三十話 きっと使える交渉術ですよ?
「な、なんだと!? 君だけで全て片付けてくるだと?」
「だから何度もそう言っているだろ? 私1人で十分だ」
幾度か繰り返された問答だ。
レイアは執務室で書類に埋もれていたウスラハを見るなり、「勇者に出した依頼は私に任せろ」と言い出したのだ。
レイアの強さなど露ほども知らないウスラハは当然の如く反対したが、そんなものはレイアの知ったことではない。
さっさと仕事を終わらせて仲間達と旅をしたいのだ。
そんなレイアの言いように、ウスラハへの不遜な態度に不満を持っていた護衛達がギャアギャアと騒ぎ出す。
軽くため息を吐きながら、これ以上押し問答を続けても無為になると判断したレイアは軽く足を持ち上げ、
───ビギビギッ!!!
振り下ろした足は、硬い床にめり込み蜘蛛の巣のように罅を広げた。
「これでも私は力不足だと?」
その惨状にウスラハと護衛達は息を呑む。
この屋敷はただでさえ丈夫な素材を使って造られているうえに、耐久性を高める魔法も重ねがけしてあるのだ。
護衛達が剣を思い切り振り下ろしても傷一つつかないだろう。
それをいとも容易く踏み割ったレイアに、言葉を失くすのも当然のことだろう。
「わ、わかった。依頼は君に任せよう。
だが勇者達はどうするんだ? 君は指導役だろう?」
「基礎は教えた。アイツらにはダンジョンに潜って実践で鍛えてもらう。まだまだ弱いからな」
“まだまだ弱い”
そんなことはないだろう。
戦闘はからっきしのウスラハから見ても、勇者達は飛び抜けた───いや、底が見えない程の力を備えているということくらいはわかる。
それを弱いと断ずる目の前の少女はいったいどれだけの強さなのだろうか。
ウスラハはその提案を呑むしか選択肢がなかった。
◇◆◇
「了承を貰ってきたぞ」
嘘つけ! 絶対脅してきたぞ!
何か大きな振動を感じ取った勇者達はそう口に出しかけたが、辛うじて飲み込んだ。
昔からレイアのやることは大体いい結果に繋がるのだ。
そのレイアが無理に押し切ってまでダンジョンで鍛えろと言ったのだ。
それならいつも通り我らがギルドマスターに従うまでだ。
諦めにも似たような心境に至りながらも、どこか楽し気なのはゲーマーの性だろうか。
顔つきが変わった勇者達を見て、満足そうに頷きながら、レイアは話を続ける。
「それじゃあそれぞれの場所へ散ってもらうぞ。
まずリグルは───」




