二十八話 決着ですよ?
レイアとリィルがそんな話をしている間も、戦闘は苛烈になっていく。
剣が振り下ろせば刀に受け流され、槍を突き出せば盾に弾かれ、背後からの不意打ちは紙一重で躱される。
そんなギリギリの攻防を続けている内に、ハストの防御力は凄まじいことになっていた。
しかしそれは同時に危ういことでもある。
ハストも理解はしている。が、それで防げるかどうかは別だ。
カナタが目の前から消え失せたのだ。
それでも咄嗟に反応出来たのは反射か、あるいは勘か。
今がチャンスと一瞬でギアを変え、今まで抑え気味にしていた足でハストの背後をとる。
大盾や大剣では間に合わないと悟ったハストは、予備として腰に取り付けてあるナイフで迎撃する。
相手は神器だ。当然ナイフは砕け散る。
しかし一瞬の硬直があったことも確かだ。
すぐに後ろへ跳ぶハストは既に盾を構えている。
その1回限りの不意打ちを防いだハストは、一先ずと息を吐いて安堵する。
否、安堵してしまった。
直後背後から躱しようのない一撃が叩き込まれた。
そう、カナタは陽動で、本命はユウナだったのだ。
勿論2人は打ち合わせなどしていない。
したのは一瞬のアイコンタクト。
しかし天才とも言える2人にはそれで充分だった。
カナタは読んでいた。自身の一撃が決まらなくとも、ユウナがカバーしてくれることを。
ユウナは読んでいた。カナタが必ず隙を作ってくれることを。
そしてその防御無視である一撃は、ハストの体力を4割程持っていき、ハストの防御力に神器のペナルティがかかる。
こうなるともうハストは下がざるを得ない。
すかさず追い討ちをかけようと、槍を肩の上で構えるカナタ。それを妨害しようと、物理職4人が攻撃を加えてくる。
───戦闘スキル『百花繚乱』
それを本来有り得ない軌道で動いた刀が全てを捌く。
決められた範囲内の中でなら、一定時間剣閃を自由に反映させる奥義だ。
後衛職のメンバー達も急いでカナタのソレを防ごうとするが、限界まで引き絞られたその一撃は既に完成してしまっていた。
───必殺スキル『黒死の一撃』
「⋯⋯貫け、霊槍グングニル」
黒い雷を渦状に纏った長大な槍が放たれる。
その一撃は空間をも貫いて、一直線にハストへ吸い込まれていく。
当たれば、結界があるとはいえ、かなりの致命傷を負うことは間違いないだろう。
投げてしまってからカナタは、不味いことをしたと気付いたのだが、今回に限ってはその心配はいらなかった。
ハストに当たる瞬間、槍は動きを止め、パチパチと放電しながら煙をあげていた。
そしてその柄を握るのは、先ほどまで端で見学していたレイアだった。
「おいおい、まさかこんなところでそんな大技を使うとは⋯⋯。まったく。
私が間に合ったからいいものの⋯⋯」
レイアが呆れたように視線を向ける先は当然カナタだ。
「⋯⋯ちょっと本気になって、つい」
バツが悪そうに顔を伏せ、そう宣うカナタに、レイアは苦笑しながら槍を返す。
「ふむ、試合はこのへんでいいだろう。
ハストが崩れた時点で勝ち目はないしな」
レイアの言葉通り、このギルドメンバー達は、なまじハストが優秀すぎるので、皆そこまで防御力に重きを置いていないのだ。
広い場所で遠くに後衛職がいる場合はまだ可能性はあるが、ここは訓練場である。
この程度の狭さでは数瞬で距離を詰められるだろう。
そもカナタが変化する前に叩けなかった時点で勝ち目はほぼない。
それほどまでに変化した職業というのはステータスに補正がかかるのだ。
「それじゃあ邸宅に戻ろうか。これからのことを話そう」
変化Ⅰ型のステータス
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Kanata Lv.291 槍戦姫
人間 女 16歳
MP :2000/2000
攻撃力 :45000(10000)
防御力 :22000(5000)
魔攻力 :500
魔防力 :10000(2000)
素早さ :31000
体力 :4000
精神力 :30000
魔法 :『回復魔法 2/5』
技能 :『槍術 12/12』
『体術 7/7』
『戦姫の舞』
『夜叉』etc…
特異技能:『戦神輪舞』
『黒死の一撃』
『???』
称号 :『武に飽くなき者』
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※防具:白銀の軽鎧一式 武器:霊槍グングニル




