罰
ようやく出来ましたのでどうぞ。
神界、光りに満ちた神と天使の住む世界である。 その中に一際巨大な建物、神の住まい神殿があった。 その奥に神の部屋があり、神は……寝ていた。 いびきをかき、歯ぎしりをしながら寝ていた。 時々寝返りを打っていたが、勢い余って寝所から落ちてしまった。 ドスンと鈍い音が神界に響いた。
「あたたたた」
神は鼻を押さえながら目を覚ました。 痛む鼻を擦り寝ボケ眼で周りを見る。 そして欠伸をしつつ体をほぐした。
「あー良く寝たわい。 ……いやちと寝すぎたかの?」
そこへ子供の姿をした天使がやって来た。
「おはようございます、神様。 ようやくお目覚めに成られたのですね」
「うむ、わしはどれくらい寝とったんじゃ?」
天使は指折り数えて答えた。
「約2000年程かと」
「ありゃ、そんなにか? おかしいのう? 1000年位で起きる積もりだったんじゃが」
「あー、目覚ましは鳴ってました。 ですがご自身で破壊されてましたよ、うるさいとか言いながら それに神様を起こすなんて恐れおおい事は私共では出来ませんので」
「んー目覚まし破壊は覚えとらんのー、……まあ良いどれ、久しぶりに星の様子でも見てみるかの」
言うと神は立ち上り歩き出す。 やがて巨大なドーム状の部屋にたどり着き、中にある椅子に腰を下ろした。
「さてと、今はどんな状態かの」
神は手をかざすと部屋の中央に惑星の立体映像が現れた。 惑星の状態を確認して顔をしかめる神。
「随分と荒れたのう。 大気も霞が掛かったようになっておる。……メタおるか?」
「御前に」
神が名を呼ぶと直ぐ横に天使が平伏していた。
「メタよ、わしが寝てからの星の記録を全て開示せよ。 100年を1分ペースでな」
「御意」
メタと呼ばれた天使は立ち上り両手で抱える程の本を取り出すと、本を開き約2000年の情報を神に開示する。 20分後、神は深く息を吐いた。
「科学等の技術面は進歩しとるが、精神面は毛ほども進歩しとらんの。 自然との調和を忘れて逆に退化しとる様に見える。 しかしまあよくもこれだけ悪徳まみれになるものじゃ」
神はため息を吐きながら頭を振る。
「このままではもつまいの、人も人以外の生命も滅びるだけじゃ。 ……皆集まってくれるか」
神が呼び掛けると、ドームに様々な高位生命体が現れた。 その内の1体が神に問い掛ける。
「我等を呼ばれるとは如何された?」
「急に呼び立ててすまんの。 皆も知っておるじゃろうが、わしついさっき起きての、で星の現状に呆れ果てておる所じゃ」
「で、我等を呼ばれた訳は?」
「うむ、人を今後どう処するか皆と話し合い決を採りたい」
神は見回すと皆一様に頷いた。
「まだ見守る方向で良いのでは? 近頃理性的な人も増え始めています」
「いや、生ぬるい。 人の行いは許しがたい即刻滅ぼすべきだ」
1体が擁護すれば鳥のような頭の1体が反論する。 侃々諤々と議論は続いたがおよそ3つの案に纏まりつつあった。
ひとつ、未だ発展途上故、見守る。
ひとつ、人以外の生命を守るため即座に滅ぼす。
ひとつ、罰を与える事で反省し良い方向へ行く事を期待する。
「よし、各々賛成の案に挙手をしてくれ」
各自挙手をした結果、3つ目の罰を与え反省を促す事に決まった。
「では罰を与える方向で行く事にする。 皆今回はすまんかったの、各々の場所へ戻ってくれ」
「では我等は此れにて」
一礼して高位生命体は各自の場所へ戻って行った。 残った神は髭を撫でながら思案する。
「さてと、罰は何がええじゃろか? んーこういう場合は面倒じゃし任せるか。 4天使おるか?」
「御前に」
呼ぶと即座に天使4人が現れ平伏していた。
「うむ、今回友と話し合った結果、人に罰を与え反省させる事に決まった。 そこで其方らに任せる事にする。 どのような罰かは、ミカそちが中心になって考えよ」
「御心のままに」
「うむ、頼んだぞ。 それとわしは運動がてら散歩に行ってくるからの、戻り次第報告を頼むぞ」
「御意」
ミカと呼ばれた天使が頭を下げる。
そして神はドームから出ていった。 神が出たあと4天使は立ち上り、ミカと呼ばれた天使が指示を出す。
「恐れおおくも神よりご命令が下りました。 早速星へ向かいます。3名共準備は良いですね?」
「はーい」
「何時でも」
「……」(無言で頷く)
4天使は部屋から消え去ると、次の瞬間宇宙空間の中にいた。 目の前には件の星が青く輝いていた。
「ねーねーミカちゃん、どんな罰にするの?」
やたらスタイルの良い女性型天使が尋ねた。
「ちゃんは止めて、どんな罰って決まってるじゃない、死罪よ」
バランス体型のミカは、さも当然だと言わんばかりに吐き捨てた。
「ワオ! ミカちゃんきびしー」
「ちゃんは止めて、私は罪を断つための剣なの、当然でしょ」
「それは良いとして、どの様に下すのですか?」
長髪の男性型天使が尋ねる。 横にいる短髪の男性型天使も頷いた。
「問題は其処よね、やって良いなら此処から焔を放って焼き尽くすんだけど」
眉間に皺を寄せ唸るミカ。
「それでは人が全滅しますし、人以外の生命も全滅します。 そうなっては神の意にそぐわないでしょう」
「分かってるわ。 何か良い案はないかしら」
するの短髪の天使が手を挙げた。
「ウリ、案があるの?」
ウリと呼ばれた天使は頷いてゆっくりと答えた。
「メタに、聞けば、きっと、良い案、くれる」
「成る程、メタ殿は人の歴史を見てきた。 私達より人の事を理解しておられる筈です」
長髪の天使も賛同する。 ミカも頷いた。
「そうね、聞いてみましょう。 ガブリ、連絡してくれる?」
「もう! ミカちゃんったら、私を呼ぶ時はガブリンって呼んでって言ってるのに」
「い・い・か・ら、早・く・し・て・ガブリン」
言いながらガブリンのほっぺたをつねるミカ、痛い痛いと涙目になるガブリンであった。
「メタちゃーん! 応答しーてー」
痛む頬を擦りながらメタを呼ぶガブリン。 すると4天使の前に白い球状が現れその中に4つの目の仮面を被る天使が現れた。
「どうした? 我が兄弟姉妹達よ」
「メタ、少し知恵を貸して欲しいの」
ミカはこれ迄の事を話し何か良い案はないか尋ねた。
「成る程、……人は太古より決まりを創ってきた。 現在それは法として存在している。 まあ完全とは言えぬがな。 それを利用してはどうだ? 人に印を付け法を破った時、ミカの言う罰を与えれば良かろう」
「成る程、良い案ね。 助かったわメタ、ありがとう」
「なに、気にするな。 兄弟姉妹で助け合うのは当然の事よ。 ではな、成功する事を祈っておるぞ」
メタとの通信を終えて、ミカは3名に指示を出す。
「じゃあ、赤道から南はラファとウリが、北は私とガブリが担当ね」
「分かりました」
「……」(無言で頷く)
「ミカちゃんったらガブリンって呼んで」
「……だーかーらーちゃんは止めろって言ってんでしょー! この無駄巨乳がー」
「きゃははは! くすぐったいから止めて」
叫びながらガブリンの胸を鷲掴みするミカであった。 それを見つつ呆れるラファ。 どこ吹く風のウリ。
「ほら、2名とも遊んでないで行きますよ」
「はっ! そうだった。 こんな事してる場合じゃないわ。 行くわよ皆」
ミカの指示で惑星に向かって飛ぶ3天使。 そして約1日かけて全ての人類に印を施した。 それから人々の大量死が始まる。
最初の1日で数万人が死亡した。 その時は誰も不思議には思わなかった。 数万人と言う数字は少ない数ではない、だが世界的に見ると人々が気にする数字ではなかった。 だがそれがほぼ毎日起こると人々は騒ぎ始める。 新種のウイルスなのか? 何らかの化学薬品のせいか? 噂だけが拡散していった。 そういった事態に各国、及び世界医者連合は原因を最優先で探すものの手がかりすら掴めなかった。 やがて人心は不安になり犯罪が増えて行き、更に死者が増えるという悪循環に陥っていった。 ついには他国による陰謀説まで飛び出し、結果世界の緊張は一気に高まり暴発した。
世界大戦の勃発。 大量破壊兵器の使用及び、天使の印により世界の人口は4桁までに激減し然もそのほとんどの人が汚染されていた。 そうこうしている時に神が散歩から帰ってきた。
「やっぱり散歩はいいのー、心身ともにリフレッシュじゃ。 さて星はどうなったかの?」
神はドームに行き星の様子を確認する。 そして呆気に取られる。
「なんじゃ? 一体何があったんじゃ? 前より酷くなっとるぞ。 ……メタおるか! メタ!」
「御前に」
「メタ、何があった? 記録を開示せよ」
「御意」
そしてメタは4天使の設定した罰、自らの提案、それによる人心の悪化と疑心暗鬼の増大、その結果、世界大戦による滅亡を全て話し開示した。 それを聞くと神は深く息を吐いた。
「こんな結果とはのう、……どうしたもんじゃろか? このままじゃと皆に文句を言われそうじゃ」
「神よ、突然ですがミカ達が面会を求めております」
メタが神へ囁く。 聞いた神はこちらに来るように伝えた。 数秒後4つの光と共に4天使が現れた。 天使は平伏したままミカが謝罪した。
「神よ、申し訳ありません。 まさかこのような結果になるとは」
「よい、そち達に任せたわしの責じゃ。 メタから事の経緯は聞いておる、取り敢えずはその印を解除するかの。 このままでは人類は絶滅しそうじゃ」
「御心のままに」
4天使は映し出された惑星の映像に手かざし印を解除した。 神は映像を拡大し1つの家族を映し出す。 山奥に単純な小屋を作り生活していた。 神が目を凝らし状態を確認する。
「まだ発病までには行っておらぬが随分と体が蝕まれておるの」
「人の作りし破壊兵器の毒素に因るものかと」
「成る程の。 ……このままでは10年と持つまいな。 ここは慈悲を施してやるとするかの」
言うと神は星全体の映像に切り替えると手から光を放ち星全体に蔓延っていた破壊兵器の毒素を生物に影響がないレベルにまでにした。
「よし、これでいいじゃろ。 あとは見守るだけじゃ。 皆ご苦労じゃった下がってよいぞ」
天使たちは一礼し部屋を出て行った。 神は椅子の背もたれを倒し、目を瞑る。
「生き残った人類は今後どうなるか? 神のみぞ知るかの?」
呟くと、神は未来を垣間見るために瞑想に入った。
完
今回もそうですが、ネタが出ない。 この事に尽きる。 なのでオムニバスではない話を書いて見るか、なんて思ってますが、実現するかは分かりません。 ここまで読んで頂き有難う御座いました。