化け物退治
忘れた頃にやって来る、アホ話。
とある国である法律が施行される。 近年国内に於いて頻発している事案に対しての強行策であった。
その名もモンスター抹殺法、略してモンサツ法である。
その法律が施行されて間もないある日の事であった。
「ふざけんなコラ!! 土下座しろボケ!!」
とある食料品店で男の怒号が響き渡る。 レジに於いて客の男が店員に対して怒鳴っていた。 店員が商品を袋に入れる際に過って床に落としてしまったのだ。 店員はすぐに謝り新しい商品との交換をしようとしたが、その前に客の男が激怒したのである。
「申し訳ありません、直ぐに新品と交換致します」
「ああ? 何言ってんだこら! 俺は、そ・れ・が食いたかったんだよ! 弁償しろコラ!」
しかし実際はまだ精算前であり商品は大量生産品なので、どれを選んでも同じである。 にもかかわらず弁償しろ、誠意を見せろと男は喚き散らす。 その現状に慌てて店長が駆け付けるも好転はしなかった。
「お客様、どうかご勘弁下さい。 それ以上はお客様の為にもなりませんし」
「ああ! どう為ならないのか教えて貰おうじゃねぇか」
男は店長の胸ぐらを掴み殴るかの様な動作を取った、次の瞬間天井にあるランプが赤く点滅しサイレンが鳴り響いた。 突然の事に男は驚き辺りを見回した。
「おい! 何だこりゃ? うるせえ! 止めろ」
「直ぐ止まります」
慌てる男とは逆に冷静な店長はがそう言うとサイレンはピタリと鳴り止んだ。 男が再び店長に怒鳴り付ける。
「何だありゃ! まさか警察を呼んだんじゃねぇよな? この店は客を犯罪者呼ばわりすんのか?」
土下座を強要し、胸ぐらを掴めば十分犯罪である、が男は気にもせず店長に怒鳴る。 しかし先程とは打って変わって全く動じない店長に男も怪しむ。 そんな男に店長は言い放った。
「貴方はモンスターと認定されました。 あと数秒で狩人が到着します」
「はあ? 何言ってんだ、意味分かんねえよ」
男がブツブツと文句を言っていると、店の自動ドアが開く、そこから入って来たのは身長2m近い筋骨隆々の大男だった。 大男は真っ直ぐ店長に近付くと無言で頭を下げた。 店長も又大男に頭を下げる。
「お疲れ様です」
店長はそう言うと男を指さして頷くと大男が男に近付いて行く。 大男が自分に近付くのに気圧された男は店長に怒鳴る。
「てめえ! 何だこいつは? ヤ◯ザか? この店はヤ◯ザとつるんでるのか!」
「先程言いましたでしょう、この人は狩人。 モンスターを狩る為に政府から派遣された狩人です」
淡々と喋る店長の態度に青筋を立てる男の頭に大男の巨大な手が掴み掛かった。 男の頭を掴むとそのまま上に持ち上げ締め上げた。
「ギィヤアアアー! はっ離せー! こんな事して良いと思ってるのか! 畜生晒してやるー!」
ギャアギャア喚く男に店長が言い放つ。
「貴方はこちらの過失に対して必要以上の暴言、要求、並びに暴力を行使した事により、SGSCモンスター判別AI“無限”に因ってモンスターと判別されました。 それにより貴方はの出生から現在に至る迄の記録は全て抹消されます」
感情なく紙を読んでいく店長に男は訳が分からなかった。 びくともしない大男の手を叩きながら男は叫んだ。
「俺をどうする気だー?」
「貴方は……いやお前はモンスターだ。 モンスターは昔から狩人に始末されるんだよ。 では何時もの様に外でお願いします」
店長が大男に言うと大男は頷き、男を掴んだまま外に出た。
「やめてくれー、俺が悪かったよー」
連中が冗談を言っていないと感じた男は泣いて赦しを乞うが大男の手は弛まない。 大男は腰の鞄から大振りの鉈を取り出すと、無造作に男の両足を切断した。 余りの激痛に声すら上げる事も出来ない男、だが大男は容赦なく鉈を振り下ろし両腕も切断した。
「ギィヤアアアアアアアアアーー!!」
男の叫びが辺り一面に響く。 道行く人も遠巻きに見るが大男が狩人だと分かると直ぐに視線を逸らして足早に去って行く。 大男は叫び続ける男の首を切断して止めを刺した。 辺りは当然の様に血まみれだが、何処から途もなく黒塗りの車がやって来てあっという間にモンスターの死骸と血まみれの地面を片付けて去ってしまった。
「これで今月2人目か……はあ、早くこの法律周知されんもんかなー。 あの悲鳴は何日も耳に残るんだよ」
「私も。 多分今日寝れないです」
並んで溜息を吐く店長と店員であった。
1年後、その国にモンスターは発生しなくなったとさ。
TVでこんなアホが居るんだなと思った時、思い付いたので書いてみました。
ここまで読んで頂き有難う御座いました。