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自重しない魔拳士さんは旅をする  作者: Liberty
第三章 国と勇者と魔王
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四十一話 傲りは無垢にて

「またか? 人間風情がここに何の用だ?」


「あらあら〜、何ともいじめ甲斐のありそうな()ね」


 視線だけを寄越し顔も向けようとしない“傲慢”の悪魔に、ユイがサドっ気を洩らしながら近付いていく。

 成熟しきっていない幼い見た目の“傲慢”と、母性溢れるユイの対峙は、ともすれば親子のようにも見えるだろう。

 しかし、互いの間に和やかな雰囲気など皆無。いつ敵意が爆発してもおかしくないだろう。


「おい止まれ下等生物。見ればわかるだろう? 今は忙しいんだ。後で遊んでやるからそこで大人しくしてろ」


 その見た目の幼さからは想像も出来ない程不遜な言葉が飛んでくる。


「あら〜、おままごとでもしてくれるのかしら」


 対してユイは、微笑みを崩さずそう言ってのける。

 “傲慢”という名前や見た目の通り、ユイの煽りはよく効いたようで、こちらを向いた顔が露骨にイラつき始めた。


「⋯⋯図に乗るなよ。俺からしたら人間なんぞ玩具と変わらないんだ。今すぐにでも壊してやろうか?」


 そこまで口にして、“傲慢”は初めて手を止めた。

 手元から溢れたモノを目にして、ユイは眉を(ひそ)めた。

 そこには焼け焦げた布や、熱で歪んだ兜らしきものがあった。それも1つや2つでは済まないだろう量だ。

 そう、実際に“傲慢”からすれば今まで挑んできた冒険者たちなど、替えのきく玩具でしかないのだ。


「⋯⋯新さんはわかってて私を送り込んだのでしょうか」


「あ? 何ボソボソ言ってやがる。今更命乞いか?」


 その問いに対してユイは答える代わりに、俯いていた顔を上げた。

 見る者を魅了する満面の笑みで。ただし底冷えするような瞳を伴って。


「いいでしょう。私が(しつけ)てあげましょう」


「⋯⋯舐めるのも大概にしろよ下等生物が!」


 “傲慢”はとうとう頭に血が上ったようで、無数の火球を投げつけてくる。

 ユイは魔法で受け流そうとして───即座に中断、急いで回避する。

 着弾した地面は溶解し、沸々と煮え立っていた。


「ほう、確かに今までの玩具よりはやるらしいな」


 少し面白そうに、“傲慢”は鼻を鳴らす。


「魔力が視えなかった(・・・・・・)わ⋯⋯。魔法じゃないのかしら⋯⋯」


「そうだ! これがお前ら下等生物が使うような魔法では一生掛かっても辿り着けない力だ!

 魔法だと勘違いして受け止める馬鹿どもを見ているのは非常に愉快だった!!」


 その魔法では出せない火力に、詠唱のいらない連射力。

 確かに(おご)るだけの力はあるのだろう。

 ユイも、魔導を極めた際に手に入れた『魔力視』のスキルを持っていなければ、魔法だと勘違いし受け止めようとして燃やされていたのだ。

 魔法でも物理でもない攻撃を防ぐ(じゅつ)は存在せず、現状防ぐ(すべ)がない。


「⋯⋯うふふ。いいわ〜。私も見せてあげる。魔法を超えた、魔導(・・)。その極地をね」


 それでもユイは負ける気がしなかった。

 己の半身───今や本体とも言えるこの体の力を信じているから。

 そして何より、ギルマス(レイア)に勝てると信じられているから───。


「気でも狂ったか? 所詮魔法の延長でしかないのだろう? そんなものに俺の火が負けるわけがない!」


 再び“傲慢”の周囲に複数の火球が浮かび上がる。

 対してユイは無詠唱の魔法(・・)で土塊を無数に作り出す。

 同時にその口は小さく何かを唱えていた。


「その程度か? 期待外れもいいところだ。さっさと去ね!」


 火球と土塊がぶつかり合い、防ぎきれなかった火がユイの側へと着弾していく。

 土煙が闘技場を覆い、互いの姿を隠す。

 暫く様子見をしてもユイが出てくる気配はない。


「ふん! 所詮口だけのゴミだったか」


 この時、“傲慢”は既に気を緩めてしまったため、微かに聞こえていた詠唱が耳に入っていなかった。

 そしてそれは静かに終わりの句を告げた。


「少しはやるようだったからな。いい玩具⋯⋯に⋯⋯──」


 “傲慢”はそれ以上の言葉を紡げなかった。

 土煙の中、上にありえないものを見てしまったから。




 それは正しく太陽だった。

 闘技場の上空を覆うほどの馬鹿げた球体。

 熱は一切感じられないことが、逆に不気味さを増している。




───戦略級魔導(・・)『テオ・プロミネンス』




 太陽が墜ちた。

 閃光。熱風。衝撃。

 闘技場が蹂躙されていく───。



◇◆◇



 数刻後。

 原型を留めていない闘技場で、人影が1つ立ち上がる。


「あら、あら。まさかここまで威力があるとは思わなかったわ」


 焦土と化した周りを見渡し、溜息を零す。

 咄嗟に防御魔法を使っていなかったら、自分も危なかっただろう。

 魔力のある攻撃でよかったと、誰にともなく感謝した。


 当然“傲慢”の姿は消し飛んでおり、ただレベルアップのファンファーレが頭に響いていた。

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