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投稿忘れてました……
慧とリスタとフェイは、鈴の私室に呼び出されていた。いつも通りの報告を行うだけではわざわざ集まる必要はないが、今回の案件は重要度が高いというのが全員の一致だった。
「俺の方に向かってきた一人は拷問して情報を引き出そうとしたが、ダメだな。末端すぎてこちらが知り得ていることしか知らなかった」
才藤が言っていた、急遽送った人員とやらはフェイとの戦闘に敗北。故人となった旨が報告書に書かれている。
「僕としては息抜き感覚のつもりだったけれど、なるほど、ユールは災難体質だね!」
「まだ二件しか仕事受けてないんだけどなぁ」
「イレギュラーで生き残っていることは誇っていいことよ。うちの戦闘員でもあのレベルの実戦はなかなか経験できないから」
慧は自分の能力が強力で良かったと思う。能力者になってからというもの、命の危機が非常に多い。これが他の能力であればきっとこうはなっていない。
現状は能力が強力なためどうにかなっているが、今後もそうであるかと問われると大丈夫などとは間違っても言うことはできない。
「ふむ。ならしばらく依頼は出さないようにしようか? ハードな現場でPTSDなんかになられても困るし」
「できれば戦闘系の依頼が欲しいかな。なければないで訓練でもするから良いんだけど」
今ここでは誰も仮面を着けていないため、その驚いたような顔がわかる。特に驚いているのはリスタだった。
「貴方本当に大丈夫? この前はその。初めて、だったんでしょ?」
「大丈夫だ、問題ない。覚悟は決めた」
「あはは。これまた、どうしようかな。フェイ、君はどう思う?」
鈴の悪戯っぽい表情でフェイの方に笑いかける。
「愚問だな。休むべきだ。今はまだ神経が過敏になっているにすぎない」
しかし、と続けるとフェイは鈴から視線を外す。
「本人が望むのならば。好きにさせるべきだとも思う」
「へぇ。理由は?」
「直感だ。俺のではなく、その本人の」
真面目、堅物。そのような人物からそのようなオカルトめいた話が出るとは思わなかったので、慧は少しだけ興味深く思う。
「そうしなければならないと本人が感じているのならば、きっとそれはその必要があると何かが判断したということ。ならば外部がとやかく言うのもおそらく違う」
「意外ね。貴方、てっきりそんなことは歯牙にも掛けないものと思ってた」
リスタも同様であるらしく、フェイに対する認識がそうズレのあるものではないことを慧は確認する。二人を眺めながらも鈴はその笑みを崩さない。
「こと能力に関しては別だ。俺はこれまでこの感覚に幾度となく助けられてきた」
「ま、そういうことだ。君の思うままにするといい。あぁ、そういえば、今僕はエジプトで戦争してるんだけれど、良ければ来るかい?」
エジプトで仕事をしているという話はしていたが、まさか戦争という言葉が出てくるとは思わなかった。現状、戦闘能力の底上げは必須と考えていい。ならばどうするべきか。
「一応聞くが、学校の時間は日本にいることができるのか?」
「そうだね。日本との時差がだいたい七時間ほど。こちらの時間で23時から朝の7時まではいてほしいかな。かなりキツいと思うけど、それでも来るかな?」
つまり学校に行くことは可能だが、休む時間はほぼないと言っているようなもの。
「わかった。大丈夫だ」
「貴方、本当に行くつもりなの? 眠る時間すらほとんどないスケジュールよ、それ」
「そこについてはアテがあるんだ」
狂針時計を用いれば時間を引き伸ばすことができる。最近わかってきたことだが、狂針時計の最中でも通常通り代謝は働いているらしい。
クロノもどうやら眠ることがあるようだが、それならクロノに日中眠ってもらって夜は狂針時計の制御をしてもらおうという、かなり人任せ、もとい能力任せな案だ。
脳は働くことになるため少しだけ無茶をしているような気もするが、なんとかなるだろう。
『前々から思っていましたが、マスターは意外と頭が悪いですよね』
『できなくはないだろ』
そう、俺は既にそれを行っている人物を知っている。というか目の前にいる。今だからこそわかる。空閑鈴は初めて会ったあの時、眠りながらも能力の維持を行っていた。既に先駆者がいるというのならできないということはありえない。
『マスター次第ですけどねっ』
『わかってる』
「ふむ。最後に確認。君が行こうとしてるのは戦争だ。当然人が死ぬし、辛い思いもするだろう。ウチは傭兵としての参加だ。既に殉職者も何人か出ている。いずれも決して弱くはない能力者たちだった」
鈴は真剣そのもので、リスタは心配そうに。フェイは取り立てて関心があるようではなく、無感情に薬物取引の件の報告書を再度眺めていた。
フェイが顔を上げる。その瞳が慧を射抜いた時、鈴が重い口を開いた
「君には何が何でも生き延びる覚悟はあるかな。誰かを蹴落としてでも。無数に積み重なる屍を越えて理想を、目的を達する覚悟が」
「俺は、俺には……」
ふと家族の顔が思い浮かぶ。続いて何の変哲のない日常が。
今回の件ではっきりとわかった。力がなければこの日常は今や簡単に崩壊する。それだけはあってはならない。
「俺にはその覚悟がある。こちらからも一つだけ聞きたい」
「へぇ。何を、かな?」
一拍置いて鈴が微笑む。慧をからかうように瞳は細められている。ぞわりとした感覚がリスタを襲ったその時、慧も笑った。
「俺はこれが終わると強くなれるか?」
「ふふっ。君、やっぱり面白いね。そんなのは君次第、と普段なら返すんだけど。そうだね、間違いなく強くなるだろう。他でもない君ならね」
この時、慧のエジプト行きが正式に決まったのだった。
これにて三章は終了となります。
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