六話 旅は道連れなんですよ?
竜を倒した後、レイアは村の宴に招かれていた。
小さい子供達は無邪気に話しかけてくれるのだが、大人達──特にお年寄り──は未だ警戒していた。
やはりエルフは小説でよくあるように排他的なのだろうか?
それともただレイアの力に畏怖しているだけなのか。
レイアとしては情報が欲しいだけなので、その旨をリィルに伝えてもらい、早々に借宿である村長宅へ足を運んだ。
治癒が間に合い死者が出なかったことと竜の肉、宴を続けるには十分な理由だろう。
主役がいなくなったところで問題あるまい。
周りよりも少しだけ豪奢な家に入ると、村長が居間で寛いでいた。
名前は確かルドラだった筈だ。
どうやら宴には参加しなかったようだ。
ルドラはレイアを見つけると手招きして対面に座るよう促した。
断る理由もないので大人しく座る。
宴はお気に召さなかったかな?と笑いかけてくるルドラに、レイアは苦笑いで返した。
実際肩身が狭かったのだ、否定する必要もあるまい。
さて、と本題に入るルドラ。
「先ほども言ったが、この村を、リィルを守ってくれてありがとう。儂に出来る限りで君の願いを叶えよう」
「いえ、私はリィルが攻撃を受けるまで動かなかったのです。決して誉められたことではありません」
「それでも村を救ってくれたことに変わりはないだろう?あまり謙遜しなさんな。君は異世界人だと聞いた。見知らぬ世界で急に戦えと言う方が酷というものだ」
「⋯⋯そう、ですね。では幾許かの情報を貰っても?」
「答えられる範囲で良ければいいだろう」
許可を貰ったレイアは質問を重ねていく。
まずこの世界はアドミスというそうだ。
確認されている種族は、人間,森人だけでなく、獣人,土人,巨人,魔族などがいるらしい。
そしてここ──ハイカ村は、ネプト大陸の西端にあり、一番近い街からも馬車で数日はかかるようで交流もなく、閉鎖的な村のようだ。
この世界でも通貨は普及しているようで日本円換算にすると、
銅貨 :100円
銀貨 :1000円
金貨 :10000円
白金貨:100000円
と10倍上がりになるそうだ。
聖貨というものもあるらしいが、1000万の価値があるそうで余程のことがない限り出回らないのだと。
他にもステータスや魔法、技能のことを訊くとルドラもあまり詳しくないようで、ステータスに関しては開ける者を見たことがないので情報なし、魔法は基本的に1人一属性しか使えないそうだ。
スキルは、とても才能のある者は5,6個使うことが出来るが、普通は0、使えても2,3個が限界だと言う。
レイアは冷や汗を流しながら、スキルはいざとなった時しか使わないと誓った。
大量のスキルを持っていることがバレたら、どうなるのか想像もしたくない。
「このくらいで十分です。ありがとうございました」
「もういいのかね?まだ必要最低限のことしか教えていないが」
「ええ。私はこれから旅をしてこの世界を自分の目で見て周りたいと思っているんです」
「旅か⋯⋯。では1つお願いをしても宜しいかな?娘を──リィルを旅に同行させてやってほしい」
「リィルを⋯⋯ですか?」
「あの娘は排他的な他の者と違い、村の外に興味を持っている。出来れば叶えてやりたいのだがな⋯⋯、儂は立場的に難しいし、かと言って村の衆は皆森の外に出たがらないのでな⋯⋯。そこで君にお願いしたというわけだ」
「リィルさえ良ければ私に否やはないですけど⋯⋯。というより私からお願いしたいくらいです」
「ほっほ、そうかそうか。それは重畳。それなら是非連れて行ってやってくれ。リィルには私から伝えておこう。今日はもう休むかね?」
「ええ、そうします」
レイアは異世界生活初日の夜を快適に過ごすことが出来たが、そのせいで暫く夜が辛くなるのだがそれはまた別の話。
翌朝、特に食料以外の準備をすることがないレイアはルドラに日持ちする食料と、少しばかりの金銭を貰って家を出た。
村の中は酒の匂いで充満しており、村人達は皆酔い潰れていた。
寝こけたエルフ達を避けながら村の入口まで辿り着くと既にリィルが待っていた。
目を擦っているところを見るとまだ眠いようだ。
「──あっ、お早うございます!レイアさん」
「あぁ、お早うリィル」
「お父さんから聞きました!私を旅に連れて行って貰えるんですよね!?」
「あ、あぁ。その通りだから落ち着いてくれ」
「──はっ!す、すいません!森の外に出れると思うと興奮しちゃって」
あまりの剣幕にレイアが軽く引いてると、リィルは我に返り羞恥で頬を朱くした。
それにしても徒歩で行けと言うのだから、ルドラはレイアをなんだと思っているのだろうか。
実際化け物なので数日の行軍くらい何の問題もないのだが。
リィルもリィルで特殊な性癖があると知っているルドラは特に気にしていなかった。
唯一の誤算はレイアが野宿慣れしていないということだけだった。
「みんなへの挨拶は済んだのか?」
「昨晩に済ませました」
「よし、それじゃあ行くか」
「はい!よろしくお願いします!」
そう言って、レイアとリィルはハイカ村を後にした。