三十四話 再認識ですよ?
舗装されているというにはお粗末な道を歩む少女を、木陰から複数の視線が見つめていた。
少女はそれに気付かないようで、のんびりと森の中を進んでいる。
少女の顔は無邪気な笑顔に包まれており、これから起きる事など予期もさせないものだった。
しかし、その穏やかな景観は唐突に終わりを告げた。
木陰に潜む者の中でも一際大柄な男へ、どこからか近付いてきた小柄な男が何かを伝える。
大柄な男は1つ頷くと、合図を出して一斉に少女を取り囲む。
彼らは青獅子と名乗る盗賊団。
マリスの率いていた盗賊達のせいでだいぶ影が薄かったが、そこが壊滅した今、これ幸いにと勢力の拡大を続けている。
そんな彼らが一番に狙うのは商人の荷物なのだが、構成員が全て男の彼らだ。
当然性欲の捌け口も、だ。
そして彼らが目をつけたのが、今囲んでいる少女だ。
攫う際に邪魔されないようにと、用心深く周囲に誰もいないことを確認してからの決行だ。
彼らは久しぶりの上玉だと興奮していた。
「おい嬢ちゃん。大人しく着いてくれば乱暴はしねぇからよぉ」
下卑た笑みを浮かべた盗賊達に対し、怯んだ様子もなく少女が訊く。
口調はどこまでも暢気だった。
「君たちは?」
「俺たちは青獅子よぉ。大人しく従ってくれるよな?」
表情に変わりのない少女に、盗賊達は違和感を覚えながらも、囲いをジリジリと狭めていく。
「それは盗賊団の名前か何か?」
「んなことよりさっさと来いって言ってんだよ!」
沸点の低い1人が喚くと、他の盗賊達も我慢の限界がきたのか、今にも飛びかからんとしている。
彼らの目は欲に塗れており、だからだろうか、少女の口角が上がっていることに気付く者はいなかった。
「ふむ、会話もまともに出来ない挙句、盗賊か⋯⋯救えないな」
「は? え──」
少女の周囲にいた盗賊達はその言葉を理解することなく、意識は闇へと沈んでいった。
少しばかり離れていた頭は、何が起きたかを理解出来なかった。否、理解したくなかった。
少女を囲んでいた仲間の顔があった位置には赤黒い液体が舞っており、中枢機能を失った体は無造作に積み重なる。
気付けば中心にいた少女は消えており、ドサッと隣から何かが倒れる音がする。
いや、隣だけではない。
奥にいた奴も、まだ木に隠れていた奴も、全てが等しく倒れ伏していた。
恐怖はなかった。
ただ何が起きたかわからない、そんな事を呆然と考えていた頭の命は呆気なく散った。
「流石に冷静でいる時は、相手が屑だろうが人殺しに躊躇を憶えるか⋯⋯。いや、これは人として当然の感情だろう。まだ私は人でいられるということだな」
1人残った少女に先程の暢気な様子はなく、ただ淡々と己の心情を語った。
少し前に初めて人を殺した時は、激情に流されていた事もあり、特に何かを感じることもなかったのだが。
殺人に慣れることなどあってはいけない。
危惧していたような心象に陥らない事がわかった少女はホッと息をつく。
「ともあれ、誰か通りかかる前に死体を片付けなければ」
だがやはり冷徹なことに変わりはないのだろう。
人であったモノに火を点けることに躊躇いはなかった。
火魔法によって点いた火は、草木に燃え移らず、燃えているものさえ気にしなければ惨憺たる光景だったなどと想像も出来ないような、幻想的な風景だった。
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