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自重しない魔拳士さんは旅をする  作者: Liberty
第三章 国と勇者と魔王
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三十九話 我欲は妬みにて

MMO39



『なんでワタクシのモノにならないの!? それはワタクシにこそ相応しいものだと言うのに!!!』


「そんなこと言われてものう⋯⋯。悪いがこの盾はギルマスからの信頼の証。譲ることは出来んのう」


 げんなりとした表情のハストは、何度目とも知れぬ返答を返す。

 相手の少女──“嫉妬”は既に癇癪を起こして理性を失い、その見た目は大蛇へと変貌しており、ハストの返答には特に意味などないのだが。




 最初は理知的に声をかけてきたのだが、ハストの装備を舐め回すように見ると次第に瞳が濁っていき、段々と会話のキャッチボールが出来なくなっていった。

 その盾を献上すれば見逃すだのと上から声をかけてきたので、元々会話を繋げる気があったのかどうかすら怪しかったが。

 本人は嫉妬の悪魔と名乗っていたが、癇癪を起こしている今の様子だと、嫉妬というよりもどちらかと言うと強欲に近いとハストは思う。


「最早話し合いは不可能かの⋯⋯。出来れば穏便に済ましたかったのじゃが⋯⋯」


 そう言ってハストは両手を使い、大盾を構える。

 未だ暴れ続ける“嫉妬”は、ハストへと何度も体当たりを繰り返す。

 巨大な質量はそれだけで武器となる。

 幾度となく地面と巨体に挟まれるハストは、目に見える傷がなくとも、感覚として体力の減少を悟っていた。


 ハストの強みはその圧倒的耐久性だが、現在のような防御とは関係なしに入るダメージに弱い。

 そして微々たるものとはいえ蓄積したダメージは、神器によるデメリットの発動条件へと近付いていく。


「この技は結局練習中には成功しなかったが⋯⋯。やるしかあるまいの」


 このままだとジリ貧と考えたハストは、大技を発動する覚悟を決める。

 タイミングを合わせてボタンを押すだけのゲームと違い、現実となった今は身体の動きが重要となる。

 初老とも言える歳になるハストには、身体的に少々厳しいものがあるが、レイアは身内に不可能な試練は決して課さない。

 レイアは出来ると確信しているからこそ、ハストにこの相性の悪い“嫉妬”を相手させているのだろう。

 ならばその期待に応えるしかあるまい。


「⋯⋯次のタイミングじゃ」


 嫉妬の巨体が一段と大きく跳ねる。

 ここで決めなければ体力は7割を切り、一気に戦況は不利となる。

 息を整え、目を瞑る。

 一瞬の静寂ののち、目を見開いたハストはスキルを発動する。


「『超過反(オーバーチャージ)鏡震(リフレクション)』!!!」


 ───ビキビキビキッッ!


 刹那の衝突と共に、大蛇の身体に罅が入る。


 『超過反鏡震』。盾術を最大まで鍛え上げた末に手に入る、防御力無視のカウンター技である。

 発動までに受けたダメージを、発動した際に受けたダメージに比例した倍率で跳ね返すというものだ。

 当然代償は存在し、成功失敗に関わらず、それまでにかけたバフはもちろんのこと、神器によって上昇した防御さえ全てリセットされる。

 加えて、カウンター技なのでダメージを受ける瞬間に発動するのだが、効果の受付時間が非常に短く、失敗した場合はバフリセット+防御力ダウンのデバフもかかるリスキーな技だ。

 しかしその分恩恵は非常に強いもので、現在“嫉妬”の攻撃によってかかった倍率は、20倍を超える。

 そんな絶大なダメージを受けた“嫉妬”は断末魔をあげることすら許されず、破砕音を撒き散らしながら崩れ去っていった。


「成功したのう。恐らく土壇場で成功するのもギルマスの想定通りなのじゃろう」


 相変わらず恐ろしい方だ。と愉快そうな笑みを浮かべたハストは、闘技場を後にした。

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