二十六話 やっぱり妹なんですよ?
レイアの合図と同時にユニ太とハストが距離を詰める。
片や剣士、片やメイン盾。前線を支える職業としては申し分ないだろう。
先に刀匠であるユウナが2人に切り込む。
刀身が霞むほどの速さで振られた刀は、ハストの巨大な盾に弾かれる。
弾かれて固まった一瞬の隙に横からユニ太の剣が飛び出してくる。
間一髪でユウナは剣を躱し、距離を取る。
「相変わらずハストさんの盾硬いですね。連携も取れてるみたいですし⋯⋯。
兄さんに何か言われました?」
その言葉に2人は苦笑を浮かべる。
ユニ太はまず剣の振り方と度胸を、ハストは相手の攻撃を怯まずに受ける心構えを徹底的に叩き込まれたのだ。
レイアから言わせれば、本来であれば召喚されてから数週間の猶予があったのだから、その間にこれくらいは自主練して欲しかったのだが、やはり油断や驕りがあったのか、殆ど手を付けていなかった。
レイアはまずそこから矯正したのだ。
その成果の為か、今の連携はレイアから見ても及第点を上げられるものだった。
しかし相手が悪かった。
この旅の間に何度か実戦もこなしたのだろう。
刀の振りも、回避の動きも素人とは思えない。
勿論普通の人では、習っていたとはいえ実戦を数度行ったところで、ここまでの動きは出来ない。
だが生憎ユウナは普通ではない。
あのギルマスの妹なのだ。
数度の攻防でそれを再認識したユニ太とハストは一旦距離を空ける。
距離が空いたユウナの元へ火炎が渦巻いて飛んでくる。
ユウナとしては、初めて見る魔法だったのだが、これは受け止められないと判断してギリギリで避ける。
魔法が飛んできた方向を見ると、そこにはユイが杖を掲げて驚愕に顔を染めていた。
初見だろうと当たりをつけて無詠唱で放った魔法が躱されたのだ。仕方の無いことだろう。
しかしそれはユウナも同じだ。
ユウナが出立する前は少なくとも詠唱をしていた。
それが今は詠唱が全く聞こえなかったのだ。
ユニ太やハストと同じく、ユイもまた強くなっているのだろう。
レイアはまずユイに詠唱を必要としなくする鍛錬を課した。
元々スキルとして『詠唱破棄』は持っていたのだが、それはあくまでゲーム内で使えていただけだ。
ゲームの無詠唱に技術は必要ない。ただスキルを手に入れるだけでよかったのだ。
しかしそれが現実になると、そうもいかなくなる。
呪文は唱えず、されど魔力の流れを意識しながら1から魔法を組み立てていく。
それは本来一朝一夕で使えるようになる技術ではない。むしろ出来る者などSランク以上の冒険者くらいだろう。
しかし彼女は詠唱破棄というスキルを持っていた。
それがアドバンテージとなり、常識では考えられない程の速度で無詠唱の技術を手に入れたのだ。
だからといってユイが努力していなかったという訳では無いのだが。
◇◆◇
身を翻して出来た隙にユニ太とハストが追い打ちをかける。
その動きは先程より数段速くなっており、驚いたユウナの判断が鈍る。
2人の身体は光っており、恐らくフィリアが支援魔法をかけたのだろう。
だがやはり能力の上昇値もここまでではなかった。
同じくフィリアも練度を上げたのだろう。
崩れた体制ではユニ太の剣を辛うじて弾くので精一杯だった。
そこに盾術では珍しい攻撃スキルである『シールドバッシュ』が飛んでくる。
誰もがその一撃で決まると思っていた。
しかしユウナは諦めていなかった。
唯一レイアだけはそれを分かっていた。
逃げ道のないユウナが、盾の方へと自らの体を投げ出す。
そしてシールドバッシュが発動される寸前に盾へと両足で張り付いた。
瞬間盾は強力な力で前に押し出されるが、ユウナは盾を蹴り、押し出された勢いを利用して大幅に距離を取った。
その一歩間違えればかなり危険な行動を実行する胆力に、何よりそれをぶっつけ本番で成功させる技術に、レイア以外の面々が驚きに声をあげる。
「ふぅ⋯⋯。危ない危ない。みんな成長してるんですね。
それで、カナタさん。準備終わりましたか?」
カナタの近くに戻ったユウナが、なんでもないかのように声をかける。
「⋯⋯あっ、うん」
声こそあげなかったものの、珍しく皆と同じく驚愕していたカナタが、正気に戻って返事をする。
その姿は質素だった服から、白銀に輝く軽鎧に変わり、手には身の丈を越す程の長槍を持っていた。
この兄妹同じことしてる⋯⋯。




