閑話2 喚ばれたのは、ギルメンでした
「ぅぅ⋯⋯。頭痛い⋯⋯」
「──ぁぇ? 何処ここ⋯⋯?」
呻き声をあげながら9人の男女が意識を取り戻していく。
周りを見れば石造りの壁に囲まれた小部屋に、どうみてもコスプレにしか見えない、鎧やローブを纏った集団がこちらを見据えている。
先頭に立っている豪奢な格好をした髪の薄い初老の男が口を開く。
「ようこそ、異世界の勇者達よ! 私はライトアム王国宰相のウスラハ・ゲールという!
突然のことで混乱しているだろうが、落ち着いて聞いてほしい。
今其方達がいるこの場所は其方達がいた世界ではない。私達が元の世界からこの世界へ喚び出したのだ」
薄らハ⋯⋯ウスラハの語った内容に彼らは目を白黒させる。
よく呑み込めていない彼らは相談しようとしたのか、互いに目を向ける。と、そこで二度目の衝撃に見舞われた。
「貴女──ユウナちゃん!?」
「その顔⋯⋯ユイさんですか!?」
この2年間幾度と画面の中で見た、ギルドメンバー達の顔がそこにはあった。
「これゲームの中の姿と一緒⋯⋯」
「俺らは確かギルマスから送られてきた鍵を使って⋯⋯どうなったんだ?」
「身体もキャラクターの姿になっているようですし⋯⋯」
彼らの喋っている内容は、喚んだ者達には全く理解出来なかった。
面食らっていたウスラハだが、場を切り替える為に咳払いを1つして話を続ける。
「其方達を喚び寄せたのは他でもない、魔王を倒してもらう為だ。
最近魔王の軍勢が活発化しているとの報告を受けてな⋯⋯。私達では力が及ばず対処出来ないのだ。
勇者達の力を借りようと思ったのだが、私達の国には勇者がいなくてな⋯⋯。勝手ながら異世界から召喚させてもらった」
なんとも勝手な話だと憤慨しそうになる彼らだが、考えてみればこれはチャンスでもある。
彼らは皆かなりの時間をつぎ込んできた筋金入りのゲーマーだ。
社会人がここまでの時間を割くということはそれ相応の理由があるわけで⋯⋯(別に働いていないというわけではない)。
ある意味転機とも言えるだろう。
心機一転、新しい人生を始めるのも1つの手だな、と考え始めていた。
「言い忘れていたが、元の世界には戻れないということを伝えておく」
否、端から選択肢などなかった。
それぞれが覚悟を決める中、ユウナはウスラハに気になっていることを訊く。
それはギルドメンバーの皆が考えていたことでもあった。
「あの⋯⋯新という名前に聞き覚えは⋯⋯?」
しかし悲しい哉、チャットではよく喋る性格であったが、現実ではそうもいかないようだ。声がとても小さい。
幸い一番近かったこともあり、ウスラハにはちゃんと聞こえていた。
「アラタ⋯⋯? いや知らないな」
予想していたことだが、やはり落胆は大きい。目に見えて彼らの気分が落ち込んでいく。
彼らは召喚と同時に記憶が戻っていたのだ。
ウスラハには何故彼らが落ち込んでいるのかわからないが、下手に突っ込んで協力を取り付けられなかったら不味いだろう。
そう判断したウスラハは、努めて明るい声で先を話す。
「これから君たちの強さの指標ともなる魔力をこの魔道具を使って測ってもらう。
勿論魔力が低くても身体能力が高いという人はいるので、あくまで目安だ」
そう言って取り出したのは、直径30cm程の水晶球だった。
台座はシンプルだが、細かな彫りが無数に刻んであった。
ウスラハは水晶球に触れるよう促す。
最初は皆警戒していたが、腹を括ったのかアルトが真っ先に進み出る。
言われた通りに手を翳すと、水晶球は淡くだが確かに黄色く光った。
「おお! 魔力量は多くないが、珍しい雷魔法の適性が出ている!」
魔力量が多くない、というのはアルトも分かっていたことなので特に反論もしないで元の位置へ戻る。
アルトはレイアと同じで正面戦闘員だ。
魔法を使っている暇などないので殆ど攻撃力と防御力に振り切っている。
次に覚悟を決めたのは魔法職であるユイだった。
ゆっくりと水晶球に触れる───と同時に水晶球が割れた。
「───は?」
ついウスラハの口から呆けるような声が出てしまったのも仕方がないだろう。
頭から数本の毛が抜け落ちていたが、後ろの騎士達は気付かないフリをするのだった。




