四十五話 まだ上があるんですよ？
昔と比べて文章力上がってないですか？
気のせい？悲しい。
ようやく一部が終わりそうですね。長かった。
果てしなく広がる殺風景な世界の中で、1人は地に伏せ、もう1人はそれを見下ろしていた。
「もう終わりか？」
数分ほど前に戻る。
初めに飛び出したのはエリアスだった。
下から掬いあげるような軌道を描いて鎌が迫る。
その左右から逃げ道を塞ぐように、2人に増えたアヤメが接近してくる。
後退すれば追従、左右に避ければ待ち構えている2人の餌食。
なるほど、悪くは無い。
だが、力不足だな。
レイアは下から迫る鎌の刃を横から左足で蹴り飛ばして右のアヤメを牽制、その勢いのまま回転して左のアヤメに後ろ回し蹴りを叩き込む。
感触はあった……のだが、幻影のように消えてしまった。
質量を持つ幻影とはなかなかに面白い。
レイアは更に回転を止めず、鎌を蹴られてバランスを崩したエリアスに右肘を打ち込んだ。
「がッ！？」
「お嬢様！？」
吹き飛んでいくエリアスを、残った方のアヤメが反射的に目で追ってしまう。
「余所見している余裕があるのか？」
すぐ耳許から聞こえてきた声に全身が警鐘を鳴らす。が、間に合わない。
次の瞬間、レイアの渾身の右アッパーが腹部に突き刺さった。
「吹き飛べ！！！」
悪魔が本当の意味で死なないことは理解しているので、レイアも力をセーブしていない。
その規格外の膂力に、アヤメは文字通り打ち上げられた。
腹部には風穴が空き、血潮の代わりに魔力が漏れだしている。
あれでは暫く動くことすら出来ないだろう。
「───ぉぉおおおお！！！」
それを遠目に見ていたエリアスが、眦を吊り上げて飛びかかってきた。
その愚直なまでの直進に、レイアは真っ向から鎌を打ち砕いた。
しかしエリアスは既に鎌から手を離していた。
「それは囮じゃ！」
レイアの速度と格闘術には勝てないと判断したエリアスは、更にその間合いを詰めるように前進する。
組み付けば拳や蹴りは振るえないし、憂鬱の能力で優勢に立てる。エリアスはそう考えたのだ。
なるほど、存外冷静だったらしい。
それでも彼女には届かない。
「悪いな。私は組み技や掴み技もできるんだ」
そう言ったレイアは腕を掴んで背中に回し、倒れたエリアスの足にも組み付いて関節を極める。
折ると再生してしまうので、ギリギリの状態で止めているのだ。
「はっ、なすの、じゃ！！」
「おいおい、あまり暴れてくれるな。じゃないと」
ミシッと不穏な音が鳴っていた関節が、一際大きな音を立てて折れる。
「───ぐっ、ぁああああああああ！！！！」
「おっと止めるのが遅かったか」
折れてしまっては組み付いている意味もないので、技を解いて立ち上がる。
流石七大罪の悪魔と言うべきか、すぐに再生が始まる。
しかし起き上がる様子はない。
「どうした、もう終わりか？」
挑発するかのようなレイアの問い掛けに、しかしエリアスは何も応えない。
レイアは興味を失ったかのように鼻を鳴らすと、今までの技と多大な損傷を再生したことにより魔力切れの症状を起こしているアヤメに近付いていく。
と、歩きだそうとしたレイアの足が動かない。
何事かと下を見ると、黒い靄が足に絡み付き歩行を阻害していた。
「今じゃ！ アレを使え！」
レイアの足が止まった隙にエリアスがアヤメに叫ぶ。
どうやら応えなかったのではなく、詠唱していたため応えられなかったようだ。
その場に膝をついて青い顔をしていたエリアスだったが、アヤメの呼びかけに対して何かを発動しようとし始めた。
「なるほど、あの何かは其方が命をかけるに値すると。
しかしアレはなんだ？ 魔力は感じないが有り得ん程の力が集まってるぞ」
レイアの言葉の通り、アヤメの周りには既に可視化出来るほどの力が渦巻いていた。
「……くく。そうじゃ、アレは正真正銘奥の手。先の簡易的なものとは比べ物にならん、完全なる時間の巻き戻しじゃ。
此度の一件、全てを無かったことにさせてもらうぞ。もう会うこともないじゃろうな。お主とて時の流れには逆らえまい」
なるほどなるほど、確かに強力だ。そんな能力が何の代償もないとは思えないが、それを覚悟するだけの思いがあるのだろう。
「だが、それを許すことはできんな」
レイアが足に魔力を流し込み、無属性の「ハウル」を発動させる。
内側からの衝撃には耐性がないのか、拘束が弾け飛ぶ。
「───なっ！ ……しかしアレはもう準備段階を終えておる！ 今更お主に何が」
できる。と続けようとしたエリアスを遮り、レイアが獰猛な笑みを浮かべて口を開く。
「確かに私の能力では無理だ。だが本人の能力ならどうだ？」
「なにを……」
「せっかくだ、其方らに見せてやろう。真化した神器のお披露目だ」
言うが早いか、レイアのグローブが解けて体に吸い込まれる。
「『我は希う。其に仇なす力を。誅する力を』」
───【現身:虚飾】
滅多にないレイアの詠唱だが、傍目にはグローブが無くなった以外の変化はない。
しかしエリアスはしっかりと変化を感じ取っていた。
「な、なぜお主からアヤメと同じ気配がするのじゃ！？」
見れば、アヤメも目を見開いて驚愕している。
「くっ、くく……。なるほどこれはあまり多用出来ないな。
まあ検証は後だ。それ、妨害させてもらうぞ」
「そんなことできるはずが……」
レイアの宣言を否定しようとしたアヤメだったが、思わず口を止める。
レイアから自分と全く同じ力の集まりを感じたからだ。
「馬鹿な……」
途轍もなく嫌な予感がするが、既に発動状態に入った能力を止めることは出来ない。
「くっ！【時空遡行】！」
レイアがアヤメの発動に合わせて、拳を振り上げる。
「【現身:時空遡行】」
不思議と、音はなかった。
静寂の中で空間が軋み、歪む様子は見るものを不安にさせる。
膨大なエネルギー同士の衝突による光を撒き散らし、陽炎のように周囲を不確かなものにしていく。
ただ発動したアヤメと違い、直接相殺させようとしたレイアの腕は、捻れようとするのを無理やり押さえ込んでいるかのように至るところから血飛沫が舞う。
だが彼女の表情は不敵に笑ったまま変わらない。
痩せ我慢ではない。ただこの瞬間が楽しくて仕方ないのだ。
数分にも数瞬にも感じられた時間が終わりを告げる。
完全に抑え込まれた時空遡行が不発に終わる。
それだけではない。
無限に続いていた虚構世界が衝撃に耐えきれず、砕いた鏡のように割れていく。
「ありえない……。あれを阻止するなんて……」
アヤメが呆けた表情で座り込む。
エリアスもこれ以上抵抗するつもりはないようだ。
「完敗、じゃな。煮るなり焼くなり好きにせい。だがアヤメだけは見逃してくれんかの？」
「お嬢様……！ そんなこと───」
2人に勝手に話を進められ、思わずストップをかける。
「待て待て待て。誰がそんな非人道的な真似するか」
「ではどうするというのじゃ。そのまま見逃してくれそうにもなかろうて」
エリアスの問いに、レイアは微笑む。
エリアスたちはその笑みに嫌な予感を覚えながらも続きを促す。
「其方らに提案したいことがあってな。
実は───」
ボツ案
レイア「進化した神器の真価を見せてやろう(激ウマギャグ)」
