悪役 前編
お待たせしました。 待ってねーよとツッコミが入りそうですが、3話目です。
秋の深まる季節、王宮の近くに建つ屋敷の中に一際豪華な屋敷があった。 フェルガリア王国の筆頭貴族ギールデン公爵家の屋敷である。 その中の一室に外の景色を眺めながる女性の姿があった。 ギールデン公爵家の令嬢、ロベリア・エア・シール・ギールデン公爵令嬢だ。 ロベリアは王立学園から戻ると外ばかり眺めていた。 いつもと様子が違う事にそば仕えの侍女が声をかける。
「お嬢様、お戻りになってからずっと外ばかりご覧になられてますが、学園で何か御座いましたか?」
その問いにロベリアはハッと我に返り侍女に答えた。
「大丈夫よメア。 ちょっとね考え事をしていたの、……まだ考える事があるから外して頂戴、後で呼ぶわ」
ロベリアは軽く微笑みながら侍女に言うとまた外を眺める。
「畏まりました。 御用の際はお呼び下さい」
侍女は頭を下げ隣室へ下がった。
ロベリアは横目で侍女の退室を確認すると椅子に座り改めて自分の状況を考え出した。
「私がこんな状況になるなんて……まさか恋愛ゲームの悪役令嬢に転生とかあり得ないわー」
ロベリアは眉間にしわを寄せて今日学園であった事を思い出していた。 さかのぼる事数時間前、ロベリアは婚約者であるラインバルト・カイ・ゴース・フェルガリア王太子とその友人ら数名と共に学園の庭を談笑しながら歩いていた。 するとその時、上からバキッと音が聞こえ。
「キャーーー!! あぶなーーーい!! どいてーーー!!」
大声を上げながら王太子の上に人が落ちてきた。 咄嗟のことに王太子も避けきれずに落ちてきた人の下敷きになってしまった。 落ちてきたのは学園の女生徒の様であまりの事に皆呆気に取られていた。
「はっラインバルト様大丈夫ですか? お怪我は?」
いち早く正気に戻ったロベリアは王太子に近づいて目を見開いた。 偶然にも落ちてきた女生徒の唇が王太子の頬に当たって、さもキスをしているかのような状態になっている。 そして女生徒が起き上がろうとして王太子と目が合うと、顔を赤く染めていた。 その瞬間ロベリアの頭の中にフラッシュバックのように記憶が甦ってきた、そうこの場面をしっていると。
「ご、ごめんなさーーーーーい!!」
そう言うと女生徒は立ち上がりながら風のように走り去っていった。 余りの速さに誰も止める事が出来なかった。 皆が呆気に取られていると王太子が服の汚れを叩きながら立ち上がった。 その叩く音に皆我に返り王太子の傍に駆け寄った。
「殿下! お怪我はありませんか?」
「ああ、せっかくの御召し物が」
「一体何なの? あの女生徒は!」
「全く、無礼にも程がある、即刻調べ上げ捕らえましょう」
皆口々に女生徒に対して非難の声を上げるが王太子は。
「よい、この程度気にする必要はない」
「しかし殿下、このままでは」
「皆様! そこまでに」
皆が後ろを振り向くとロベリアがゆっくりと近づいてきた。
「ロベリア様、ですが」
「殿下ご自身が、よい、と仰っているのです。 この件はこれまで、よろしいですね皆様」
「……はい承知いたしました」
皆渋々であるが承諾した。
「では殿下、皆さまもうすぐ授業が始まります。 教室へ戻りましょう」
「うむ、では皆戻ろうか」
「「はっ殿下」」
「「はい、殿下」」
この一件でロベリアはこの世界が恋愛ゲーム『運命のキス』の世界ではないかとずっと考えていた。 『運命のキス』それは運動神経は良いが他は全くダメな主人公が成績を上げながら所謂イケメン達と恋愛していくゲームである。 その特徴が最初に攻略相手を決めるというもので、相手の好みの成績を上げつつ様々なイベントを経て結ばれることを目指すゲームだ。 そしてタイトルにあるように最初の出会いの場面は差異はあれど、必ず相手とぶつかり顔にキスをしてしまうというもの、さっきの王太子の場面のように。
「さて、この世界が本当にそうならヒロインの名はアリスのはず……」
ロベリアは傍にあったベルを鳴らすと侍女のメアを呼び出した。
「お呼びですか、お嬢様」
「ええ、お茶をお願い、それとロバートを呼んできて」
「畏まりました」
ロベリアはメアの入れたお茶を飲んでいるとドアがノックされた。
「お嬢様、ロバートで御座います」
「どうぞ入って」
「失礼致します」
ドアが開き初老の男性が入ってきた。 この屋敷の執事ロバートである。 公爵家に長年勤めている切れ者である。
「お嬢様何か御用との事ですが?」
「ええ、急に呼び立ててごめんなさいね。 貴方に調べてほしい事があって」
「何で御座いましょう?」
ロベリアはお茶を一口飲み喉を湿らす。
「えっと……マウマウスだったかしら?」
「マウマウス……王国北の山岳地方にあるマウマウス子爵領の事でしょうか?」
「そうそう、よく避暑地に使われる領だったわよね?」
「左様です。 領の半分が山岳と湖になるため上級貴族の方々が避暑地として行かれる領です。 マウマウス領に何か御座いましたか?」
「いいえ、ただ子爵家の事を調べてほしいの、特に家族構成とかね」
「家族構成ですか……ふむ、何を思っての事かは存じませぬが畏まりました。 明日の午後にはご報告できるかと」
「ええ、お願いね」
「はっでは早速、失礼したします」
ロバートは一礼し部屋を出て行った。 ロベリアはお茶を飲み干し、軽く微笑みながら呟く。
「明日が楽しみね。 もしそうだとしたら先手を打たないとね」
メアにはロベリアの言葉の意味が分からなかった。
次の日の午後、ロベリアはロバートの調査結果ををお茶を飲みながら読んでいた。 多少の誤差はあれど概ね自分の知っている設定どおりだった。
「なるほどね」
(やっぱりアリスか、あの時落ちてきた娘ね。 幼い頃母親を亡くし父親に育てられた、今は学園の寮住まい、週に2、3度王都の孤児院の手伝いも記憶と一緒ね)
「メア、ロバートと話があるから席を外してくれる」
「畏まりました」
メアが隣室に下がるとロベリアはロバートに微笑んだ。
「ありがとうロバート、上出来よ」
「恐れ入ります」
ロバートは深々と頭を下げる。 ロベリアは報告書を暖炉に放り投げて言う。
「彼女は偉いわね。 孤児院に手を差し伸べるなんて……でね、ロバート」
「はい」
「そんな彼女にご褒美を上げたいわ」
「ご褒美で御座いますか?」
「ええ、幼い頃に死別した母親に会わせてあげるの。 さぞ喜んでくれると思わない?」
「お嬢様それは……」
「王都とはいえ夜は危険だわ。 人を襲う野犬だっているかもしれない、でしょ?」
ロベリアは瞳を細め射貫くようにロバートを見た。 その瞳に寒気を覚えつつロバートは一礼する。
「畏まりました」
「お願いね」
部屋を出ようとしたロバートにロベリアは声をかけた。
「そうそう、ロバート。 人を襲うような野犬は危険だわ。 衛士に始末させなさい」
「御意」
執事の出て行ったドアを見つめてロベリアは先ほどのやり取りを思い出し身を震わせていた。
「……ふふ、前世ではこんな事考えた事もなかったわね。 でも今の私は公爵令嬢、何でも出来るわ。 邪魔はさせないたとえヒロインでもね」
後編に続く
3話目にして1話完結が崩れる事態に申し訳なく思っております。 全て書き上げて出そうとすると、かなりの時間がかかりそうなので取り敢えず前編として出しました。 後編もなるべく早く出そうと思います。 ここまで読んで頂き有難う御座いました。




