三話 ゆっくりしている暇なんてないですよ?
戻ってきた斥候によると、山に住み着いていた竜が3匹で村を襲っているという。
「レイアさんは危険ですから此処にいてください」
レイアも村に向かおうとすると、リィルに止められた。
自分では到底及ばない強さを持っているというのはわかっているが、これは我々エルフの問題だ。
無関係の人間を巻き込む訳にはいかなかった。
しかしレイアは大人しく待っているつもりなど毛頭なかった。
「いや、私も行こう。ここまで来たんだ、見捨てるのも夢見が悪い。なに、自分の身は自分で守るさ」
龍種ほどではないが、それでも食物連鎖の頂点に立つ竜である。
その強さはかなりのものだというのに、微塵の不安も感じさせない態度にリィルは驚く。
結局説得は出来ないだろうと諦めたのか、苦笑して着いてくるように言う。自由に動かれるよりは、近くにいた方がもしもの時に守ることが出来るという考えからだろう。
そしてこの判断がリィルの命を救うことになる。
森を抜けた先に広がっていた光景は、さほど深刻というほどではないようだ。
長寿であるエルフ族の高齢者達は流石と言うべきか、皆熟練された動きであり、既に1匹を仕留めていた。
しかし、よる年波には勝てないのだろう。
動きに精彩を欠いている者をちらほら見かける。
戦えない者は村の中心で身を寄せ合っているようだが、この様子だと竜達が辿り着くのも時間の問題だろう。
そこに救援が間に合った。
援軍にきたリィルや部隊員達で竜を蹂躙していく。
やはり隊長という肩書きは伊達でなく、リィルは他のエルフよりも短い間隔で規模も大きい魔法を放っていた。
初めて見た魔法というファンタジー要素に、レイアは改めて異世界なんだな、と1人納得していた。
レイアが服を取り出した行為も、アイテムストレージを知らない他の者からすれば空間魔法の類いなのだが、それをレイアが知るのはもっと後だ。
あっという間に1匹を倒して、残りの1匹も時間の問題かと思われた。
もはや勝利は揺るぎないと思われ、緊迫していた空気が緩んでいく⋯⋯。
途端レイアは嫌な予感に襲われた。
「伏せろッッッ!!」
唐突なレイアの声に反応出来た者は数人だった。
次の瞬間、伏せることが出来なかった者達が凄まじい膂力で薙ぎ払われた。
無数のエルフ達が血を撒き散らしながら吹き飛び、壁に叩きつけられる。
あれではもう動くことも出来ないだろう。
当たり所が悪ければ、既に手遅れになっているかもしれない。
例え動けたところで、最早戦力にはならない。
慢心からきた油断故のダメージではあるが、彼らを責めることは出来ない。
息も絶え絶えだった竜の動きが、突然全快だった時よりも速くなったのだ。
むしろレイアの警告で咄嗟に動けた者が数人いただけでも十分なのだ。
両眼を赤く染め、暴走したかのように暴れ回る竜に、エルフ達の攻撃は悉く防がれてしまう。
原因は分からないが、暴走状態に入ったのだろう。
その眼から理性を窺うことはできない。
ただ力を振り回しているだけの状態だというのに、その暴威は先程とは比べ物にならず、誰も近付けない。
瀕死の仲間たちを直ぐにでも治療したいのだが、初撃で竜の後方に吹き飛ばされてしまい、助けに駆けつけることの出来ないリィルは臍を噛む。
そんな焦りからだろう、普段はしないような失敗をしてしまい、リィルに大きな隙が出来てしまった。
そしてそこに、リィルを叩き潰すような軌道で尾の一撃が飛んできた。