表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

イジメと先生と苦い余韻

作者: イワオウギ

念の為に書いておきますが、

別に、学校や先生に恨みがあるとか、そういうことではないです。

ただ、

ふと思い出して、それで何となく書きたくなっただけです。

小学1年生から約2年間、

私は、毎朝ずっとイジメられていた。


私の学区では、登校するとき、

近所の小学生同士がどこか適当な場所に集まり、グループを作り、

それから、

一番上の学年の人を先頭に隊列を作り、学校に通っていた。

そのときに、イジメられていた。


私が小学1年生の頃は、

登校グループの6年生1人と、

その下の3年生(4、5年生はいなかった)の双子の兄弟が主にやっていた。

グループには他にも何人かいたが、

その人たちは、ほとんど傍観者だった。


イジメの内容は、今考えれば割と些細なもので、

悪口を言われたり、恥ずかしい言葉を大勢の前で言わされたり、

つねられたり、しっぺやデコピンの実験台にされたり、

頭や腹を小突かれたり、

鬼ごっこの鬼を延々とやらされたり(上級生3人がグルになっていたので、太刀打ち出来なかった)、

他にもいくつかあったけど、

まぁ、その程度のものだった。


で、

私はそれを、先生や親には言えなかった。

当時の私には、そもそも先生に頼るという発想が無く、

それで先生には言わなかった。

親に言わなかった理由は、私なりに色々とあるのだが、

このエッセイはそれがメインの内容ではないので、ここでは触れない。



イジメが止まったキッカケは、

私の弟が小学1年生になり、その登校グループに参加することになったことだった。

双子の兄弟が、私をイジメるついでに、

私の弟もイジメたのだが、

弟は学校から帰ってくるなり、それを母に報告したのだ。


母は、私にイジメを確認し、

その後、私たちを連れて、

双子の家に向かった。

門の前に立ち、インターホンを押したあと、


「よくもウチの子をイジメやがって! さっさと出てこい!」


と、物凄い剣幕で怒鳴り始めた。

しばらくすると、双子の母親が表に出てきて、

私の母と話を始めた。



次の日・・・かどうかは覚えていないが、確か休みの日、

母と一緒に学校に向かった。

学校には、私の担任の先生(女性)が来ていた。

このとき、

多分、色々とやり取りがあったはずなのだが、

生憎、私は全く覚えていない。


で、

イジメの内容を訊きたい、ということで、

私はひとり、教室に呼ばれた。

中には、

確か先生が、私の担任を含めて3人(もしかしたら2人だったかも)いて、

どんな風にイジメられていたのか、訊かれた。

私は、

今まで受けたイジメをいくつかピックアップし、説明した。


3つほどエピソードを披露したあと、

その教室を出て、母の待つ控え教室へ戻った。


しばらくして、

私は、

先生方のいる教室に、また呼ばれた。

何でも、

さっき話したイジメの内容をもう一度説明して欲しい・・・とのことだった。


私は、

先生方のいる教室に行き、イジメられた内容を説明し、

また、控え教室に戻ってきた。


しばらくすると、

控え教室に私の担任の先生が入ってきて、私に、

「もう一度、さっきと同じイジメの話をして欲しい」と言った。


何でも、

イジメの1回めの話と2回めの話が、少し違っていて、

もしかしたら私の作り話かもしれないので、

念の為、

もう一度、私が受けたイジメの話をして欲しい・・・とのことだった。


正直言って、

私は、

どのイジメをどうやって説明したか、正確に覚えていなかった。


イジメは、

学校のある日は、毎朝行われていた。

それらの数百ものイジメが、

全く同じ内容だったことなど、ほとんど無い。

毎朝、少しずつ改良(イジメている連中にとっては)され、

あるときには、全く新しいものが提案され、

変わっていく。


しかも、

そのときの私は、極度に緊張していた。

喋るのが、やっとだった。


そんな状況で、

全く同じ説明をするのは、私には至難の業だった。

そんなのムリだと思った。

でも、

心ではそう思っていても、

当時の私には、それを先生に説明できる技量も勇気もなかった。


私は、

何も言わずに、担任の先生とともに教室に行き、

イジメを説明し、

ひとり、教室を出た。


控え教室に戻る途中、

何で先生たちは他の人に話を訊かないんだろう・・・と思っていた。

イジメは、公園などでも行われていた。

公園には、

朝、登校グループがいくつか集まってくる。

その、いくつかのグループの人たちは、

全員、

毎朝、私のイジメを見ていた。

その人たちに訊けばすぐに分かることなのに、どうしてそれをしないんだろう?、

警察だってそうやって調べるのに・・・と、

私は廊下を歩きながらも、不思議でしょうがなかった。


結局、イジメは無かったことにされた。

先生の言い分によると、

私の説明が毎回微妙に異なっていて信用しきれないので、

学校としては、これをイジメとして扱うことは出来ない・・・とのことだった。

私は、何だかなぁ・・・と思った。

先生が、少し嫌いになった。



家に帰ることになった。

担任の先生と一緒に控え教室を出ると、

不意に、

担任の先生が私の前に屈み込み、私の顔を見上げて


「力になれなくてゴメンね」


と言った。

先生の目は、涙ぐんでいた。


私は、何か声をかけようと思った。

これでイジメは止むだろうし、そんなに気に病む必要は無い・・・とか、

要するに、そういうことを言いたかったのだが、

当時の私は、

それをどうやって言葉に出したら良いか、なかなか思い付けなかった。

ただ、先生の涙ぐんだ目をずっと見ているのがツラくて、

それで私は、

つい、目を逸らしてしまった。


少ししてから、

しまった!・・・と思った。


何かを言わなけば・・・と、すぐに思ったが、

何を言えば良いか、いくら考えても分からなかったし、

そうやってるうちに、だんだんと、

こんな目に遭ってる私が、どうして逆に気を使わなければいけないんだ・・・という気持ちになり、

それで結局、

私は黙ったまま、ずっと目を逸らしていた。


先生は、少しすると無言で立ち上がり、

母と何かを話し、

その後、

私は、ひとりで家に帰された。


その途中の道で、

私は、私をイジメていた連中と一緒になった。

「悪かった」とか謝られた気がするが、

正直言って、あまり覚えていない。

双子の兄弟が楽しそうに会話するオリンピックの話を耳にしながら

白とピンクのツツジの咲く歩道を、トボトボと歩いていた。

そして、

今回のことを覚えているのは良くない気がして、忘れないといけない気がして、

それで、

なるべく思い出さないようにしよう・・・と決心した。

イジメは、

その後、なくなった。



この学校での出来事を再び思い出したのは、

確か、私が20歳になってからだった。

祖母に、


「母さんはね、

 あのときに私をイジメていた生徒の先生からキ○ガイ呼ばわりされて、

 泣いていたんだよ。

 あんなに優秀な子(確かに双子の兄弟は成績が良くて、よく自慢していた)がイジメるわけがない。

 頭がおかしい、って」


と教えられて、

私は、突然に思い出した。

それまでは、見事にさっぱりと忘れていた。

人間って意外と凄いんだなぁ・・・と思った。



エッセイの「コーヒーゼリー」を書いているとき、

このことを、ふと思い出した。


泣きはらして私に謝った先生に対して、

やっぱり、あのとき何かを言ってあげるべきだったなぁ・・・と、

今は思う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ