不治の病でも幸せになれますか?!!?
初投稿です。
私の両親は共働きで、いつも忙しなく働いていた。母も父も、実家が貧乏で高校に通うことが出来ず、中退して2人共毎日アルバイトをすることで食いつないでいた。そんな生活でも、私達は幸せだった。両親はとても心優しく、少ない稼ぎだったけれど誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントは毎年くれた。だから私はこれからも両親と大人になるまでずっと楽しく暮らしていくのだと思っていた。
私が10歳の頃までは。
私が10歳になる半年ほど前のことだった。父の友人が大量の借金を抱えたまま海外に逃げ込んだ。父は孤児院の出の彼を思い、借金の代理人を自ら引き受けた。それが仇となったのだ。私の家は貧乏で高額な借金を返す余裕などない。その時、母が言った。
「まさき君...。オリハを頼んだわよ...。」
そう言った母は、取立てに来た黒いサングラスをかけたスーツの男と共に消えていった。
それから2年は何も無かった。父もケロッとした様子で仕事に励んでいたが、私は毎夜父が母の無事を祈っているのを知っている。しかし私が12歳になって2ヶ月ほどたったある日、白い帽子をかぶったテレビで見た怪盗のような服の男がやって来た。私は物置小屋の小さな隙間からその様子を覗いていたけれど、父に何を言っていたかはっきりとは聞こえなかった。
「娘を売れ。さもないと一家まとめて臓器売っぱらうぞ。」
『悪いがそれは出来ない。オリハを守るって妻と約束したんだ。どうしても連れていくというのなら私が代わりに行こう。』
「男なんか金になりやしねぇよ。それともあんたの臓器まるごと売るってんなら話はまた別だが?」
『...........わかった。ただしオリハには手を出すなよ...。絶対だ。金輪際あの子の視界にでも入ってみろ。お前ら全員祟ってやるからな。』
「いいだろう。娘の引き取り先くらいはこちらが手配してやる。さっさと車に乗れ。」
『最後にオリハと話をさせてくれないか?頼む...』
「ケッ...。まぁいいだろう。2分だけだ。」
『オリハー!』
父の呼ぶ声がする。物置小屋からばっと飛び出した。そのせいで服を引っ掛けてしまって、少し穴が空いてしまったがいつもの事だ。
それから父に3つのことを言われた。1つ目は父とは二度と会うことが出来ないということ。2つ目は父が連れていかれたらすぐにここから離れて2つほど県が離れた場所にある、父の友人の家に行くこと。お金は寝室の重ねてある客人用の枕の上から2つ目の中にあるからそれを使うこと。最後に3つ目は自分のやりたいことをやること。父は別れ際にこう言った。
『オリハ。自分のやりたいことをやりなさい。私達はオリハと一緒に暮らしてきた12年間とても幸せだったよ。』
それから私は父が連れていかれたあと、大急ぎで
荷物をまとめ、家を飛び出した。前に遠足に行った時に母に「荷物が多すぎてはいけない」と言われたのを思い出し、家族写真はお気に入りの1枚を持った。
それから、歩いてはバスに乗り、バスを降りてはまた歩き、もう自分の家など見えない距離にいた。疲れ果て、「もう無理倒れてしまう。」そう思うくらい遠くに来ていた。太陽が沈んだのはどれくらい前だろう。落ち着く場所を探して大通りの横の細道を何度曲がっただろうか。私は路地裏で座り込んでいた。
(疲れた...。父の友人の家は近づいただろうか...。もうこのまま眠ってしまいたい。そのまま夢の中で、父と母と普通に暮らせる違う世界に行きたい。)
私はふと目を瞑った。大通りとは違う辺りの暗く、ジメッとした空気は居心地が悪く少し嫌だったが、目を瞑っていると重たい足の方からジワジワとまるでティッシュに少しずつ水が染み込んでいくみたいに疲れが全身に広がってきて、すぐさま私を眠りに誘った。
それから夜が過ぎて、気がついたら朝日が路地裏の細く、ホコリかぶった壁の隙間から覗いてきた。昨日の疲れが嘘のように体が軽くて、少しだけ路地裏が好きになったような気がした。路地裏では、伸びするには狭すぎて、小さな体を起こしてのっそりと壁をつたい路地裏の出口へ向かった。
するとどうだろう。
辺りは大通りではなく一面見たことも無い銀色の小麦のような植物に埋め尽くされている。透き通るような朝日を実のようなもの一つ一つが反射していて、とても美しい。そして一面の銀色の小麦の奥の深緑色の湖の先にはまるでお姫様の住んでいるような大きなお城が見えた。
そう。私は違う世界に来てしまったのだ。
と、言うのが20年前の話である。あれから20年。
私はずっとこの小さく、小汚い洞窟に閉じ込められている。
読んでくださってありがとうございました。異世界ものは好きなのですが、やはり異世界に飛ばされるという初期設定から始まるものが多いことから、他の話と似通ってしまうと思い、前々から書いてみたかったのですが書かずじまいでした。ですので、もちろん多少は異世界ものの他作品の類似する部分もありますが、ぜひ面白みを皆さんで探してみてください。