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時の掌握者  作者: 夢我霧中
二章
16/39

03

 今週末、研究資材の確保を行う。戦闘が予想される。他に予定が無ければ是非とも参加して貰いたい。尚、既に確定しているメンバーはリスタ、フェイの二名である。このメールを確認し次第すぐに返信されたし。推定危険度C。謝礼は各自十五万円、成果により賞与有。


「これが、以前言ってたやつか。今週の土曜は何かあったかな」


 慧が朝起きて携帯を確認すると、アンノウン用の携帯に連絡が入っていた。差出人を確認すると、やはりラナとなっており同様に作戦にあたるメンバーの名前を見るに、これが他にも何らかの意図を持って送られたことくらいは理解できる。


『いえ、無かったと思いますよマスター』


 カレンダーを確認しようとした慧の頭に、最早聞き慣れたクロノの声が響く。


『クロノか。この依頼どう思う?』


 戦闘が予想されるということ、高額な金額が支払われるということで慧は参加するつもりだったが念のためクロノにも聞いてみる。


『参加してみてはどうでしょうか』

『そうしてみるか。そう言えばクロノ聞きたいことがあるんだけど』


 通学路を歩きながら慧は何気なくクロノに尋ねる。


『貴方の父親が言っていたことなら概ね真実です、優秀すぎて怖いです。が、貴方の懸念している能力の暴走に関してですが、少し間違いがあります。キャパシティを超えると能力は暴走すると貴方の父親は言いましたが、それがその本人にとっての正しい姿なのです』

『意味が、わからない』


 恐らく言葉に裏はなくそのままの意味なのだろうと慧は考える。だが、それなら能力を獲得した時からそうなのではないかと慧は疑問に思う。


『破壊願望、破滅願望そういった類のものです。以前私が言ったことを憶えていますか? 能力は生物の持つ可能性、希望、願いを叶えるものであるといった内容のものです』

『じゃあ、つまりそいつは……』

『えぇ、力に呑まれたのでしょう。管理者手前までいくと存在そのものが能力、システム寄りです。意志の弱い者は一瞬で取り込まれて世界のルールを乱し続けると思いますよ。自我すらも手放して』


 能力。しばらく前までは他人事のように考えていたものだが、慧も自身が能力者となり、そのリスクを知ると以前のようには考えられない。


「もし……もしもだ。俺が暴走した時、クロノが強制的に制御を取ることは可能か?」

「無理でしょうね。その時になってみないとわかりませんが、限りなくゼロに近い確率のはずです。前回は貴方が私を認識しておらず、かつ意識がない状態でしたので私がマスターの体をお借りできただけです」


慧が考え込むように口を噤む。足取りはどこか危なっかしく、通行人とぶつかりそうになりながらも慧は歩く。


『不安、ですか』


 足が止まる。

 その通りだった。数多ある感情の中で、今の慧を明確に表しているそれは不安なのだろう。そしてそれはクロノも同様で慧に言いようのない不安が伝わる。


『確かに不安だ。だけど言っていても仕方がない』

『そうですね。今は進むしかありません』


 進むしかない。慧はクロノの言葉に頷くと、見慣れた道を進んでいく。


『ところで、この研究資材って何だろうな?』


 ふと思い出したように今朝のメールを開くとどうして研究資材の確保で戦闘の必要があるのかと慧は首を傾げる。


『戦闘が予想されると書いてあるので、動物か何かじゃないですか?』


 わざわざ能力者を何人も投入する必要のある動物なんているのだろうかと、眉間に皺を寄せるも結局納得のいく答えが出ないまま、学校の門が見えてくる。慧は念のためアンノウンの携帯の方は電源を切り、指紋認証付きのケースへ放り込んだ。


 ――――――――――――


「あぁ、週末のやつね。それは異形種の討伐、もしくは捕獲任務よ。場所は参加者にしか教えられないけどね。慧は参加するの?」


 教室でそんなことを話すわけにもいかず、乃彩を屋上へ呼び出し今朝のメールのことを乃彩へと聞いてみた。眩しそうに日差しを手で遮ると、乃彩は手すりにもたれかかる。


「俺の能力と相談したら参加してみればって言われたからな。乃彩も参加するんだろ?」

「貴方、もう能力と意思疎通出来るの!?」


 ぼーっとしながら慧はそう言ったのだが、乃彩はありえないとでも言いたげな表情で問いかける。


「逆に聞くが出来ないのか?」

「私はかなりの時間がかかったわ。今もはっきりと言葉では帰ってこないのに」

「へぇ。喋らないのか。そういえば乃彩の能力は男なんだろ?」


 慧がアンノウンへと加入してからしばらく経ったが、今思い返してみると乃彩の能力のことはほとんど知らない。特殊な能力という話は小耳に挟んだことがあるが、どんな能力か慧は聞いた覚えがなかった。


「は? え、いやどうなのかしら。そういう貴方は?」

「女の子だな。名前はクロノだ」


 以前クロノが能力者の理想が能力を選び、容姿もそこに含まれるといった内容の話をしていたことを思い出す。


「……何というか、貴方もその能力も凄いのね」

『当然です。そこらの能力と比べてもらっては困ります。可愛くて強くて博識ですからね』


 納得はできたが反応に困る、そんな雰囲気の乃彩に、得意げな声が慧に伝わる。無い胸を反らしている様が目に浮かび思わず苦笑した。


「どうかしたの?」


 慧はすぐさま表情を戻したが、乃彩はそのことには気づいていたようで怪訝な視線をケイに向けた。どうやら警戒させたようで、慧はゆっくりと首を横に振る。


「いや、自分に自信がありすぎる能力で困るなと思って」「今何か話してたの?」

「話ってほどじゃ無いよ。自分はそこらの能力と違って、可愛くて強くて博識だってさ」


 そもそも何故能力が博識なのかということに疑問を持つ慧だが、答えは返ってこないだろうと考えないようにする。


「貴方から見たその能力は?」

「あー、うん。否定は出来ない」


 今のところ慧はクロノに助けられている面が大きい。クロノの補助なしで能力を使用した際にはおよそ三倍の負荷がかかることを確認している。

 クロノの姿を思い浮かべた慧はどこか恥ずかしく感じ、乃彩から目を逸らした。


「しないのではなく、出来ない。是非とも会ってみたいわね」

『上等です。顕現して格の違いを見せつけるのです』

「は、はは」


 慧を見透かすように見つめる乃彩を、宣戦布告と判断したのか、クロノが敵意を剥き出しにしていることが慧へと伝わる。慧は持ち上げた口角が引き攣るのを感じながら乾いた笑いを漏らすのだった。



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