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自重しない魔拳士さんは旅をする  作者: Liberty
第三章 国と勇者と魔王
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クリスマス特別篇

 すぐそばにある窓から外を見下ろせば、煌びやかに彩られた街並みが見える。

 今日は12月24日──クリスマスイヴである。

 幸い明日の仕事の予定がなくなった。

 残業で回されてきた書類を片しながらも、俺は頬が緩むのをやめられない。

 とても明日が待ち遠しいのだ。

 明日のクリスマスは元々仕事が入っていたのだが、急遽休みを取れたので別の予定を入れる事が出来た。

 浮かれるのも仕方のないことだろう。

 中にはこの1年に一度しかない日を顰めっ面で過ごす人もいるようだが、何が彼らをそこまで苦しめているのだろうか? やはり仕事か?


「神崎さん、この書類もお願いします」


 ウンウン、と日本の社会の闇について考え事をしていたらまた仕事が増えていた。

 年若い女性新人社員から追加書類を受け取り、仕事を再開する。

 ⋯⋯何故だろうか、さっきから仕事が減っている気がしないぞ?


 黙々と仕事を続けていると、スマホからメッセージ受信の通知がくる。

 どうやら妹からのようだ。


『遅い。ご飯まだ?』


 何とも端的な文だ。

 しかし妹よ、お兄ちゃんも残りたくて残っているわけじゃないんだ⋯⋯。

 だが確かにもう21時を回っている。

 いっそコンビニで買うなり、自分で作るなりすればいいと思うのだが、何故か律儀に俺を待っていてくれる。

 ⋯⋯いや、確か優奈は料理が出来ないんだったな。

 まあ何にせよ俺を待つ必要はないのだが⋯⋯、それでもちょっと嬉しく感じるのは、やはり兄という生き物だからだろうか。

 仕方ない、我が家で待つ妹の為に少し本気を出そうか。



◇◆◇



 ふぅ、やっと片付いたか。

 30分で終わったな⋯⋯、もっと前からちゃんとやればよかったな。

 まあ何にせよこれで帰れる。


「それじゃあ先あがらせてもらうぞ」


「えっ? 神崎さんさっきまで結構な量の書類溜まってませんでした?」


 先ほど書類を持ってきた新入社員だ。


「あぁ、妹が腹を空かしてるからな。パパっと終わらせた」


「これだから新は⋯⋯。やっぱりシスコンじゃないか!」


 同僚がからかってくるが、決してそんなことはない。

 このくらいは当然だろう。

 いつか俺の元を離れる時がくるんだ、むしろもう少しスキンシップを増やしてもいいくらいだ。

 まあ簡単に妹を渡すつもりはないがな!


「シスコンではないと何度言ったら⋯⋯、まあいい。仕事頑張れよ」


「おうよ」


「あ、あの⋯⋯!」


 同僚に別れを告げていざ帰ろうとしたら、またも先ほどの新入社員に呼び止められた。

 何か言おうとして口を開いたり閉じたりしているが、なかなか言葉が出てこない。

 なんだろうか? 不備でもあったのだろうか?


「⋯⋯あ、明日空いていますでしょうか!」


 やっと踏ん切りが付いたのか、若干違和感のある言い方で訊かれた。

 明日? 残念ながら予定が入っているのだ。


「明日は予定があるな。それがどうしたんだ?」


 新入社員が明らかに落胆した顔をしている。

 なんだ? 何を間違えたんだ?


「そう⋯⋯ですか。いえ、なんでもないです。お疲れ様でした⋯⋯」


 そう言って自分の席に戻っていった。

 ⋯⋯結局何だったんだ?

 まあいいか、早く帰って飯を作ってあげよう。

 俺は首を捻りながら帰りを急いだ。



◇◆◇



「はぁ⋯⋯」


 新のいなくなったオフィスで大きなため息がつかれる。

 新に予定を訊いていた新入社員だ。


「ドンマイドンマイ。あの人の事だから仕方ないよ」


 隣にいた同時期に入社した新人の同僚が慰めている。


「⋯⋯やっぱり彼女さんとかいるのかな」


「顔いいし何でも出来る人だからいるんじゃない? いないならいないでチャンスだよね。ぶっちゃけ私も狙ってるし」


「へ?」


「そりゃあんだけ優良物件だからねぇ⋯⋯。この社内にもかなり狙ってる人いると思うよ?」


「そ、そうなの?」


「うん。むしろ好意を抱いてない方がおかしい。

 ただねぇ⋯⋯、あの鈍ささえなければ完璧なのにねぇ」


 そう、これまでも新はかなりモテていた。

 しかし新は鈍かった。

 他人に向ける好意には敏感なのに、自身に向けられている好意には何故か気づかないのだ。


「まっ、何にせよあの人の明日の予定をもぎ取った人は幸運だよね」



◇◆◇



Leia:クリスマスイベントだぁあああああ!


Liggle:うっわ、クリスマスなのにギルマスがゲームに入り浸ってる。


Filia:あはは、ギルマスは相変わらずだよね。


Mia:流石っす!


Hast:儂も昔はなぁ───


 今日も彼らは平常運転だ。

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