四話 エルフの戦士
リィル視点
私は村長の娘として生を受けた。
出生率はあまり良くないエルフ族だ、みんなに可愛がられて育った。
同年代の子達より魔力の扱いが上手かった私の夢は村の警備兵だった。
両親は苦言を呈していたが、幸いにも兄がいたので、村長の娘という役目に縛られることはなかった。
20になり成人すると、すぐに警備隊に入った。
魔力の扱いが得意な私は後衛として働いていたが、ある時魔物の攻撃を受けてしまった。
油断していた為迎撃することも出来ずに死を予感した。
だが結果は擦り傷すらないほどの軽傷で済んだ。
今まで争いごとをしたことがなかったので、自分の頑丈さをその時初めて知ったのだ。
それからは自身の頑丈さを活かした戦い方に変わった。
この辺りから私は少し変な性癖に目覚めてしまったが、特に気にすることもなかった。
前線で攻撃を受け止めながら至近距離で魔法を放つという戦い方をしていたら、いつの間にか隊長にまで昇格していた。
尤も、武器の扱いは絶望的だったのだが。
その日私達一番隊は村周辺の森に突如現れた魔力反応に向かって歩を進めていた。
ここのところ森にいる魔物達が凶暴化していた為、その原因となるものがあるかもしれないと調査に向かったのだ。
泉付近にある魔力反応地点を目視すると、幼さは感じないが、まだ少女というべき年齢であろう銀髪の人族が下着姿で佇んでいた。
少女から感じ取れる⋯⋯否、感じることすら出来ない底知れぬ強さに恐怖した。
だがそれ以上に美しいと思った。
副隊長に声をかけられ我に返ると、少女の周りを取り囲むよう指示した。
「貴様は何者だ!」
手元を動かしていた少女はこちらに気づいていなかったようで、急な呼びかけにビクッと背筋を伸ばしていた。
その姿がどこか可笑しくてつい笑みが零れそうになったが、威厳を保つ為なんとか抑えて再び誰何した。
少女はレイアと名乗り大人しく村に着いてきてくれるようだった。
驚くべきことに少女──レイアさんは空間収納を使えるようだった。
天才と持て囃されていた私を軽く凌駕するような才能だ。少しだけ嫉妬してしまう。
見慣れぬ服装になった彼女は、つい見蕩れる程の色気を出していた。
我に返った私の顔は赤くなっているだろう。
ちゃんと返答出来ているだろうか?
道中で彼女に自分の能力について話し、彼女自身のことを訊いてみた。
曰く、彼女は別の世界の人間だそうだ。
確かにそれなら底知れぬ強さにも納得出来る。
だが話に聞いていた異世界人とは随分特徴が違う。
実際に見たことはないが、異世界人は皆黒髪黒目だったという。
彼女はどう見ても銀髪金眼だ。
まあ異世界人はわかっていることの方が少ないし、そういうこともあるのだろう。
自分の知っていることを伝えると彼女は思案顔になっていた。
そこへ斥候が戻ってきて村の異変を伝えられた。
彼女が竜を知っているかどうかは分からないが、巻き込むわけにはいかないので此処で待ってるよう伝えた。
だが彼女は変わらぬ態度で恐れるでもなく、実力を確かめたいと言った。
思わず呆気に取られてぽかんとしてしまった。
きっと彼女は竜を知っているのだろう。
その上で問題ないと言っているのだ、私はその言葉を信じるしかあるまい。
なに、もしものことがあっても私が守ればいいのだ。
村に着いた時には既に1匹は長老達の手によって討たれていた。
疲労しているようだがそこは私達がカバー出来るだろう。
「加勢します!」
一言声をかけ詠唱に入る。
いつもなら前線で体を張るのだが、流石に竜の攻撃は私でもきついだろう。
本職が盾役の者達に前線は任せて後ろから魔法を放っていく。
いくら竜とはいえ魔法の得意なエルフ達の弾幕には耐えられなかったのだろう。
1匹を倒し、残りの1匹も瀕死だった。
私も含めみんな油断していた。
「伏せろッッッ!!」
唐突に聞こえてきたレイアさんの大声に反射的に伏せる。
一番隊と長老達はちゃんと反応したようだが、若い男衆達の反応が遅れた。
凄まじい勢いで振られる尾に、吹き飛んでいく男衆達を見て血の気が引いた。
彼女が警告を発していなかったら皆戦闘不能に陥っていただろう。
竜を見据えると、両眼を赤くして暴れ回っていた。
あの様子だと狂化か?
しかし何故急に狂化したのだろうか?
それよりも吹き飛ばされた男衆の怪我が致命的だ。
急いで治療したいのだが、暴走した竜がそれを許してくれない。
竜を直ぐに倒さねばと躍起になった焦りで詠唱を失敗してしまった。
私は致命的な隙を晒してしまい、そこへ尾が飛んできた。
スローモーションになった世界で次々と思い出が流れていく。
最後に頭をよぎったのはレイアさんの優しく微笑む顔だった。
もう一度彼女と話したかった⋯⋯。
出来ればこれからの彼女に着いてもいきたかった。
目を瞑り最期の時を待つ。
バシッッ!!
衝撃がくるどころか、場違いな軽い音に思わず目を開ける。
そこには竜の尾を片手で受け止めている、たった今思い返していた優しげな顔があった。
「大丈夫か?」