四十四話 未だ頂は遠く
短いです。
あ、新年あけましておめでとうございます(激遅)。
ポケットなモンスターしたり新人Vに貢いでいたら遅れました。
次はようやくラスト戦なのでちょっとモチベは高い。
「あれ、いない……」
広々とした空間で、ユウナは一人呟く。
闘技場というあからさまな場所を用意しておいて何もいないというのは、些か拍子抜けする思いだ。
「兄さんが言っていた修練というのも、ここの事だと思うんだけど……。
さっきのはちょっと弱すぎるし」
ユウナが潜ったダンジョンは、どうにも幻術の類が多かった。
しかし幼い頃から新に目を鍛えるよう教えられていたユウナとしては、この程度は子供だましのようなものだ。
必然、敵も擬態を必要とするものが多く、正面から彼女と戦える敵はいなかった。
実際はただ目がいいだけで見破れるようなものではないのだが、異世界に来てからも鍛え続けた結果スキルへと昇華し、あらゆる事象を看破出来るようになっている。
尤も、ユウナがそれに気付くのはもっと後の事なのだが。
そうした理由からユウナと正面から戦えるような実力を持つ敵はおらず、彼女としては消化不良なのだ。
唯一闘技場の一つ上の階層にいた、5mはあるカメレオンらしき魔物には少し驚かされた。
それでも透明化が意味を成していない以上、伸ばしてくる舌の速さ以外に注意するべき点はなかった。
その後、下への道を探して闘技場へ辿り着いた。
ユウナですら見つけるのに20分はかかる程の強力な隠蔽が施されており、否が応でも期待が高まったというのに、その結果が冒頭の台詞だ。
「兄さんでも予想を外すことがあるんだね。まあ本当に何かがいたのは確かだろうけど」
むしろこれだけ隠されていて何も無い方がおかしい。
諦め悪く隅々まで探索するが収穫はなかった。
「うーん、やっぱり何処かに移動しちゃったかな?
後で兄さんに何か強請らなきゃ」
いたずらっ子のような笑みを浮かべたユウナは、元来た道を引き返して行った。
◇◆◇
───ドサッ。
刺さっていた槍が引き抜かれ、カナタの目の前に立っていた最後の鬼が崩れ落ちる。
「……解除」
残心をして戦闘形態を解くと、黒いローブを羽織り直す。
「……あ。レベル」
2回目のレベルアップに、早くないかと首を傾げる。
先日の模擬戦に加え、このダンジョンでの戦闘が積み重なった結果だろう。
かと言って他のメンバーと比べると、少し高めなカナタのレベルはそう易々と上がらないのだが、どうにも聞いていた話より敵が強いうえに多い。
先程も最下層手前のフロアと思われる場所で、ボスクラスの鬼4体と戦いを繰り広げていたのだ。
殲滅戦を得手としないカナタでは、なるべく避けたい状況である。
レイアやアルトと違い、万能性に富んだカナタは攻撃力がそれほど高くなく、加えて神器のデメリットとしてスキルレベルに制限が掛かっているので火力が出しにくいという欠点がある。
一応形態の1つに殲滅型があるにはあるのだが、閉所や屋内では使えない性能になっているため今回は封印した。
閑話休題。
現在最下層へ向かう階段を降りているが、恐らく何も無いだろうなとカナタは予測している。
カナタのような神器から派生した特殊な職業は聖属性に連なるもののようで、目には見えなくとも、悪魔が移動した魔力の残滓を感じ取っていた。
「……やっぱりギルマスの方」
地上に上がったカナタは、悪魔の向かった方へチラリと目をやり、すぐに戻す。
「……心配するだけ無駄。
それに……私たちはまだ上がある。早くギルマスに追いつかないとまた離される」
自分の持つ神器のステータスを開き、名称の横にある(?)のマークを見つめる。
「……もう1つの切っ掛けも、ずっとメンバーを見てきたギルマスならすぐ気付くはず」
先の模擬戦、1番異質だった娘を思い出し、微笑を浮かべる。
自身に補助魔法をかけつつ、攻撃を仕掛けにきたフィリアを。
自分もみんなもまだゲーム気分が抜けていなかったのだろう。レイアと同じことなど出来ないと決め付けていた。
フィリアも無意識下での行動だったのだろうが、その結果として目指す道を開いてくれたのだから感謝しかない。
レイアの持つ神器の能力再現。
自分たちの持つ神器は次があるという示唆。
私たちは更に強くなれる。
最早この世界はゲームから逸脱しているのだ。
それならば私たちもプレイヤーという枠組みから外れることで、限界を超えられるのでは?
そのためにまずは追い付く。肩を並べられるように。
新たに気持ちを固めたカナタは、仲間たちの元へと歩き始めた。




