三十一話 全額(国)ベットですよ?
途中からミア視点
レイアは勇者達とリィルの10人が、それぞれの目的の場所へ向かって遠ざかって行くのを見届けると、誰に言うわけでもなく1人呟く。
「さて、それじゃあ私も──国を落としてくるか」
国が相手だというのに気負うどころか口に笑みを貼り付け、楽しみで仕方がないといったレイアの様子に、遠くから眺めていたウスラハ達は改めて戦慄する。
旧友であるかのようにレイアと接する勇者達は、彼女が本当に依頼を成し遂げてくると疑っていないようだった。
そんな勇者達の姿を見て観念したウスラハは、レイアという戦力に賭けた。
宰相であるウスラハが進言し、ライトアムはロードスレイ王国に宣戦布告したのだ。
これでレイアが負けでもすれば、戦力的に勝ち目のないライトアムは、実質的どころか本当に隷属国にされてしまう。
これで全て解決して欲しいと願わずにはいられないウスラハだった。
(それにしても⋯⋯あの娘、勇者達にギルドマスターと呼ばれていたな⋯⋯。
まさかあんな幼子が異世界で彼らを束ねていたとでも? そんな馬鹿な⋯⋯)
◇◆◇
ひっそりとした森の奥。
何かが凄まじい速度で駆け抜けていく。
鋭い感覚を持つ狼型の魔物が何かに気付き顔を上げるが、それ以上の反応を許されず首を落とされる。
粘性生物は核ごと切り裂かれ、10mを越す大蛇は首が2つに分かたれる。
反応すら出来なかった彼らは、死んだことにも気付いていないだろう。
黒い影が止まったのは、仰々しく祀られた洞穴の前だった。
「ふい〜、やっと着いたっすね」
忍装に身を包み、独り言を呟いているのは勇者の内1人、ミアだ。
彼女の手には1本の苦無が収まっている。
他に武器になるようなものもなく、息絶えた生物達はこの苦無で絶命させられたのだろうが、ミア本人は勿論、苦無にも血の一片すら付いていなかった。
ミアの素早さは勇者達の中でも特に飛び抜けている。
そんなミアの速度に合わせて振られた苦無は加速が威力へと変わり、生物の薄皮など何の抵抗も許さない。
血が出るよりも速く通り抜けるミアに返り血など付くはずもないのだ。
緊張感のないミアは、何かを封印しているような鎖を平然とくぐり抜け、洞穴へと入っていく。
中には1枚の重厚な扉があり、物々しい雰囲気を発している。
思っていたより軽い扉を開くと、手の加えられたかのような道が広がっている。
自然が道を創り、灯りがなくとも視界が確保される⋯⋯それがダンジョンと呼ばれるものだ。
魔物は壁から生まれ落ち、死体は核を残して消える。
無数の罠が仕掛けられ、それらを切り抜けた報奨とばかりに宝箱がある。
そんな不思議が詰まったようなダンジョンの多くは解明されていない。
ダンジョンという、ある意味地球でも有名なものに、ゲームに毒されたミアが興奮するのも仕方の無いことだろう。
ダンジョンは浪漫! 偉い人にはそれがわからんのです。
ぼんやりとその光景に目を奪われていたミアの目の前で、壁に罅が入り始める。
ミアが壁に目を向けると、だんだんと罅が大きくなっていき、遂には魔物───竜男と呼ばれる生物が生み出される。
それを見たミアは好戦的な笑みを零し、飛びかかっていく。
ここは魔の森の最奥。
『暴食の古巣』と呼ばれる危険度Sのダンジョンである。




