三十八話 色情は彩華にて
『色欲の花道』という名前の通り、生い茂った花で作られた道を、妙齢の女性───フィリアが進む。
ダンジョンに入ってだいぶ経っているのだが、フィリアは辺りをキョロキョロと見回している。
しかしそれも仕方の無いことだろう。
何せダンジョンの中だというのに、青空が見えるのだ。
壁などがあるわけでもなく、道を外れて花畑を進むと、何故か元の道を外れた場所に戻ってくるのだ。
どんなに真っ直ぐ進んでもいつの間にか元の道へ戻ってきてしまうので、フィリアは大人しく花のない道を進むしかない。
数十分ほど歩いていると、ふと何かされたような違和を感じた。
しかし特段何があるというわけでもなく、首をかしげながら歩みを進める。
と、そこで漸く何かの影が見えた。
目を凝らすとそれは人型をしており、こちらへ歩んでくる。
自然2人(?)の距離は縮まってくるのだが、ソレの姿がはっきりと見えた時、フィリアは思わず足を止めてしまった。
依然としてこちらへ向かってくるソレは、燕尾服と思わしきボロ布を纏い、爛れた醜悪な顔で近付いてくるのだ。
一瞬怪我人かと思ったのだが、明らかにあれは人間ではない。
人間に腕は4本も生えていない。
おまけに罅割れた口から、「やぁ、素敵なレディ。こんな所で一体どうされましたか?」などと無駄にいい声で場違いな事を言っている。
これははっ倒した方がいい分類だ。間違いない。
「あなた何者? 答えによっては容赦しないけど」
人型ということに躊躇を覚えながらも棍を構え、誰何する。
男(?)は誘いに乗ってこないとは思ってもいなかったのか、動揺しまくっている。
「私の魅了が効いていないのか!? それともまさか特殊性へぐぇっ!」
失礼なことを言おうとしていたので、つい突いてしまった。私は間違っていない。
そんなことよりも、男は魅了などと言っていた。
ゲームでは一定時間、魅了してきた敵の配下になるという効果だったが、現実となった今はどう作用するのだろうか。
セオリー的には相手が物凄いイケメンに見えたりだろうか。
⋯⋯いやどう見ても無理な顔だ。生理的に無理。
イケメンなら新さんレベルでも引っ張ってこい。
ということは私に魅了が効いてないということになる。
と、そこまで考えて、理由に思い当たった。
「そういえば私状態異常無効のアクセサリー付けてたわ」
「何ィ!?」
いいリアクションだが見逃すわけにはいかない。
コイツは世の女性の敵だ。
ギルマスの躊躇するなという教えに従い、とどめを刺す。
なるべく苦しまないように喉を一突きだ。
しかし覚悟していたような血は流れ出ず、黒い靄のようになって消えてしまった。
悪魔のような類いのものだったのだろうか。
それにしてもまさか魅了してくるとは⋯⋯。
あの違和感が抵抗した感覚なのだろう。
魅了なんて高レベルモンスターしかしてこなかった為、油断していた。
やはりここはゲームとは違う。改めて実感した。
まあ魅了されてたところでレベル差がありすぎてどうにもならなかっただろうが。
そもそも私はレズだ。
ギルマスなんか狙ってみようかしら⋯⋯。
元々美形だったけど、性転換して女の子になって魅力が更に増した事だし⋯⋯。ふふふ。




