

 それに終戦時の混乱で、財源に流用されたりで破綻や廃止となった領地も多いわ」


 奇跡の力があった分、医療費が高騰しなかったのも大きい。

 命に対する諦めが早かったのもある。

 助からない、長期の負担になると判断された患者は、早々に永眠させられたのだ。


 日本人看護師の二人は、多少の問題はあったかもしれないが、そんな制度が千年近く前に考案され、続いていたことにも驚いていた。


「でもマリーシャはその後はどうしたの?」

「冒険者ギルドには登録してたから、日銭を稼ぐ毎日だったわよ。

 そんなある日、地元の冒険者ギルドが日本に買収されて、新しいギルドのスタッフにスカウトされたの。

『貴女の奇跡の力を日本が新しく造った町で活かして見ませんか?』と」





 西陣市

 西陣セントラルホテル


 大陸副総督北村大地は、補佐官の青塚や市の医療関係者と会食を行っていた。


「昼間に見せて貰った奇跡の力を使った手術。

 なかなか視察の甲斐はあったな。

 あれがあれば我が国の再生医療なんかは目じゃないな」


 医療関係者がいる前での発言に青塚補佐官がフォローを入れる。


「問題は対象が怪我人であることです。

 確かに内臓摘出や開腹処置中ならば、奇跡の力は発動するわけですが、そこに持ち込む医療関係者の方々の力はまだまだ必要です。

 昼間に観た彼女は侍祭クラスですが、一人では治癒しきれていない点も考慮にいれなければいけません」

「一つの手術を終わらすのに、あの侍祭クラスだと四人は必要か?

 人材の確保が困難なのは俺も理解している。

 しかし、本国も含めて医療物資が不足している現在は、非常に有用なのは間違いない。

 スカウトでもヘッドハンティングも積極的にやれ。

 他の都市や新都市でも病院建設はラッシュ状態だ。

 当面は不必要になることは無い」


 北村が促したのは、医療関係者に混じって会食に参加していた石和黒駒一家の組長の黒駒の勝蔵と若頭の荒木である。

 表向きの肩書きは人材派遣会社の社長と副社長だ。

 ちなみにマリア改めマリーシャをスカウトしたのは荒木だったりする。


「わかりました。

 特に西部や南部からですね」

「ん?

 ああ、いい目の付け所だ。

 無理に拘る必要は無いが、華西や南部の独立都市が気がつく前に教団に所属してるの以外は引き抜いてしまえ。

 医療関係者も当面は、奇跡の力の遣い手を雇用してることは公表を避けろ。

 我々が十分な人数を確保出きるまでな」


 教団の神官達は信仰心を拠り所に集まっている連中なので、引き抜きが難しそうなのは理解できた。

 何より各教団は基本的に皇都大空襲で、多数の教団上層部や神官戦士団を灰に変えられたことで、非協力的なのだ。

 教団を離れた在野の人材を探す他に無いが、他の地球系独立国・都市に知られて、ライバルを増やす必要は無い。


「本国の方は大丈夫なんですかい?

 気がつけばあちらも本国に人材を回せ、とか言ってきそうですが」


 黒駒勝蔵の指摘に北村は苦々しい顔をする。


「あの忌ま忌ましい府中の相談役が気がつかないはずがない。

 だが現時点で本国政府が何も言ってこないなら、藪をつつく悪手は取りたくない」


 マディノ元子爵ベッセンの話は、医療関係者の前で大っぴらに話せる内容では無い。

 本国でも日本人の転位後に産まれた子供達から魔術を使える者が出ている。

 神道系と仏教系の術者が回復系の奇跡の力を使える事がわかっている。

 ただ最年長でも小学六年生なので、いまだに社会には出ていない。

 本国政府も将来に備えて温存する気が見てとれる。

 来年は町田市あたりから素質のある子供集める計画らしい。


「まっ、児童を政府機関が働かせるわけにはいかないからな。

 こちらの人材が引き抜かれないよう牽制はしておこう」




 西陣市の中央部のマンションにマリーシャは部屋を割り当てられていた。

 このマンションはマリーシャと同じ用に居住や労働が認められた大陸人ばかりだ。

 転居は可能だが、日本式のマンションは居心地がいいし、引越しにも費用が掛かる。

 近くの交番がこちらを監視していると、下の階の魔術師テリーニが語っていた。

 それでも日本人達が素直に大陸人を信用する訳がないと、住民は誰もが受け入れていた。

 むしろ転居出来るくらいには、一財産稼ぎ、生活の基盤を造ったと信用を得るんじゃないかとの結論だった。

 マリーシャはシャワーを浴び、ベッドに寝転んでからふと考えた。


「う~ん、やっぱりテレビが欲しいなあ」


 病院での同僚との会話に付いていく為にも、娯楽の充実の為にもテレビが欲しがった。

 すっかり日本式の生活スタイルを受け入れた彼女達は、以前の大陸人の生活スタイルには戻れなくなっていた。





 日本国

 千葉県千葉市大網区

 白子町沖


 大陸への移民を乗せ、帰還時に食料や鉱物資源を満載したフェリーや貨物船が千葉県の各港に寄港していた。

 積載された物資を降ろした後は、再び移民を乗せて大陸にとんぼ返りだ。

 そのうちの1隻の中型フェリーの窓から、大陸の人間と一目でわかる装束の男が、食い入るように港を見つめていた。


「船員はここで全員交代して家族と過ごすそうだ。

 我々もここで降りる」

「日本がどれほど進んだ地なのか戦々恐々としていたが、思ったよりひなびたところだな」


 大陸より招かれた魔導士エステバンの感想に、同行していた公安調査官の松井繁は久々の本国帰国の気分に水を差された気分だった。


「まあ、東京湾は千葉市民の移民船で大渋滞ですからね」

「ここも千葉市のようだが?」

「こっち側にはフェリーが寄港出来る良港は無いんですよ。

 転移後の市町村合併で、千葉市に編入された町ですからね。

 ひなびてるから目立たなくて済みます」


 千葉市は転移後に大網白里市と白子町を合併し、大網区とした。

 これにより、千葉市は外房まで市の境が伸び、房総半島を分断する形になっている。


「待て、寄港出来ないのに我々はどうやって上陸するのだ?」

「迎えの船に乗り換えます。

 荷物の忘れ物はありませんか?」


 勝浦海上保安署に所属することなみ型巡視艇『すがなみ』が、エステバンと松井調査官の乗るフェリーに接舷する。


「自衛隊の船とは違うのだな」

「さすがに大袈裟すぎて、動員出来ませんよ。

 護衛艦の大半は船団の護衛任務ですから、本国近海は海保さんが頑張ってますよ。

 それにしても……」


 松井は複雑そうに船首甲板に備えられていた13mm単装機銃(ブローニングM2重機関銃)を見つめる。

 従来のことなみ型巡視艇は非武装の巡視艇だった。

 海洋結界の縮小が判明した結果、非武装の巡視艇にも改修して13mm単装機銃(ブローニングM2重機関銃)を搭載させたのだ。

 占守島あたりはすでに海洋結界の範囲外になっているという噂もある。

 本国政府の焦りが感じられた。


「今の千葉市は混乱中で渋滞や電車も満員で酷い。

 東金から成田、柏から三田に向かってくれ」

「随分遠回りですね。

 まあ、一時間も変わらないか」


 艇長に伝えられた交通状況に松井調査官は眉をしかめる。

 上陸後は三田にある在日アウストリアス大使館に出頭し、大使であるレーゲン子爵に挨拶をしに行く予定なのだ。


「行き方なんて俺はわからんからな、頼むぜ」


 エステバンは些かドジで軽薄な松井調査官には、不安を感じていた。

『すがなみ』がさらに九十九里浜に近付くと、複合艇に乗せられて上陸を果たした。


 浜では待ち構えていた公安車輌で大網駅まで送られ、電車で三田まで向かうことになる。



 ガソリンが高価な為にここからは電車だ。

 最初のうちは、大陸で走っている汽車とは違う理屈で動いている電車にはしゃいでいたエステバンだったが、何度も乗り換えをさせられうんざりする顔を隠さなくなった。

 原子力発電所は全力稼働中なので、電車だけは転移前と変わらずに動いていた。

 最も都道府県間の往来は住民の移動を規制する為に県境の駅からは封鎖されている。

 国府台駅から小岩駅まで歩くことになった。


「大陸人は徒歩移動に慣れてるものだと思ってたが」


 徒歩移動にヘバっているエステバンに、今度は松井調査官が呆れている。


「大陸の民の大半は、自分達の住んでる村や町から生涯に渡って出ることは無いのさ。

 かくゆう私も貴族の三男坊だったから馬や竜車で移動してたからな」


 皇国が崩壊した時、エステバンは現在は王都となっているソフィアの魔術師学院の導士だった。

 皇国や貴族の奨学金で学んでいる魔術師や生徒と違い、実家からの仕送りで学院に通っていたエステバンは徴兵の対象から外れていた。

 皇国政府は才能を認めた平民や士族を皇都に招聘し、学院で学ぶ為の奨学金を支給している。

 有事の際には魔術師団に召集され、皇国の為に働く事を義務付けられている。

 また、当時はソフィア大公領の領都だったソフィアの学院には、貴族の子弟やお抱えの魔術師にする為に貴族から奨学金が出ている士族、平民が集められていた。

 日米を含む地球系連合軍との戦争が始り、大陸への上陸を許すと皇帝親征が決定した。

 全ての戦力の皇都への集結が指示され、ソフィアの学院でも教師は魔術師団に、成人に達していた生徒も貴族の私兵軍に召集された。

 学院に残った魔術師は老齢や成人前で、召集の対象外だった者達と召集の義務が課せられて無かった者達だ。


 そして、米軍のB-52爆撃機による空爆で誰も皇都から生きて帰らなかった。

 その中にはエステバンの父や兄弟達も含まれる。

 戦後、男爵位に過ぎなかったエステバンの実家は爵位を剥奪されて領地も没収された。

 生徒達に魔術を教える導士だったエステバンは学院から給与が支給されている。

 皇国から国を引き継いだ王国政府は学院への援助を大幅に削減した。

 日米及び地球連合への賠償が財政を圧迫したからだ。

 没収された領地からエステバンを頼ってきた家族を養う給与も削減されてしまった。

 暫くは副業として冒険者稼業に身を投じてみたが、学者肌のエステバンに都市の外での活動は厳しい。



 ある日、エステバンの家に日本の総督府からの使者が訪れた。


「日本本国の魔術師の私塾に導士として働きませんか? 

 実積次第では、男爵家の再興と領地返還をお約束しましょう。

 但し、十年は大陸には戻れません」

「爵位や領地も安くなったもんだな。

 引き受けようじゃないか」


 生活に困窮する寸前だったので選択肢は無かった。

 ついでに日本本国にも興味があった。

 日本の客船には驚愕したし、近代的な建物にも驚いたが、東京に入った途端にほとんど人と遭遇する事がなくなった。

 むしろ地下鉄にエルフやドワーフが乗り込んで来たときにも驚愕したが、海亀人やイカ人といった海棲亜人が乗り込んで来た時にはモンスターかと攻撃魔術を打っ放すところだった。


 三田駅で降りて三田二丁目まで歩くと、今度は大陸の人間ばかりなので安心することになる。


「この三田二丁目が王国の租借地として、大使館並びに職員の住居が設置されています」


 三田二丁目の旧慶應義塾大学敷地と神社仏閣を除く全域が塀に囲まれていた。

 三田通り交番と三田綱町交番には、王国からの駐在武官である騎士や兵士が詰めている。

 大使館業務は旧オーストラリア大使館で行われており、旧イタリア大使館は大使公邸となっていた。


「はるばる大陸から来たのだ。

 今晩は細やかながら晩餐会を開かせて頂く。

 松井殿も招待に応じて頂きたい」


 大使のレーゲン子爵の招待で晩餐会に参加する羽目になっていた。


「うっかり応じてしまったが大丈夫なのか?」

「日程的には問題無いのですが、公安の僕が参加するのは、問題があるような。

 まあ、警固の一環ということにしておきます」


 三田二丁目には王国民ばかりが住んでいるので、エステバンとしても知己を得て起きたかった。

 晩餐会では来日の目的を知られないように苦慮したがどうにか乗り切る。



 翌日、エステバンと松井は目的地である府中市に到着した。

 航空自衛隊府中基地の北側に転移後に在日米軍に返還された土地が有る。

 転移前は府中市基地跡地留保地と呼ばれ、管理棟が放置されて廃墟化している。

 その管理棟は改装され、エステバンの邸宅並びに研究施設となった。


「府中市民から職員を募集中です。

 暫くは不便でしょうが、御容赦下さい。

 荷物は明日には届くはずです」


 次に職場となる府中刑務所に案内された。

 刑務所と呼ばれているが、囚人は一人しかいない。

 その実態は転移後に生まれた日本人の子供の魔術教室だ。


「はあ、本当に生きてたんですね子爵殿」

「元子爵だよ。

 今となってはただのベッセンさ」


 大陸で天才の名を欲しいままにしていた皇国筆頭魔術師マディノ子爵ベッセンだ。

 彼は自らの自室にしている東1舎の6人用の雑居房の中でエステバンの到着を待っていた。

 戦犯として処刑されたはずの彼が目の前に現れたことに驚きつつも、生存に関しては然程でもなかった。



「子爵……

 ベッセン殿の生存説は、大陸の魔術師の間では頑なに信じられてましたよ。

 都市伝説のような目撃情報がちらほら有りましたからね。

 貴方なら不死の王に到達しても不思議では無かったですし」

「はっはは、死んだ事になっているが、片付けておきたい雑事が多くてね。

 精神体を飛ばしてたんだよ」


 肉体を伴わない精神体でも距離と時間の制約はある。

 大陸まで精神体を飛ばせるベッセンの魔力と才能に複雑な思いを抱いた。


 ベッセンは刑務所内では、制限はあるが自由に歩きまわれる。

 学舎としている東2舎で生徒達を紹介された。


「正直なところ貴方一人いれば十分だったのでは?」

「現状はね。

 でも来年には町田と西東京から仏教系7人、神道系が4人、大陸系が4人増えるんだ。

 色々と手がまわらなくなってきたから、大陸系を別教室に分割して君に任せたいんだ」


 現状の生徒は仏教系が21人、神道系が7人、大陸系8人の36人。

 確かに生徒が50人を越えれば、ベッセンの手に余るのは理解できた。


「それに仏教系と神道系は、実家と後援の教団からの紐付きだから、色々と面倒でね。

 私が表だって動けないこともあるから、そのあたりも君に任せることになる。

 必要な物は経費で落ちるから申請の書類の書き方も教えるよ」


 ベッセンにとって、仏教系と神道系の奇跡は貴重な研究対象だった。

 他の者に渡す気は更々無い。


 一連の話を聞いていた松井調査官は、報告書に


『元子爵殿はパシりを欲しがっていた』


 と記載し、上司の叱責を受けることになる。


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