二十七話 神の名を冠する装備ですよ?
「⋯⋯変化、槍戦姫」
先程の姿と打って変わって、今のカナタは身体の動きを阻害しない程度に白銀の鎧を纏っており、手には控えめな装飾の黒い長槍を構えている。
その神々しさを身にまといつつも、相反する禍々しい槍を持つ姿は、なかなかどうして調和が取れていた。
そんなカナタを見て、ハスト達は警戒心を上げる。
本当は変化する前に仕留めたかった為、アルトが引き付けておいて、不意打ちでリグルとミアが襲いかかったのだが、変化する前の只の黒い棒で全て防がれてしまったのだ。
流石にレイアが認めているだけあって、まともな特訓をしていないにも関わらず、凄まじい棒術の技量であった。
急に姿が変わったカナタに、部屋の端で見学していたリィルは驚いていた。
「あれは⋯⋯いったい何なんです?」
思わず隣にいるレイアに訊いてしまったほどだ。
その問いにレイアは機嫌をよくして答える。
「ふふ、ここの勇者達とは昔馴染みだと伝えただろう? その時にそれぞれ神話級という最高レア度の装備を皆に持たせてあってな。
例えば私はこのグローブが神話級の装備だ。これのおかげで魔法を行使しながら近接戦闘が出来る。
カナタの武器であるあれは神話級の中でも頭1つ抜けていてな。名前は『武神の矛』。
持ち主専用の職業になり、自身の望む武器の形に変形させることで職業自体を特殊なものに変える。変化させられる職業は3つまでという制限はあるが、ステータスすらも変えられるから、かなり汎用性が高くて強いぞ」
ゲームの中では、戦闘中に武器は変えられても、職業を変えることは出来なかった。
職業により装備出来る武具やスキル、ステータスは変わる。
それを戦闘中に変更出来るのだ。かなり破格である。
加えて、神話級の装備というものはかなり大幅に能力値に補正がかかるのだ。
ただし『武神の矛』のデメリットとして、予め設定した職業に変化して使用する武器のスキルレベルは最大値が12まで上がるのだが、設定してある3つの職業に対応していない武器に変形させると、スキルレベルの最大値が7までとなり、その武器を極めた者には及ばないというものだ。
しかしそれはあくまでゲームの話。ここは現実である。
カナタの才能があれば極めた者にも並ぶ程に強くなれるだろう。
なお今のカナタは槍戦姫という特殊な上位職である。
ちなみにレイアの『職業神のグローブ』のデメリットは、サブに登録した職業のスキルや魔法は自身から周囲1m以内にしか効果を及ぼせないというものだ。
その為にレイアの魔法は体に纏わせることしか出来ないのだ。
尤も、デメリットが装備の説明欄に書いてないうえに分かりづらいので、本人は魔法を飛ばせない理由を知らない。
「そんなものが⋯⋯。他の方達も同じようなものを?」
レイアは首肯して応える。
皆目立った特徴はないものの、同じく並び立つ程の装備を揃えているのだ。
ゲームでは、神話級の装備は同じ物が2つと存在せず、また数も限られていた。
それをギルドメンバー全員が所持しているのだ。
他のギルドを少数で圧倒しているのも頷ける話である。
「そうだな⋯⋯、例えばハスト──あの爺さんの持つ盾を見てみろ。
神器相手に傷1つ付いていないだろ?」
レイアの言う通り、カナタが槍で突きを放つが、全て防がれている。
「ほんとですね⋯⋯。まさかあれも?」
「うむ。あれは『守護神の聖盾』という物だ。
壊れないという特性を持っている上に、防いだ際のダメージの内1%を自身の防御力に上乗せするという、長期戦になればなるほど有利になる盾だ。
ただしデメリットとして、体力が最大値の7割をきると、上乗せされていた防御力が反転してマイナスに補正がかかる」
ゲーム内では盾というのはタイミングがシビアで非常に操作の難しい装備だったのだが、ハストは社会の荒波で鍛えられた(?)反射神経と動体視力があり、ハストに防げない攻撃はない、とまで畏れられていた。
それは今現実となっても変わらない。
恐ろしい程の連撃を繰り返すカナタの猛攻を全て防ぎきっていた。
それはもしかしたらレイアやカナタの才能に近しいものなのかもしれない。




