十一話 初仕事ですよ?
とは言ったものの、まず資金を集めなければ旅も出来ない。
その為に冒険者になったのだ。まずは第一歩といこうか。
ただの薬草採取なのだ。すぐに終わるだろう。
と思っていた時期がありました⋯⋯。
探していた薬草である"ヤス草"と、似ているが毒草である"イズ草"の見分けがつかないのだ。
本来は、葉の裏に薄く白粉が付いているのがイズ草、そうでなければヤス草という見分け方が常識として知られているのだが、異世界初心者のレイアと排他的種族のリィルがそんなことを知っているはずもなかった。
受付の人も受付の人で、子供でも知っている常識だから教える必要もないと思っていたのだ。
結局彼女達は二種類とも大量に持って帰り、ギルドの隅で仕分けをさせられた。
「なんでこんなに分かりにくいんだ⋯⋯。パッと見て判断出来るスキルが欲しい⋯⋯」
ぶつくさとシステムに文句を言いながら作業をするレイアだが、無情にもスキル取得の声は流れてこない。
ふと、顔を上げて手元を操作するレイアにリィルが訝しげな視線を向けるが、レイアは気にせずスキル一覧を覗く。
半ば程までスクロールさせたところに目当てのスキルがあった。
ある程度ゲームをやり込んでしまうと使わなくなるスキル───
『状対調査』
対象の生態情報を確認する。
これだ。
サーチはバージョンアップで敵が増えたりしない限り全くと言っていい程使わないスキルなのだ。
幾ら幅広いコンテンツがあるゲームとはいえ、そこには限度というものが存在する。
敵の存在もそうだ。
弱点などを知れるこのスキルは、初見ではとても活躍する。
しかし何度も狩っていれば自ずと覚えていってしまうのが人間というものだ。
当然プレイヤーの間でトップに立つほどやり込んでいたレイアも例に漏れないわけであって⋯⋯。
すっかり存在を忘れていたのだ。
しかしだ。このスキルは元々敵の弱点を知る為に作られたスキルだ。
当然持ち物などには使えず、敵だけを対象にしたスキルだった。
それはこの世界でも同じかもしれない。
それでも試してみる価値はあると判断したレイアは、早速積まれている草にスキルを発動させる───
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イズ草ス草ヤス草イズヤス草ヤス草イズ草ヤス草ヤス草イズ草イズ草ヤイズ草イズヤイズ草ヤス草ヤス草イズ草イズ草ヤスイズ草──⋯⋯
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瞬間頭に鈍い痛みが走り、呻き声をあげそうになる。
(ぐっ!なんだこの情報量は⋯⋯。かなり頭が痛いぞ⋯⋯)
周りに心配をかけさせまいと、必死で頭痛を我慢するレイア。
重なりあっている草の全てに名称が表示されているのだ。
1つ1つが情報として処理されているのか、ゲシュタルト崩壊などという生易しいものでなく、頭に直接情報を取り入れているような痛みを伴う。
常人なら一瞬で気を失うレベルの情報量なのだが、流石はレイアというべきか、頭痛程度で済んでいるようだ。
ともあれ、これで見分けがつくようになったのだ。僥倖と言えるだろう。
レイアは頭痛を我慢して仕分けをしていく。
今までとは比べ物にならない程のスピードだ。
周囲も何事かと驚く程の速度なのだが、彼女にそんなことを気にしている余裕はない。
数分後には綺麗に仕分けられた2つの小山があった。
漸くスキルを切ったレイアは一息つく。
何事かと訊いてくるリィルに小声で説明しながら、草を買取所へ運ぶ。
歩合制だったはずなので、多少は報酬が減ってしまうが仕方がない。
自分の不注意が招いたことだ。
結果的に銀貨1枚だったので、数時間の仕事としては少なめだが自業自得と諦めるほかない。
しょんぼりしながら宿へ向かう2人を見つめる視線が1つ。
気配に敏くなったレイアが何かを感じ取り振り向くが、既に視線の主は消えていた。
ラ〇ブラ⋯⋯。




