五話 強すぎですよ?
「大丈夫か?」
リィルに一言声をかけてから眼前の竜を見据える。
まだこの世界で自分がどの程度動けるか把握は出来ていないが、つい飛び出てきてしまった。
だが後悔はしていなかった。
この世界にきて割と平然としていたが、それでもやはり心の何処かで寂寥感が募っていたのだろう。
そんな時に初めて会って話した人物なのだ。
侵入者であり得体の知れない自分にも関わらず、親身に話しかけてくれたからこそ平静でいられたのだと思う。
まだ出会ってから1時間も経っていないが、それでも守りたいと思ってしまったのだ。
◇◆◇
それに⋯⋯コイツは脅威じゃない、とレイアは心の中で続ける。
地球の陸上では見ることも出来ない程の大きさを誇っている生物だ。
体長は10mを優に超えている。
ゴツゴツとした青っぽい鱗に尖った上牙。西洋の竜のイメージに一番近い。
それでもこの生物に負けるイメージが湧かなかった。
いつまで経っても次の行動を起こさない竜に訝しげな視線を向けると、竜は瞳に怯えの色を浮かばせていた。
理性を失っていても、動物の本能が警鐘を鳴らしているのだ。
だがレイアに見逃すという選択肢はなかった。
「私の友人に手を出そうとしたな?私がそんなことを許すと思ったか?」
返答はない、が後ろで身動ぎする気配がした。
レイアはリィルのことを友人と言い切った。
リィルの頬が朱に染まっているが、レイアは気づいていない。
そも無意識で言ったことなのだ。
カッコつけたかっただけである。
今レイアが着ているのはあくまで動きやすい私服であり、戦闘用の黒装束ではない。
勿論グローブも嵌めていない。
それでも十分だと判断した。
レイアは掴んでいる尻尾を握り潰していく。
竜から悲痛な叫び声が聞こえてくるが無視して圧を強める。
硬い鱗で覆われている筈の尻尾を千切り捨て、足に一撃を叩き込む。
たった一撃、それだけで足が捻り飛んでいく。
これには流石のレイアも面食らった。
竜は片足を失いバランスを崩し倒れ込む。
何が起きたのか理解出来ていない呆けた顔をしていたが、足の痛みが遅れてやってきたのだろう。
のたうち回り地表を抉っていく。
見ていられないとばかりにレイアが頭に向かって拳を振り下ろす。
文字通り頭が消し飛んだ。
首の中程から上を失くした竜が、最後の一撃で出来たクレーターに身を沈めた。
圧倒的。
レイアは改めて自身の力の強大さに戦慄した。
これでも戦った竜は中位に位置する強さだったのだが、それが蓋を開けてみればたったの二撃。
それだけでレイアの異常さがよくわかるだろう。
エルフ達は皆ぽかんと口を開けて唖然としていたが、唯一リィルだけは流石ですとばかりに顔を綻ばせて喜んでいた。
レイアはひっそりと力を制御出来るようにならないと。と決意を固めていた。
◇◆◇
「ちっ!なんなんだあの化け物は!」
村からだいぶ離れた丘の上で1人の男が悪態をつく。
中肉中背で特筆すべきことのない顔をしていたが、額に生えた2本の角が人間ではないことを示していた。
「あのお方に知らせねば⋯⋯!」
そういって身を翻した男の姿は、闇夜と同化して見えなくなっていった。