十八話 大体自業自得ですよ?
※残酷描写注意
ギルマスとの打ち合わせを終えた後、レイア達は荷物を纏め、翌日にライトアム王国へと旅立った。
ここ数日で何度か話すようになった門番のオッサンに、通行証を見せて門をくぐる。
すれ違う際に、「パルディは元気にやってると宰相に伝えてくれないか?」と頼まれてしまった。
何故依頼で宰相と会うことを知っているのか、レイアは理由を訊ねず了承の意だけを返した。
門番──パルディは目を伏せて「恩に着る」とだけ呟いて街の内側へと戻って言った。
らしくもない。いつものように飄々としていろ。
今回は馬車での移動だ。
折角なので護衛という形で乗せてもらった。
道の傍らに佇む馬車に近付くと、御者の中年が寄ってきたのだが、対面するとこちらの顔を見て放心したかのようにボーッとしている。
ハッという音が聞こえそうな顔をして我に返った中年が口を開く。
「は、初めまして。ホロウと申します。
あ、貴方達があのBランク冒険者の方達でしょうか?」
「初めまして、レイアだ。あのというのがどれかわからないが、依頼を受けたBランク冒険者というのは確かに私達だが?」
「あ、いえ⋯⋯。依頼を受けたのが『血舞姫』だと聞いていて、厳つい方を想像していたのですが⋯⋯、こんなに可愛らしい方だったとは⋯⋯」
「む、なかなか見る目があるじゃないか。
それよりその『血舞姫』というのはなんだ?」
血舞姫とはなかなか過激な名前だ。いつの間に広まっていたのだろうか?
考えてもわからないので素直に訊いてみたところ、なんでもBランク以上の冒険者にはギルド公認の二つ名が付くそうだ。
血舞姫の理由としては、レイアが依頼から帰ってくる度血に塗れているから、盗賊のアジトで鮮血を撒き散らしながら舞うように戦っていたから(リィル談)などらしい。
安直だな、とも思わなくもないが、センス自体は嫌いではない。
ちなみにリィルは『風舞姫』だそうだ。こっちの方がかっこいい。
挨拶もそこそこに、2人は荷台へ乗り込む。
1人は幌の上で警戒を、もう1人は中で休憩して数時間で交代する。
護衛に2人というのは少ない気もするが、訊けばBランク冒険者なら2人でも十分ということらしい。
それにBランク冒険者というと、雇用がかなりの相場になってくるそうだ。
C以下の冒険者5人とBの冒険者2人だと、後者の方が高くなるというから驚きだ。
しかし実際実力に差が出てくるのがCとBの間なのだ。
大抵の人はCで行きどまる為、Bからは絶対数が少なくなってくる。
確かにBは値段に相応しい実力を備えている───が、ただの護衛にしては過剰戦力というのも確かだ。
よほどのことがない限りCランクで手に負えないようなことは起こらない。
その為、Bランク冒険者は護衛で雇われることは少ないらしい。レイア達は運がよかったのだ。
そうして雑談を交えながら道を進んでいく。
数時間が経過した頃、レイアの感知に何かが引っかかった。
左前に待ち構える3体の生き物───ゴブリンの分隊だろうか。
確認、殲滅の許可を得るために御者台の方へ幌から顔を出す。
ヌッと出てきたレイアの顔に、ホロウの顔が引き攣るが、続いて出たレイアの言葉にすぐに顔を引き締める。
「構いません。馬が怯えてしまうので、飛び出して来る前に対処可能ですか?」
「もちろんだ」
許可は得た。
さあ、戦闘だ。
スッと音を立てずに馬車から飛び降りて着地する。慣性などなかったのだ。
一歩前に、一瞬で最高速にまで達して馬車を追い抜く。
目指すはゴブリンが待ち構える草むら。
その速さにゴブリン達は反応出来ない。
草むらの隣に生えていた木に横向きで着地。勢いを殺す。その際あまりの勢いに幹が砕けて木が倒れたが、まあ問題ないだろう。
目の前にはゴブリンの頭頂部が。
力任せに頭へと拳を振り抜き、身体ごと潰れた果実へと変貌させる。
重力に従い地面へ降り立つ。と同時に身を伏せて次の1体へ足払いをかける。
頭部を残して身体が吹き飛んでしまったが些細なことだ。
ここにきてようやく残りの1体がこちらを認識する。
仲間を殺された激情に駆られ、血走った目で棍棒を振り下ろしてくる。
そこへアッパーカットを合わせて棍棒を粉々に砕く。
何故こんな脆弱な人間如きが素手で棍棒を砕けるのか。理解の及ばないゴブリンは一瞬呆ける。
しかしそれはレイアを前にして、致命的な隙だった。
眼前に迫る拳を避ける術など、ゴブリンにはなかった。
横を通り過ぎる馬車に飛び乗る少女。
道の端にはゴブリンの頭部が1つ。原型の残っていない死体が2つ転がっている。
幌の上で寝転んだ少女の服は、真っ赤に染まっていた。




