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ザザッ、ザザッ。フェイの電話がノイズが入る。思わず溜息をフェイが吐いた瞬間、電話が繋がる。
『もし……、どう、kしたnかい?』
「異常事態が発生した。ユールが意識不明、直ちに救援を要求する」
ラナへと無事に繋がり、安堵の表情を見せる。電話越しにラナの様子が変わったことがフェイに伝わった。
『座標を、ちらに……ボクが、かう』
通信は不安定で、いつ切れるかもわからない電話にフェイは急いで現在地の座標を読み上げる。
「46.7626,101.8217。繰り返す46.7626,101.8217」
ブツリと電話が切れる。こちらは向こうの声がはっきりとは聞こえないのだ。おそらく向こうも正確に聞き取れてはいないが、フェイは安心していた。
空に黒い点のようなものが現れる。それはフェイたちの場所目掛けて落下を続ける。
伝えられた座標の上空に転移したラナは、地面へと加速する中、ゴーグル越しにフェイたちの姿を見つけると、再度転移するべく集中を始めた。
「目標捕捉、転移」
次の瞬間、ラナの姿はフェイたちのすぐ傍にあった。事情を呑み込めていないラナに、状況を説明するよりも先にこの場から撤退するべきだとフェイは判断する。
「ボス、話は後だ。原因の排除は完了。一旦アジトへ帰還させてくれ」
「了解、みんなお疲れ様。帰るよ」
フェイの珍しい様子に、ラナは余程のことがあったのだと、追及することはなく頷いた。
慧はアジトの医務室に、死んでいる異形種は研究室へと転移させると、フェイ達はラナの私室の一つへと転移した。
「今、転送したユールを優先して治療を開始。外傷は見たところないから能力負担によるものと推測される、絶対に死なすな。これは僕からの命令だ、最善を尽くせ」
医務室に電話をかけるとラナは一方的に話して、電話を切った。
そして椅子に腰掛けると、フェイ達の方を向く。
「それで、何があったんだい? 行ってすぐに電話してくるなんて。転移先を間違えたということも無さそうだけど」
そう言われてメイリアは時計を確認し、時間がほとんど経過していないことに驚いた。
「ボスが持って帰った個体。あれが原因で小規模な異界が発生していたみたいで、そこに隔離されていたのよ」
「共食いを行うことで複数の能力を確保したらしい。それで空間に何らかの変化が起こったのだと考えられる」
リスタとフェイは大して驚いていないようで、ラナに起こったことを淡々と説明し始める。その話にメイリアは付いていくことが、出来ずに押し黙る。
「よく君たちだけで倒せたね。全員に外傷もない、君たちが嘘をついているとは思えないけどそれが本当なら異常だよね」
にこやかにそう言い切ったラナに、フェイは首を横に振る。言外にあり得ないと言われてリスタはラナから視線を逸らす。
「俺たちは膝から下を欠損。あのまま戦闘が続いていれば高確率で死んでいた。倒したのはユールだ、それもほとんど単独で」
「フェイとリスタが倒せないような相手をユールが?」
「ユールが管理者になりつつあった。能力解放も行っていたな。怪我を治した、戻したのか? それもユールだろう」
それを聞いたラナの笑みが崩れる。それこそあり得ないと言うような様子で、呆気に取られていたのは僅かな時間で、腕を組むと眉を顰めた。
「管理者、か。もうその段階まで進んだのか。君たちが無事だということは暴走もしていないみたいだね。能力の顕現は?」
「していなかった、と思う」
「どういうことかな?」
思案顔で訊ねたラナに、リスタは溜息を吐いた。
「速すぎて見えなかったのよ。決着自体は一瞬で着いたわ」
「ふむふむ。まぁいいや、で向こうで経過した時間はどの程度かな? その疲弊具合をみると大分戦ったんだろ?」
「一日半くらいだ」
フェイは自分で言ったその言葉で、どっと疲れが肩にのしかかるような気がした。ぐったり、という形容詞が似合うスーツ姿のフェイにラナは苦笑する。
「なるほど。とにかく今回の件はこちらの落ち度ということで任務に関しては達成扱いにしておこう。君たちが倒した個体があと少しで管理者に足を突っ込むような個体だったみたいだから採算も十分どころか過剰にとれている。共食いしていた個体なんだって?」
「そうね。姿形はかなり変化したけれど」
最初は今のようなヒョウのような姿ではなく、色んな生物の特徴が入り混じり、大きさも巨大だったのは既に伝えている。
「その辺を含めてうちの研究班も喜んでるよ。難易度もCからA+へと引き上げておこう」
どうして姿が変化したのかは不明だが、それを解明するのが研究班の仕事である。
「それで、今日はもう帰って良いかボス? 正直なところかなり疲れてるんだ」
「オッケー。ただ近いうちに代表者が研究班の所に顔を出してあげてね。あと報酬はもう口座に振り込んであるから」
「わかりました!」
メイリアの元気な返事を合図に、ラナ達は解散することになった。
慧の手元の時計は午後三時を指している。日付にも変化はなく、壁に掛けられた時計に視線を向けると、そちらにも変わらない表示がされてあった。
どういう理屈かは不明だが、慧は今日中に帰れることを知り、ほっと安心する。
慧はぼーっと時計を眺める。今思えば、あれほど能力を酷使したのにも関わらず、それほど頭や身体が痛くない。そのことを不審に思っていると、クロノの言葉が伝わる。
『成長ですね』
『成長、か。そういえば能力解放、あれは何なんだ?』
『私の力を普通に抑制なしで使うことですね。ですが、私の力はあの程度ではありませんよ』
あの時のことを慧はあまり覚えていない。ただ、普段とは隔絶した力を行使したことだけは覚えている。
あれほどのことが出来るようになったのならクロノの顕現も叶うのではと慧は考える。
『顕現は、まだ出来ないのか?』
『そうですね。一秒出来るか出来ないかだと思いますよ。確かにマスターは他者とは比較にならない速度で成長していますが、まだ先ですね』
『そうか。何にせよ、助かったよクロノ』
負の方向に向かいつつあった慧を、再び立ち上がらせたのはクロノだ。慧は微笑むとそっと時計を撫でる。
『はい、私なのですから当然です』
どこか得意げな声が聞こえた時、慧が寝かされている部屋のドアが開いた。
入ってきたのは予想外の人物で、慧は茫然とその人物を眺める。
「およ、起きてるじゃないか。身体は大丈夫かい?」
仮面は外されており、手に果物が入ったバスケットを持った鈴が慧に話しかける。
『どうして私がマスターと話していると大抵邪魔が入るのでしょう……』
恨めしそうに鈴を睨みつけているのがわかるようで、慧は思わず苦笑した。
「あぁ。医療班って凄いんだな」
「まぁうちのメンバーは優秀なのが多いからね。と、そんなことはどうでも良いんだ。ユール、良くやった。おかげで死者が出ずに済んだよ」
ベッドの横の椅子に腰掛け、リンゴの皮を剥きながら鈴は笑顔を向ける。
「いや、出来ることをやっただけ。死にたくなかっただけだよ」
「それでも、だよ。君がアンノウンに居てくれて良かった。これからも頼むよ」
鈴は皿に八つに切り分けられたリンゴを置き、ハンカチで手を拭った後、ごそごそとポケットに手を突っ込む。
「これは?」
「君の通帳。ユールがアンノウンで稼いだお金はここに入るから、無くしちゃダメだよ」
手渡された通帳の中を見た慧はその額に絶句する。慧が間違えていなければそこには1億2000万と書かれており、たった一、二ヶ月で稼いだにしては多すぎる金額が書き込まれていた。
「桁、おかしくないか?」
「えっと、ベイルとの決闘でボクが君にかけたのが5000万、折半しているから8000万くらいかな? それと今回の任務の難易度がA+に変更で、3000万。研究班からの追加報酬で1500万、だったかな。ひょっとして少ないかい?」
「間違いじゃないのか……」
頰を引攣らせた慧に、鈴がニンマリと笑う。
「あっても困るものじゃないから貰っておくと良いさ。別に欲しいものがあるならボクに連絡してくれると大概のことは何とかしてみせよう。正式な依頼となるとかなりのことが可能だからね」
「わ、わかった」
「さて、と。今日は疲れてるだろうし帰っても大丈夫だよ。君の家の近くの転移陣まで送ってあげようか?」
慧は頷くと、鈴から差し出された手を取った。一瞬で視界が切り変わる。
「それじゃあ、また。これからも頼むよ、ユール」
「こちらこそ」
二人は笑いあうと、手を離す。どういうわけか気恥ずかしく感じた慧は、鈴へ背中を向けると家へ向かってゆっくりと歩き出す。
帰路につく慧の後ろ姿を、鈴はその姿が見えなくなるまでずっと見つめていた。
これにて二章は終わりとなります。
第三章開始は未定ですが、年内に開始できたらと考えています。
ここまでお付き合いくださり本当にありがとうございました。
ブクマ、評価、感想をくださった方々。
大きなモチベーションとなっています。重ねてお礼申し上げます。
投稿時期は目処が立ち次第、活動報告に載せるつもりですのでお時間があればお手数ですが、チェックしていただければありがたいです。
それでは、また。




