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時の掌握者  作者: 夢我霧中
三章
32/39

05

 一時間後。慧は燃える火のような赤い髪の男と、恵令奈と一緒に軍専用車両に乗っていた。

 軍の人員が慧が昏睡させた六人を別の車両に乗せた後、慧たちも事情聴取のために車内に移る。


「休日だと言うのに災難だったね。高塒くん」

「いえ、私は大して何もしておりませんので。敷根少佐こそご足労いただきありがとうございました」

「君が報告にあった高塒くんの兄だね。私は特殊作戦軍の第二十四中隊長を任されている敷根しきね悠仁ゆうとという。年は17だから君と同じかな、砕けた話し方で構わないよ」


 妹が真剣な表情で敬語を使っているのを見ると、慧としては意外に思うと同時に、しっかりと特軍でもやっていけているようだと安心する。


 だが、もしかすると今はそんなことを考えている状況ではないのかもしれないと、慧は頭を切り替える。


「なら、遠慮なく。これはどこへ向かっているんだ?」

「近くにある特軍の施設だよ。まぁ警察署みたいなものさ」

「それって事情聴取とかか?」

「そうなるね。被害者というのは把握しているが、一応決まりなんだ」


 車に乗せられた時点でそんな予感はしていたのだが、実際にそうなるとべったりとした嫌な汗が滲む。

 簡単にその場で話に答えるだけだと思っていた数十分前の慧の楽観的な予想はあっさりと外れていた。


 そうこうしている間に特軍の施設とやらに到着し、慧は分厚い透明な壁で隔てられた部屋へと連れられていた。

 恵令奈は別の部屋で聴取を受けるようで、今は分かれている。

 部屋に入って慧がまず感じたのは違和感だった。


『マスター、この部屋はダメです。今のマスターでは上手く能力を使用できません』

『最悪の状況になった場合は?』

『能力解放を行えば、もしかすると突破できるやもしれません。リスクは高いですが』

『……頭の片隅に置いておく』


 慧は国防軍から事情聴取を受けることは初のことだが、こんなに厳重にする必要があるのだろうかと疑問に感じる。


「さて、じゃあ聞かせてもらうよ」

「それは構わないが、この能力使用を阻害する部屋から出してくれないか? 犯罪者扱いされているようであまり気分が良くない」


 爽やかな好青年といった敷根に、慧は一応どうにかならないか聞いてみる。だが、敷根は苦笑いして首を横に振るだけだった。


「規則だから勘弁してくれないか。こちらとしてもこのことが本意でないことは理解していてほしい」

「わかった。……なら手短に頼むよ」


 溜息を吐くような真似はしない。あくまで心中で舌打ちをする程度に留め、慧は椅子に深く腰掛け直す。


「では簡単に。今日は二越で買い物をした後、喫茶ソールで昼食。直後フードの集団に襲撃を受ける。そしてそれらを撃退、今に至る、と?」

「そうなるな」


 手元の紙に書かれていることを読み上げる敷根。それは先ほど慧が書かされたもので、もう一枚、横に置かれているのはおそらく恵令奈が書いたものだろう。


「高塒くんとの証言とも一致。怪しいところはないな。でも気になるんだよ」

「何がだ?」

「率直に聞こうか。高塒君。何を隠しているんだい?」

「何のことだ?」


 空気が張り詰める。相変わらず笑顔の敷根だが、威圧されているかのような印象を慧は受ける。


「いや何。君が昏睡させた六人がね、もう一人居たと言うんだよ。彼らとは別グループのもう一人がね。私はそれが気になっている」


 そんな馬鹿な、と慧は言いたくなる。ベイルはそこまで杜撰な男じゃない。あくまでフードの集団には姿を見られていない筈だった。


 それに彼らに手心を加えたわけでもない。ベイルに引き渡したナイフ使いと比べると軽度の傷かもしれないが、それでも数十分で目を覚まし、ベラベラと口を開くことなどないと慧は考える。


 つまり十中八九、はったり(ブラフ)

 だが、変だ。火の無い所に煙は立たぬと言うように、その情報が出てくるというのは、別の情報源がいるに違いない。


 どういうことだ、見られていたのか?


 周囲の確認を怠ったのは慧だが、それでもそれとわかる距離には人の気配はなかった。


 では、誰が?


 疑念が湧き上がる。姿の見えない仮想敵に慧は焦りを禁じ得ない。

 ポーカーフェイスに努めながら、慧は思考を重ねる。


「沈黙か、それも良いさ。そのもう一人を君が同様に気絶させた後、仮面を付けた男が回収したそうだね」

「……そうだな」

「このことは君からは報告を受けていない。それにどうも彼らが言うには顔見知りだったような、そんな反応だったらしい」


 どういうわけか既に確信に近いレベルで疑われているようだ。慧は苦々しい思いを表に出さないように、口を開く。


「見たことはある。以前襲われたやつだ、それは恵令奈も知っている」

「君は高塒くんに……紛らわしいな。恵令奈くんには言わなかったそうだね、今回の騒動を迅速に解決するというのなら報告すべきだったと私は思うよ。一応、理由を聞いてもいいかな?」


 慧は顔を伏せる。きっと今の自らの表情には苛立ちや焦燥といったものが現れていると判断して。

 ふぅ、と下を向いて息を吸う。


「あの状況で恵令奈を不安にさせたくなかっただけだ。こう言うとあんたらには悪いが、俺は恵令奈には戦って欲しくないからな」

「もう一つある。ちょっと調べさせてもらったよ。君は無能力者が所属する学校に通っているそうだね。能力は突然発現することもあるけど、急に強くはならないものだ」


 あり得ない。幾ら何でも手際が良すぎる。ものの、数十分でここまで用意できるものなのだろうか。


 詮無い思考を振り払う。

 着々と追い詰められるような、そんな状況に慧の余裕は削ぎ落とされていく。


「定期検診では異常なしとあったらしい。年に一度の検診が先々月。検診直後に発現したとしてもたかが二ヶ月だ。幾ら能力者で、強力な能力を保持していても実戦を重ねることもなく、急に戦えるとは思わない。それこそ銃を所持した人間を複数相手して無傷で勝利を収めるなんてことはね」


「……何が言いたい?」


 思わず声が低く、鋭くなる。とっくにポーカーフェイスは剥がされている。対する敷根は聴取前と何ら変わらない表情だった。


「君、何か良くない組織に入っていたりしないかい?」

「何をバカなことを」


 吐き捨てる。普段なら笑って切り返せるところに、つい本音が出る。

 無様だ。そう、自嘲する。煮えたぎる感情に蓋をし、慧は能面のような表情を作り出す。

 幾分か冷静さを取り戻した。


「……そうだね、馬鹿なことだ。君の両親にもお世話になっている。考えたくはないことだけど職業病みたいなものになってしまってね。今の話は忘れてくれ、非礼も詫びよう。すまなかった」

「こちらこそ、感情的になってすまない。気にしていないから頭を上げてくれ」

「……ありがとう。君とは友達になれそうだ。今日のところはここまでにしておくよ。本当なら事情聴取なんてほとんど必要なかったんだけどね。一つ忠告しておきたくてね」

「忠告?」


 怪訝な表情の慧に、敷根が困ったように笑う。


「最近アンノウンはおとなしいようだがノーフェイスと呼ばれる集団が人を集めているらしい。何をしでかすつもりかはわからないが、君は優秀な能力者らしい。もしかすると勧誘を受けるかもしれないが、絶対に受けないでくれ」

「そんなことはわかってる」

「うん、君のことは信じているよ。もし、仮に君がそういった組織に加入した場合は対処せざるを得ない。私は君の家族を悲しませたくないからね」


 慧は無言で頷いた。後ろの扉が開く。

 どうやら何とかこの場は耐えきったようで、笑いかける恵令奈に無性に安心感を覚えるのだった。


 それからは早いもので、あれよあれよと手続きが進み、十分と経たずに施設から慧は解放される。

 ぐったりとした慧を顧みることはなく、恵令奈は慧へと上機嫌で話し続ける。


 本当に厄日だ。慧は痛くなる頭を抑えながら帰路に着いた。



 ーーーーーーーーーーーー




 事情聴取が行われていた部屋。敷根は誰もいないその部屋で足を組むと、携帯の着信に応じた。


『私です。どうでしたか?』

「どうせ見ていたんだろう」


 敷根の目が細くなる。友好的、といった言葉からはかけ離れている様子に、今もなお彼を見ている電話の声の主はクスクスと笑う。


『えぇ、私の趣味は人間観察ですので』

「本当に彼はクロなのかい?」


 出来る限り話したくはない。早くこの会話を終わらせたい敷根は核心部分を訊ねる。


『確信があるわけではありません。故に揺さぶりをかけたわけですが』

「君から見てどうだった?」

『反応はクロのそれですね。ただ、現状ですと半々、といったところでしょうか。私はクロだと思っていますが』


 敷根は舌打ちする。

 高塒。軍内部でも発言力の高い研究者二人に加え、将来有望な妹。そして、見ただけで実力者とわかる兄。

 敵に回すつもりなど毛頭なかった。だが、特に慧には敵視されてもおかしくはないことをした。

 敷根は自身の無駄な正義感に付け込まれたようで気分は良くない。


「緋川志彩(しあ)。二年前にこちら側に着いた君の判断は正しいよ。だが、私は君のことは決して信用はしない」

『それで構いませんよ。私には私の目的があるだけなのですから』

 

 どこか小馬鹿にしたような物言い。

 敷根は顔を歪める。こいつとは友達にはなれそうにないなと、そう心中でそう呟くのだった。

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