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お待たせしました。 

「いやー前世の記憶なんて持つべきじゃないわ、マジで」


 俺の名はトマス。 さほど大きくない街にある酒場の息子だ。 まあそれは良いんだが、問題は前世の記憶持ちって事だ。 前の俺は科学文明華やかな時代の生まれだった。 色々便利な事を覚えている。


 で、今いるこの時代恐らく数百年は昔っぽいんだが・きっついわマジで、何がきついってほぼ全てかな。 飯は不味いし、不衛生だし、コンビニねえし、ネットねえし最悪だ。


「おらートマス! 何時まで休んでやがる! とっととこっち来て仕込み手伝え!」

「あいよー」


 今俺を呼んだのは親父のトマだ。 トマの息子だからトマスってネーミングセンスゼロな親父だ。 でも料理は中々のもんだと思ってる、あくまでもこの時代基準だけどな。 厨房に行くと親父が肉を捌いていた。 俺も野菜の皮をひたすら剥きにかかる。

 

 横では母さんのエマが野菜を煮込んでいた。 恐らくシチューでも作るのだろう、あれは野菜の味が出て中々美味い、客の評価も上々のやつだ。 野菜はな農薬とか無いからある意味此方の方が良いかもしれないが、肉がな……硬いんだよ、本当ゴムレベル。 てな訳で肉を柔らかくして食べるのが今の目標かな。 


 今長時間煮込めばって思った奴、よく考えてくれ。 電気はおろかガスなんてない時代だぜ、料理は全部薪を燃やすんだよ。 柔らかくなるまで煮込んだら数倍の薪が要るんだよ、そんな事したらコスト掛かりすぎで拳骨が降ってくるわ。 

 そうこう考えてる内に皮剥き終わりっと。


「親父、ちょっとドーマのおやっさんとこ行ってくるわ」

「ドーマ? 何かあるのか?」

「前に言っただろ、新しい鍋の話。 その件さ」

「あー煮込みの時間を短く出来るかもとか何とか言ってたな」

「そっ夕方までには戻るよ」

「しゃーねーな、早く戻れよ」


 俺は店を出て中央通りを歩く。 街の外れにある職人エリアへ向かっていると後ろから声をかけられた。


「トマスじゃない。 どこに行くの?」


 振り向くと紅い髪の女の子がいた。


「何だマリーか」

「何だとは何よ、失礼ね」


 この子の名前はマリアンヌ、短くしてマリー。 近所の雑貨店の娘で俺の幼馴染だ。 顔は平均的だが、胸がデカイ。 お○ーい星人の血を引く俺としては最高だったりする。


「どこ見てんのよ」


 マリーは腕を組んで睨んでくる。 俺はニヤリと微笑みながら言う。


「君の果実さ、マイレディ」

「……変態、それはそうと何処に向かってたの?」

「んっ、あードーマのおやっさんとこさ」

「ドーマさんって鍛冶店の? 何しに行くのよ?」

「新しい鍋を作って貰おうと思ってさ」


 鍋と聞いてマリーは顔をしかめる。 


「去年買ってなかった?」

「あれとは別さ、新しい構造の鍋を作って貰おうと思ってね」

「……新しい構造? へえ面白そうね、私もついて行っこかな」

「お前店は良いのかよ? おばさんに怒られるぞ」

「良いの良いの。 ほら行くわよ」


 言いながら先に歩くマリーを見つつため息をつく俺であった。 暫くして目的のドーマ鍛冶店に着いた。


「おやっさんトマスだけど、いるかー?」


 ごそごそ音がして奥からゴッツイ男が出てきた、被ってる頭巾を取るとキラッと頭が光る。 眩しいぜ。


「おう、トマスなんじゃい? おっマリーちゃんも一緒か」

「今日は、ドーマさん」

「おやっさんちょっと作ってほしい鍋があって相談に来たんだ」

「鍋? 去年買ってったじゃろ、まさかもう壊したのか?」

「違うよ。 あれとは別口、新しい構造の鍋さ。 今から説明するよ」

「まあええ、ここではなんじゃ。 二人とも奥へ来い」


 マリーと二人、奥へ案内されて待っているとおやっさんがお茶を持ってきてくれた。


「で、新しい構造の鍋とはどうゆう事じゃ?」


 お茶を飲みながら聞いてくるおやっさんに俺は説明する、……そう、その鍋とは圧力鍋の事さ。 あれさえできれば時間短縮し肉を柔らかく出来る、ぜひ作ってほしい。 説明を聞きながらおやっさんは唸る。


「んー、難しい注文じゃのう。 密閉する事の意味は何となく分かったが、上手く行くかのう」

「何とか頼むよ。 この通り」


 俺は頭を下げて頼んだ。 渋るおやっさん。 すると横にいたマリーが。


「ドーマさん、私からもお願い。 ねっ作って」

「マリーちゃんに言われるとのー……わかった、やってみるわい」

「ありがとう、おやっさん」

「んーまあ、初めての試みじゃからの、失敗しても文句言うなよ」

「大丈夫だって、おやっさんの腕を信じてるよ」


 その後取り敢えず一週間後にまた来ることになった。 その帰り道、前を歩くマリーに礼を言う。


「マリー今回は助かったよ。 ありがとさん」

「ふっふーん。 私も行って正解だったでしょ、感謝なさい」


 マリーはニコニコしながら此方を振り向き俺を指さす。


「はいはい。 ご馳走させて頂きます、マリー様」

「よろしい」


 その後、マリーに串焼きを奢って帰路についた。 二人で家の近くまで来ると。


「マリー! 何処行ってたんだい!」

「! ……あはは、母さんただいま」


 今目の前でマリーを叱っている女性、マリーの母親、マーガレットおばさんだ。 やれやれ、店を抜け出した事を叱られている。 だからあの時言ったのに、……仕方ない助けるか。


「マーガレットおばさん、久しぶりです」

「おやトマス、久しぶりだね」


 俺に気づいたおばさんがこちらを向く、その隙をついてマリーが店の奥に避難する。 だがおばさんの手がマリーの襟を掴んでいた。 マリーが目をウルウルさせて見てくるので俺はおばさんに説明する事にした。


「おばさん、勘弁してやって。 俺が一緒に来てくれるように頼んだんだ」

「そうなのかい? それならそうと言えばいいのに、この子ったら」


 そう言いながらマリーのお尻を叩くおばさん。 叩かれてよほど痛かったのかお尻を擦るマリー、こう見えて仲良い二人だ。


「じゃあ、そろそろ帰るよ。 おばさんさよなら、マリー今日は助かったよ、またな」

「あいよ、またおいで」

「トマス、新しい鍋出来たらご馳走しなさいよ」

「ははっ分かったよ」


 二人に別れを告げて店に帰ったら、手伝いが俺を待っていた。


「おう、帰ったかトマス。 丁度良いこの料理、三番に持っててくれ」

「……あいよー、はいお待ちどう様」


 こうしてこのあとはいつも通り過ぎて行った。 ……それから一週間後俺はドーマ鍛冶店へ行った。 マリーもついてきた、流石に今回はおばさんに断って来たらしい。


「新しい鍋ちゃんと出来てるかな? 楽しみね」

「何でお前が楽しみなんだ?」

「何言ってんのよ、鍋が出来たらご馳走する約束でしょ」

「あーそんな事言ってたな。 忘れてたわ」

「全くもう」


 ぷりぷり怒るマリーを伴い鍛冶店に着くとおやっさんが丁度奥から出てきた。


「おう、来たかお二人さん。 鍋も出来とるぞ」

「ありがとう、おやっさん。 早速見て良いかい?」

「おうちょっと待っとれ。 持って来るからの」


 おやっさんは言うと奥から鍋を持って来る、高さ30セの寸胴鍋が出来ていた。 俺は出来ばえを確認する。


「お前さんの注文通りじゃ、厚みも二倍にしてある」

「流石だよおやっさん。 正に注文通り」

「へーこれが新しい鍋なの? ……何処が新しいのか、わかんないんだけど」


「一応説明するとだな、まず厚み二倍で強度アップ」 

「うんうん」

「そして蓋をこの金具で固定する事によって鍋の圧がまして具材を煮込む時間が短くなるって所だ」


 言いながら俺は蓋の持ち手に鎖で繋がったコの字型の金具を二つ見せた。 マリーはうーんと唸りながらそれを眺めていた。


「よくわかんない」

「まあ口で言うより実際に作ってる所見た方が早いだろうな」

「じゃあ早く持って帰って何か作ってよ」

「はいはい、……うわっ結構重い。 持って帰れるかな?」

「じゃろうな、普通の倍くらい鉄を使っとるからの。 20キくらいはあるじゃろな」

「店までの距離を考えたらきっついな」

「よし、待っちょれ」


 おやっさんは店の裏側に行くと荷車を引いてきてくれた。


「これに乗っけて行け」

「助かるよ、おやっさん」


 俺は鍋を持ち上げると荷車に乗っけた。 荷車を引いて帰ろうとすると。


「アンナー! ちっとトマの店に行ってくるでの、店番頼むわ」

「あれ? おやっさんも来るのか?」

「当たり前じゃ、実際使って不具合がないかを確認するのも仕事の内じゃ。 それに向こうに行って代金と帰りにこの荷車を回収出来るじゃろう。 まさに一罠二匹じゃろうが、ガハハハ」

「言われてみれば御もっとも」


 納得していたら、奥から女性が一人出てきた。 おやっさんの娘さんのアンナさんだ。


「父さん、行くのは良いけど、お酒飲んじゃダメよ。 まだ仕事残ってるんだからね」

「ギクっ……わ、分かっとるわ。 いらんお世話じゃ」

「トマスさん、父さんの事よろしくね」

「任せといて」


 アンナさんもマリーほどではないが胸がでかい。 性格も落ち着いているのでかなりの好物件だ。 それとなく胸に視線を送っていると足に痛みが走る。


「痛ってぇ!」


 見るとマリーが足を踏んづけていた。


「いきなり何だよ!」

「ふんっ鼻の下伸ばしていやらしいわね。 さっさと行くわよこの変態」


 マリーは先を歩いて行った。 俺はアンナさんにお別れを言いおやっさんと一緒に荷車を引いて後について行った。


 そして店に着くとおやっさんと一緒に鍋を厨房に運びこんだ。 親父と母さんの二人も鍋に興味深々の様だ。 説明するよりも見せた方が早いと思った俺は、早速安いすじ肉を煮込む事にした。 鍋に水を半分程入れて火にかけた。


 水が沸騰してきたらすじ肉を入れ臭み取りにハーブを入れて蓋をする。 そして蓋に繋げているコの字型の金具をふちにはめ込んで準備完了。


「ふう、このまま30プ程煮込めば良いはずだ」

「30プくらいではすじ肉はまだ固いと思うぞ」

「そうよね、少なくとも2ジーくらい煮込まないと、でもそうなると薪がねえ……」


 親父も母さんも不安げに鍋を見ていた。 何せこの鍋金貨20枚だったんだ。 店の売り上げ2か月分くらいだ、これで他の鍋と一緒だったら当分小遣いなしになりそうだ。 


「大丈夫なの? トマス」


 横のマリーが不安げに聞いてくる。 後ろにはいつの間にかおやっさんがビアーを一杯やっていた。 あとでアンナさんに怒られなきゃ良いけど。


「大丈夫だって、たまには俺を信用しろよ」

「……うん」


 皆固唾を呑んで鍋を見つめていた。 そうする内に中の圧力が高まってきた様で蓋の蒸気穴から凄い勢いで蒸気が噴き出してきた。 余りの勢いに親父や母さんが大丈夫なのかって聞いてくる程だ。 その後30プ経って俺は鍋を火から下ろした。


「母さん桶に水を入れて」

「水? どうするの?」

「このままの状態じゃ蓋を開けれないんだ。 30プ程待って冷えるのを待っても良いけど皆に早く味見して欲しいから、水をかけて冷やすんだ」

「何で開けられないんだ? 金具を外せばいいだろ?」

「いや、今の状態で開けたら中の蒸気が一気に出て爆発しちまう」

「「「「!」」」」


 俺以外絶句してた、……まあ当然か。 それを聞いた母さんが急いで桶に水を入れてくれた。

 ジュュュュュュュュュ!!! 鍋に水をかけて冷やす。 蓋の穴からの蒸気がゆっくりになっていく。無事に内圧を下げる事が出来た様だ。 よし、次に慎重に金具を外す。


「よし、開けるぞ」


 全員が頷く。 俺はゆっくりと蓋を開けた、中なら湯気が大量に出てきたが問題はなかった。 中には茹で上がって縮んだすじ肉があった。


「親父、トング取ってくれ」

「おっおう」


 トングを受け取るとすじ肉を慎重に取り出して調理用の板の上に置く。 皆集まってすじ肉を見てる、ちゃんと柔らかくなってて欲しい。 俺はナイフでゆっくりとすじ肉を切っていく。 よしナイフがスムーズに入って行く成功だ。 切り終わって皆に差し出す。


「さあ、味見してくれ、すじ肉はちゃんと柔らかくなってるはずだ」


 皆恐る恐る一切れとり口に運ぶ。 口に入れ咬んだ時全員の目が開き。


「こりゃ凄い。 あのすじ肉がこんなに柔らかいなんて」

「本当ね、凄いわ」

「すごーい、やるじゃんトマス」

「んー、こりゃビアーのつまみにぴったりじゃ」


 皆高評価の様だ。 俺も一切れ食べてみる、うん良い柔らかさだ。 すじの部分もぷりぷりの状態になってる。 食感を楽しんでいると、親父が笑いながら背中を叩く


「でかしたぞトマス。 早速今夜からメニューに加えよう」

「ええ、これは人気がでると思うわ。 私のスープにも入れたいわね」


 二人は今夜からの献立を考え出した。 俺は緊張が解けたのか隅に座って一息ついていた。 そこにマリーが笑って近づいてきた。


「トマス、やったね。 おめでと」

「ありがとさん、でもどうした? 急に」

「別に何でもないけど、……そうね、頑張ったあんたにご褒美でも上げよっかな」

「? おっ何だご褒美って」

「んー……じゃあ目を瞑りなさい」

「はあ? いきなり何を」

「良いから早く!」

「はいはい」


 俺は目を瞑ってじっとまった。 すると……甘い香りがしたと思ったら口に柔らかいものが当たる。 びっくりして目を開けたらマリーにキスされていた。 あまりの事にピクリとも動けない。 世界が止まった様だった。


 そしてゆっくりとマリーが離れお互いの目線が重なった。 頬を染めたマリーがいつもより綺麗に見えた。 俺が口を開こうとしたら、マリーはパッと離れる。


「じゃ、じゃあまたね。 ……おばさま私帰るね、さよなら」

「あら、マリーちゃん、もっとゆっくりしていけば?」

「ううん、遅くなると母さんも心配するから」


 そう言ってマリーは足早に帰って行った。 かくいう俺はいまだに動けなかった。 そうしていると母さんがやってきた。


「トマス、さっ呆けっとしてないで今夜出す、すじ肉の煮込み作っておくれ」

「あっ、……ああ、分かったよ」


 やれやれ、柔らかい肉が食べれるようになったけど、俺の仕事が一段と増えちまった。 まっ、しゃーないか。 ご褒美も貰ったしな、さあいっちょやるか。



 完



実際は簡単に圧力鍋が出来るとは思いませんが、まあそこはフィクションって事でご容赦下さい。 ここまで読んで頂き有難う御座いました。

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