二十五話 やっと登場ですよ?
「おっと危ないじゃないか。⋯⋯久しぶりだな、ユウナ。カナタも久しぶり」
レイアは呆れ顔で、抱き着いてきた黒髪の少女と、後から入ってきた無表情な少女に声をかける。
「⋯⋯急にいなくなった兄さんがいけない。暫くカップ麺生活だった」
上目でレイアを見上げる少女──ユウナは自身の家事能力を棚に上げ、兄に文句を言う。
レイアも本気で言っているわけではないと解っているので、必要以上に責めない。
「全く⋯⋯。そんなんじゃいつまで経っても自立出来ないぞ?」
「兄さんがいるからいい。
それより兄さん、本当に女の子になってる」
漸く離れたユウナが、改めてレイアの体を見やって呟く。
レイアは苦笑しながら、これまでのことを大まかに語った。
◇◆◇
「ユウナです。兄さんがお世話になりました」
「⋯⋯カナタ。よろしく」
「り、リィルです! こちらこそよろしくお願いします!」
あらかた語り終えた後、3人は自己紹介をしていた。
「それで⋯⋯、兄さんっていうのは⋯⋯? レイア様は女性ですよね?」
自己紹介を終えた後、雑談をしているところに、リィルが疑問を投げかける。
リィルの疑問も尤もで、異世界から来たことや、妹がいることは伝えられていたが、男だったということは言われていなかったのだ。
「様⋯⋯?
⋯⋯兄さんは兄さんです。元の世界では男性でしたから」
えっ、と顔をレイアの方へ向けるリィル。
レイアは頷いて肯定する。
「はぇ〜。だから全然女性っぽくなかったんですね」
納得顔で何度も頷くリィルであった。
「別に秘密というわけでもなかったんだがな⋯⋯。言い出すタイミングがなかった」
珍しく歯切れ悪く弁明するレイアに、リィルは気にしていないと首を振る。
ちゃっかり、チャンスなどと思ってたりする。
そうか、とホッとしたレイアは、前々から狙っていた本題へと入る。
「よし、それじゃあ模擬戦を始めようか!」
「げっ、忘れてなかったんスね⋯⋯」
「当たり前だろ。折角特訓したんだからな」
リグルの苦虫を噛み潰したような顔に、笑いながらレイアは答える。
レイアは居残り組を試合の準備へ向かわせると、帰ってきた2人に模擬戦について説明する。
「勝手に巻き込んですまんな」
「なんでも勝手に決めちゃうのは悪い癖。そろそろ治さないと」
「うぐっ、まあそうだな」
「⋯⋯私は構わない」
カナタは特に異論もなく了承してくれた。
それを聞いたユウナも、渋々ながら頷いてくれた。
「助かる。アイツらはこのままだとステータスを過信して突き進みそうだったからな。
技術が追いついていないと、いつか足元を掬われるかもしれん」
「⋯⋯それはいいけど、私も武器を扱えるわけじゃない」
「大丈夫さ。カナタなら出来るって信じてるからな」
「⋯⋯」
カナタなら出来ると1mmも疑っていないレイアを見て、カナタは黙ってツイっと顔を背ける。
頬には少し赤みが差していた。
「性別が変わっても相変わらず兄さんは垂らしだね」
半眼でレイアを睨むユウナに、レイアは頭にはてなを浮かべる。
「何を言っているんだ? それよりそろそろアイツらの準備が終わったようだな」
言葉通り、ゾロゾロと装備を固めた居残り組が戻ってくる。
「よし、ユウナとカナタも武器を構えろ。
リィルはこっちで観戦だ」
こちらに駆け寄ってくるリィルを尻目に、レイアが合図をだす。
「双方準備はいいか?」
「ウチは問題ないっす!」
「⋯⋯大丈夫」
「うむ。
試合は、どちらかが全員戦闘不能になるまで。
気絶、もしくはギブアップで戦闘不能とさせてもらう。
一応怪我を肩代わりしてくれる結界が貼ってあるが、念の為致命傷になる攻撃は禁止。仮に結界を破って致命傷足り得る攻撃になると判断したら、私が介入するからな。
それじゃあ、開始しろ」




