十九話 聞いてないですよ?
テスタを発ってから2週間。
漸くレイア達はライトアム王国に辿り着いていた。
道中の護衛はパーペキ。その戦いぶりでホロウを多大に驚かせることとなった。
なお、レイアの血に塗れた服は、ミルアに教えて貰った生活魔法(誰でも扱える普及率98%の魔法)で綺麗にしてある。
レイア達が外門を見て真っ先に思ったことは、「大きい」だった。
大きさも宛ら、見た目が頑強だというのも威圧感に一役買っているのだろう。
キョロキョロと目を彷徨わせる2人に、ホロウは微笑ましいものを見るような温かい目付きを向けながら、馬車を門兵の所へ進ませる。
「おお、ホロウか。後ろの2人は護衛か?」
どうやら門兵とホロウは知り合いのようだ。
「その通りだよ。これでも2人ともBランク冒険者なんだ」
「はー、まだちっちゃいのに凄いもんだなぁ」
感心する若い門兵に、多分貴方より長く生きてますとは言えなかった。
信頼の証なのか、それ以上特に訊かれることもなく街に入ることができた。
中もテスタより賑わっており、皆どこか浮かれているような様子だ。
ホロウが言うには、勇者の召喚は大々的に知らされており、その為街はお祭り騒ぎになっているのだと。
露天には様々な物が並んでいて自然と足が引き寄せられるのだが、ギルドへの報告が先だとホロウに止められた。
ギルドの建物はテスタよりも大きく、風格が漂っていた。
中は相変わらず下卑た笑みを浮かべる輩が多いのだが。
厭らしい視線を無視して、受付に護衛完了の報告と、テスタ支部のギルマスから預かっている手紙を渡す。
訝しげな視線を向けてくる受付に、ギルマスに渡してもらうように頼む。
5分ほどで執務室に通してもらえた。
2階に上がるレイア達を見て、男達の視線が驚愕に変わるが、努めて無視をする。
背中越しに「血舞姫⋯⋯」という声が聞こえたが無視だ、無視。
「入ってくれ」
よく透る声で許可が出されたので、入室する。
ギルマスにはむさいオッサンしかいないかと思っていたのだが、どうやらライトアム支部のギルマスは女性だったようだ。
「よく来たな。話は聞いているぞ。Sランクにも引けを取らない実力を持っているらしいな?
私はライトアム支部ギルドマスターのツバキだ。今度是非手合わせしてくれ」
赤い髪を無造作に伸ばした妙齢の女性が、腕を組んでレイアを興味深げに眺める。
発言の通り彼女は戦闘狂と呼ばれる部類の人種だ。強そうな相手には片っ端から喧嘩をふっかけていく危険人物なのだ。
戦闘ばかりしていた影響か、腕を組んでも強調はされていない。何がとは言わないが。
「今何か失礼なことを考えなかったか?」
「いえ何も」
流石はギルマスだ。とても鋭い。
胡乱気な視線を無視して会話を繋ぐ。
「初めまして、レイアという。連れのエルフはリィルだ。手合わせは⋯⋯また今度な。
それよりも勇者の指導役とのことだが⋯⋯」
「ん? あぁ、そうだったな。
その件についてなんだが、実はその勇者殿が3日前に街を出てしまってな⋯⋯。正確には勇者の内2人が、だが」




