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悪役 後編

 お待たせしました。 ようやく完成です。 

 数日後、ロベリアが学園の教室に入ると数人の女生徒が集まって何かを話していた。


「ごきげんよう皆様、集まってどうなさったの?」

「ああロベリア様、ごきげんよう」

「「ごきげんよう、ロベリア様」」

「それが……」


 皆顔を見合わせて言い難そうだったが、一人の女生徒が答えた。


「一昨日の夜、学園の女生徒が物取りに襲われてお亡くなりになったそうです」

「えっ……一体なぜそのような事に?」

「その方はよく孤児院のお手伝いに行かれていたようなのですが、その帰りに襲われたようでして」

「ああなんて事でしょう……それで犯人は捕まったのですか?」

「いえ、悲鳴を聞いて駆け付けた衛士たちが捕らえようとしたのですが、抵抗したためその場で切り捨てたそうです」

「そうですか。 その亡くなった女生徒の御名前は何と仰るのかしら?」

「はい、アリス・ソウ・マウマウス子爵令嬢です」

「聞く所によると、とても活発でお優しい性格の御令嬢だったそうで」

「そのような方がお亡くなりになるなんて悲しい事ですわ」


 ロベリアは悲しげな顔を扇で隠す。 しかし内心はほくそ笑んでいた。


(ロバートは良くやってくれたようね。 実行犯も始末できたし順調だけど……何か引っかかるわね)


 ロベリアが考えていると、授業開始5分前の鐘が鳴り響く。 鐘の音を聞いて皆席に着いた。


(ま、考えるのはあとね、今日は放課後に殿下の所にでも行こうかな)


 数時間後、ロベリアはラインバルト王太子の執務室へ向かっていた。 王太子は学園の中に専用の執務室を持っている。 王の補佐をする為、前もって簡単な業務を学び卒業後に生かすためだ。 執務室の前まで行くと衛士が二人立っていた。


「殿下に取り次いで下さる」

「少々お待ちください」


 衛士の一人が中へ入って行く。 少し待つと扉が開き、衛士が中へ招いた。


「どうぞロベリア様、殿下が御待ちです」

「ありがとう」


 ロベリアが中へ入ると、ラインバルトが席に着き書類に目を通し署名をしていた。 横にはそば仕えのカールが、次の書類をラインバルトの前に差し出す。


「ご機嫌麗しゅう御座います、殿下」


 ロベリアは優雅に一礼をして軽く微笑む。 ラインバルトは書類を見たまま答える。 


「椅子に掛けて待っていてくれ。 もう少しで終わる」

「いえ、私も約束もなく参りましてご無礼致しました」


 全ての書類にサインをしてラインバルトは顔を上げた。 その顔には疲労が色濃く見えた。


「カール、お茶を頼む」

「はい、殿下」


 カールは慣れた動きでお茶を入れお菓子も準備する。 ラインバルトはロベリアと向かいの席に着き深くため息を吐いた。 その様子にロベリアが尋ねる。


「殿下、ひどくお疲れの御様子ですが、どこかお加減でも?」

「なに、大した事ではない。 ただこの何日かよく眠れなくてな」


 カールの用意したお茶を飲みながらラインバルトは答えまた深く息を吐いた。 ロベリアの問うような視線にラインバルトは渋々答えた。


「何日か前に木の上から落ちてきた女生徒を覚えているか?」

「ええ、もちろんですわ。 あれほど印象深い登場の仕方もないかと」

「ふむ、そうだな。 その時の女生徒の顔が忘れられなくてな、何故かと考えていたら一昨日の夜その女生徒が亡くなったというではないか。 それ以来胸に穴が開いたような感覚に陥ってよく眠れんのだ」


 その告白を聞いたロベリアは人知れず歯を噛みしめた。


「殿下、あのような出会い方をした女生徒が亡くなったのです。 知人でなくても動揺は致し方ない事かと」

「私もそういう物だと思っているのだが、何故かな。 ……しかし婚約者のお前にこのような話をしてしまうとは、許せ」

「いいえ、良いのです。 いずれ、時が解決いたしましょう、どうかご自愛下さいませ。 では、私はこれにて失礼致します。 殿下の御加減が優れない時にこれ以上のお邪魔は出来ませんもの」


 ロベリアは軽く微笑みながら立ち上がる。


「すまんな、いずれまた時間を作ろう」

「はい殿下、では失礼致します」



 ロベリアは廊下を歩きつつ思案していた。


(チッあのクソ殿下め……本人は気づいて無いけどしっかり一目惚れしてるし。 しかも相手が死んだせいで余計厄介な状態になってる。 あれじゃ元カノに未練タラタラのクソ男じゃん)


 考え事に集中し過ぎて普段行かない所を歩いていた。 すると後ろから。


「だーーれだ?」


 ロベリアの目を何かが覆った。 ロベリアは驚きながらも目を隠した手に触れながら後ろの人物に話しかける。


「もう子供ではないのですよ。 この様な悪戯はお止め下さいませ、アルバート様」


 ロベリアは後ろを振り向き微笑む。 その笑みにアルバートと呼ばれた青年はニッコリと微笑んだ。 この青年はアルバート・キシ・ゴース・フェルガリア第二王子、ラインバルトの弟である。 又ラインバルト同様ロベリアの幼馴染でもあった。


「久しぶり、ロベリア姉さま。 こっちの校舎まで来るなんて珍しいね」


 そう言われて初めてロベリアは自分が何処にいるかを知り辺りを見回した。


「あら、考え事に集中し過ぎてしまったようです。 お恥ずかしいですわ」

「そうなんだ。 でも僕はラッキーだけどね、姉さまに会えたし」


 アルバートは人懐っこい笑顔でロベリアの手を取り歩き出す。


「姉さま、久しぶりに会ったんだから一緒にお茶飲もうよ。 ほらほら早く」

「アッアルバート様そんなに引っ張らないで下さいませ」

「昔みたいにアルって呼んでいいんだよ?」

「そうはいきません。 もう子供の頃とはちがいますもの」


 アルバートは口を尖らせる。


「ちぇーー。 姉さまも兄様みたいに固いなあ、もっと気楽に行こうよーー」

「アルバート様が気楽過ぎるんです」


 ロベリアは顔をしかめて抗議する。 その顔を見てアルバートはニコニコする。


「相変わらず怒っても可愛いね、ロベリア姉さま」


 満面の笑みを浮かべるアルバートにロベリアは抵抗を諦め深くため息を吐いた。 そうこうしている内に学園内のサロンに着いた。 早速お茶を楽しむ二人。


「で、姉さまさっきは何を考えていたの?」

「こ、ここではちょっと……」

(殿下をクソ呼ばわりしてたのは流石に言えないわーー)


 ロベリアは目を逸らしながらお茶を飲む、その時ロベリアの頭の中にある閃きが下りてきた。 そして悲しげな顔をしてアルバートを見る。 滅多に見ない表情にアルバートは目を見張る。


「アルバート様……やはり聞いて頂けますか?」

「どうしたの姉さま? 悲しい事でもあったの?」

「ラインバルト様は心変わりをされたのかもしれません」


 ロベリアは先ほどラインバルトとの話の()()だけを話す。 内容を聞くにつれアルバートの顔つきが厳しくなっていく。 話が終わるとアルバートは一気にお茶を飲み干した。


「姉さまを悲しませるなんて、許せないな」

「私に何か至らない点があったのでしょう。 ……殿下に罪は御座いませんわ」

「そんな! 姉さまは妃になるためにあんなに頑張ってきたのに」

「それは良いのです。 ただこのまま婚姻を結んでもお互い不幸になりそうで」


 そう言ってロベリアは()()()()()()()涙を拭うふりをする。 それを見たアルバートは心の奥に消したはずの感情がくすぶり出すのを感じていた。 5年前、兄とロベリアの婚約が決まった時に燃え上がり時間をかけて自ら消した感情が。


「姉さま、僕が子供の頃に言っ……」

「え?」

「いや、何でもないよ。 ご免姉さま、用を思い出しちゃった。 先に帰るね」


 アルバートは席を立った。 足早に去っていくその姿に。


「え、ええ。 御機嫌よう()()()


 ロベリアはニッコリ微笑んで見送った。


 アルバートは急ぎ王宮へ向かっていた。 その表情は険しい。 先ほどロベリアがまたアルと呼んでくれた時震えるほどうれしかった。 その最愛の女性を兄が苦しめている。 その事に激怒していた。 自室に戻ると侍女を下がらせ、老人だけを残した。


「爺、この僕と共に罪を背負う覚悟はあるか?」

「アルバート様、この爺めはアルバート様の手足で御座います。 何時如何なる時も共に歩む覚悟はできております」

「うむ、感謝する」


 この老人はアルバートが幼い頃より仕えてアルバートにとって腹心と言える老人だった。 白髭を蓄え背中も曲がりつつあるが、その眼光は鋭かった。


「それでアルバート様、何をなさる御積りですか?」

「僕の最愛の人が苦しんでいる。 その原因を絶つ」


 すぐにその言葉の意味を察した爺は目を細めアルバートを見た。 しかしアルバートの意志は固いと分かると頭を下げた。 そしてアルバートは考える。


「何時何処で行動するべきかな? なるべく早い方がいいんだけど」

「……確か時々御しのびで下町にお出かけになっておられるとか?」

「ああ、確か”より良い治世は民の実情を知る事だ”って言ってたね。 多分その一環じゃないかな」

「その時がよろしいでしょう、すぐにも調べ実行致しますか?」


 爺はアルバートの目を見た。 アルバートはその目を逸らすことなく頷く。

「頼む」

「畏まりました、近日中にに実行致します」


 爺は一礼し部屋を出る。 アルバートは窓から雨が降りそうな空を見ながら呟く。


「……兄様、貴方が悪い。 僕のロベリア姉さまを悲しませるから」



 数日後、今日は学園が休みのためロベリアはのんびり刺繍をして過ごしていた。 針を動かしながらあの後アルバートがどうしたのか考えていた。


(あれから音沙汰ないのよねえ、焚き付け失敗しちゃったかな。 上手くいけば真面目兄を排除してお気楽弟を尻に敷けるかなと思ったんだけど……)


 そうこうする内に時間が過ぎ日が沈み始めた頃、侍女のメアが血相を変えて飛び込んできた。


「お嬢様! 大変で御座います!」

「どうしたのメア。 そんなに慌てて何かあったの?」

「で、殿下が、ラインバルト殿下が……お亡くなりになりました」

「……えっ」


 ロベリアは立ち上がり刺繍枠を落とすとメアをじっと見た。 その目は嘘を言っていなかった。


(うわーー! マジでーー! えーーとえーーと、とっ取り敢えず……)


 ロベリアはその場に倒れた。


「きゃーーお嬢様ーー!! だっ誰かーーお嬢様が、早く、早く医者を呼んで下さい!」


 メアは叫びながら廊下に助けを求め飛び出した。 ロベリアは薄目を開けてその様子を見ていた。


(痛ーー、勢いよく倒れ過ぎたわ。 でも誤魔化せたかな、今日はこのまま気絶した方が良いわね)


 その後ロベリアは医者の診察を気絶した振りでやり過ごし、翌日詳しい内容をメアから聞いた。


「そうなの……やはり夢ではないのね」

「……はい」

(御しのびで下町にいった時に喧嘩に巻き込まれて亡くなるなんて……都合良過ぎね。 やったのねアルバート様)

「それで、殿下の葬儀はいつ行うの?」

「はい、2日後と伺っております」

「そう、では急ぎ準備を」


 ロベリアはベットから降りようとすると慌ててメアが止める。


「お嬢様! まだお休みになっていなければいけません。 準備は旦那様と私共で行いますので」

「でも、私は婚約者なのよ」

「お嬢様お気持ちは分かりますが、ここで無理をされて当日に出席できないとしたらどうなさいます?」

「そう……そうね。 お前の言う通りね、休むわ」


 ロベリアが大人しくベットに戻るとメアが水を差し出した。 ロベリアはゆっくりと飲む干す。


「お嬢様、何かお食べになりますか?」

「そうね、食欲は余り無いけど、軽く摘める物を持ってきておいて。 おいおい食べるわ」

「畏まりました、料理長に伝えます」


 メアが部屋から出ていくと、ロベリアは深くため息を吐いた。


(本当はめっちゃおなか空いてるけど、ここは我慢よ私! 婚約者に先立たれた哀れな女を演じなきゃ)


 そうして瞬く間に葬儀の日となり、王族貴族を始め全ての国民が悲しみに沈んだ。 その中で国王は無用の混乱を避けるため第二王子であったアルバートを王太子に叙する事を宣言した。 その後ロベリアは悲しみに暮れ喪に服す女を演じ、屋敷に籠る生活を送っていた。 半年後そのまま学園を卒業した。



 学園卒業から半年、ラインバルトの死から1年たち喪が明けた頃のこと。


(退屈ねーー、喪が明けたけどいきなり明るく振る舞うのは外聞が良くないしなあ)


 等と思っていると、侍女のメアが来客の告げてきた。 今日は来客の予定はなかったはずだと思いメアに尋ねた。


「何方がいらっしゃたの? メア」

「はい、アルバート殿下で御座います」

「えっアルバート様が?」

(あの時以来ね。 なんだろ?……もしかしたら)

「いいわ、お通しして」


 メアは一礼し部屋を出ていく。 数分後アルバートが入ってきた。 1年前より背が少し伸びて大人びたアルバートがそこにいた。


「ロベリア姉さま、久しぶり」

「お久しぶりです、アルバート殿下」

「思ってたよりも元気そうだね、良かった」

「あれから1年経ちますし、何時までも悲しんではおられませんし」

「そうだね、僕も色々忙しくて悲しむ暇もなかったよ」

「それで今日は突然どうなさったの」

「うん、……本当はすぐにでも来たかったけど、喪が明けるまでは我慢してたんだ、それでね」


 アルバートはロベリアの手を取り跪いた。 そしてロベリアの目を見つめ。


「ロベリア姉さま、僕と結婚して欲しい」

「えっ!」


 ロベリアは口を手で押さえて驚く。 すぐ横ではお茶の準備をしていたメアも驚き動きを止めていた。


(予想通りだけどいざ言われるとビックリするわね)

「し、しかし私はラインバルト様の元婚約者ですわ。 陛下やお父様がお許しになるとは思えません」

「父と公爵にはすでに話しているんだ。 2人とも姉さまが良いと言うならと言ってくれた」

(根回し早っ、ここまで行動力があるなんて知らなかったわ)

「姉さま、いやロベリア・エア・シール・ギールデン公爵令嬢。 貴方の悲しみを癒したい、そして貴女を幸せにすると誓う」


 その真剣な目にロベリアは内心ガッツポーズを掲げていた。


(ヨッシャーー! でもここは慎重に慎重に)

「本当に私でよろしいのですか?」

「貴女でなければ駄目なんだ」


 ロベリアはアルバートの手を両手で取り頷いた。


「はい、アルバート様。 私で良ければお受けします」

「あっありがとう、ロベリア姉さま!」


 アルバートは立ち上がりロベリアを抱きしめる。 横ではメアが涙を流し祝福していた。 その後すぐに婚約発表があり皆に祝福うけ、式は1ヶ月後と決まった。


 1ヶ月後、無事に式は終わりロベリアは王太子妃となった。 そしてアルバートを尻に敷いて自由気ままに生きて行くのだった。 5年後に王位を継いだアルバートの治世は上手く行っているとは言い難く徐々に国力の衰退を招いていった。 さらに20年後隣国の侵攻を受けフェルガリア王国は滅亡する事になる。



 完







 最初の予定よりかなり文字数が多くなってしまい、文章が進むにつれキャラのセリフなどが勝手に増えて行きまとめる事の難しさを痛感しております。 次の話は未定です。 拙い文章ですがここまで読んで頂き有難う御座いました。

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