二十二話 最強の名は伊達じゃないんですよ?
その上からな態度に、沸点の低いアルトが飛びかかる。
殺すことに特化した爆術を使っていないので、最低限の理性は残っているらしい。
それでも身体はトッププレイヤーのモノ。体術も並ではない。
懐に飛び込んでの掌底。
誰もが決まったと思った一撃は、掌と同じ速さで下がった少女の身体に届かなかった。
アルトの見開いた目が捉えたものは、初動すらブレて見える少女の手が自分の腕を掴んでいるところだった。
次の瞬間、アルトの身体は地面に叩きつけられていた。
相手の力を利用した見事な一本背負いだった。
「この程度か? そんなものが通用するのは喧嘩までだ。
他のやつも一斉にきていいぞ」
投げ飛ばされたアルトの姿を見て呆けていた他の面々も、その言葉を皮切りに攻撃を始めていく。
「戦力を見誤るな! 格上と戦うつもりでいくぞ!」
最年長者のハストが檄を飛ばして突撃していく。
フィリアがパワーブーストで火力の底上げ、ユイが5階級魔法のファイアランスを詠唱し、ハストのシールドバッシュとユニタのダブルスラッシュで正面から切り込み、ミアとリグルが死角から一撃必殺を狙う。
完璧な連携のはずだった。普通だったら同レベル帯のプレイヤーでも瀕死に持ち込めたであろう。
しかし相手が普通ではなかった。
少女はその全てを受け流し、直に仕掛けてきた4人を同時に床へ伏せさせる。
「前衛のヘイトが低いぞ? もっと圧をかけろ。
後ろ2人は、動きはいいが攻撃が単調であるすぎだ。もっと裏をかけ」
主力4人が無力化されたのを見て、ユイが急いで詠唱を完成させる。
射出され、目でやっと追うことが出来る速さの魔法を、真正面から殴り消す。
「勇者なんだ。後衛は無詠唱が最低ラインだ」
あまりの力技に呆然としている2人の首に、手刀を添えゲームセット。
「は、ははは。マジかよ⋯⋯」
ゲーム内でもトップクラスを誇る彼らを、一方的に打ち倒すことが出来る者など、少なくとも他のギルドのトッププレイヤーですら無理なはずだ。それをいとも簡単に素手で成し遂げる少女。
加えてフードの隙間からチラチラと見える銀髪。
思い当たる人物など1人しかいなかった。
「指導役ってギルマスだったんスか⋯⋯」
「やっと気付いたか阿呆め。おおかた指導役がBランク冒険者と聞いて格下だと侮っていたのだろう?」
ギルマスと呼ばれた少女は、フードを外しながら指摘する。
実際その通りなので反論のしようもない。
勇者達は苦笑しながらレイアの手を取り起き上がる。
その中で状況を飲み込めていない者が1人。
「え? ギルマス? テスタって街にいるんじゃなかったのか?」
「だから冒険者と言ったろ? 勇者達の指導役という依頼を受けてきたんだ。
───ったく。いつまで座り込んでんだ? 移動するぞ?」
「おい、降ろせ!」
お姫様抱っこで持ち上げられ、反射的に噛み付くアルト。初心なのだ。
しかし当然ながらレイアは意識したわけではない。
なかなか起き上がらないアルトを移動させる為だ。
無自覚たらしというのも困ったものである。
それを見てる面々も止めないので余計に被害者が増えていく一方なのだ。
久しぶりに──たった数週間の出来事だが、長く会ってなく感じた彼らは、この世界で体験してきたことを語り合いながらギルドを後にした。
◇◆◇
数時間前。
指定された時間より早くギルドに着いたレイアは、ツバキから勇者達のことについて話を聞いていた。
伝えられた勇者達の名前、それを聞いたレイアは思わず笑い出してしまった。
訝しげにこちらを見やるツバキに、レイアは昔の知り合いだと説明し、それ以上は話さない。
異世界からきたのに知り合いだとはどういうことだろうか。疑問に思ったツバキだが、人には掘り下げられたくないことの1つや2つあるものだ。それ以上追求することなく話を進める。
「それでライトアムを発った勇者2人なんだが⋯⋯、ユウナとカナタという者だ。この2人も知り合いか?」
「そうだ。それにしてもあの2人か⋯⋯。
ん? 親族を探しに行った? まさか⋯⋯」
「なんだ? その探し人とやらも知っているのか?」
「あ、ああ。知っている」
流石に無関係の人間に自分が勇者の親族とは言えない。というより言っても信じてもらえないだろう。
「それじゃあそろそろ時間だ。行ってくる」
そうして彼らは邂逅、もとい再会を果たすのであった。




