九話 オーバーキルもいいとこですよ?
ギルドを後にした俺達は暫く腰を落ち着ける為の宿を探していた。
安い宿はベッドの質が悪いという理由で俺が却下した。
そこそこな宿を取れた俺達は夕食も宿で片付けてからそれぞれの部屋に入った。
久しぶりに1人になった俺は今までのことを思い返す。
この世界にきてリィルと出会い、竜と戦い、ギルドで揉める。
なかなかに濃い2週間だっただろう。
日本にいた時じゃ考えられない程だ。
(日本⋯⋯か)
今までは意識的に日本のことを思い出さないようにしてきたが、ここにきて本格的に考えてしまった。
仕事のこと、ゲームのこと、ギルドメンバーのこと、妹のこと──。
特に妹のことは心配だ。
19にもなって家事が何一つ出来ないのだ。
自分がいなくなった為、まともに暮らせていないのではないかと落ち着かなくなるが、今気にしても仕方がないと気分を切り替える。
そういえば、と俺は独りごちる。
この世界に降り立ってから、まだスキルも魔法も使ってないのだ。
思い立ったが吉日とばかりにこの場で使えるスキルを発動させる。
───戦闘スキル『闘気』を使用
瞬間俺の身体から淡く透き通った白銀のオーラが立ち上る。
鏡に見た揺らめくソレは、全てを力で呑み込まんとする龍のようにも見えた。
通常スキル『体術』のレベルを最大まで上げると手に入る戦闘スキルである『闘気』の効果は、
"120秒間攻撃力と素早さが1.5倍になるが、魔攻力と魔防力が0.2倍になる"
というものだった。
なるほど、確かに普段より力が沸き立ってくるようだ、と身をもって確かめる。
だが唯でさえオーバーキル気味なその力を更に上げて一体どうするのだというのか⋯⋯。
どうやら強化・弱化の効果や制限時間はゲームと同じようで、【闘気】はちょうど2分で切れた。
幾つか他のバフなどを確かめたが、やはりゲームと変わりなかった。
では直接的な攻撃に関するスキルはどうなのかと考えたが、今は無理なので明日にでもすることにした。
魔法も同様だ。
残るは装備だが⋯⋯。
アイテムボックスから戦闘用の服と、俺だけが持つグローブを取り出す。
流石にゲームと違い、服はちゃんと着替えなければいけなかった。
着替えた時に少し体をまさぐったが、男の性だ、仕方ない。女になってるけど。
これでグローブも填めると完全装備だ。
今の格好は、全身黒の装束道着で腕には軽く布を巻いており、前腕の半ばから手の先にかけて黒の指ぬきグローブを填めている。
この世界に来てから初めての完全装備に気分を高揚させながら2週間ぶりにステータスを開いてみる。
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Leia Lv.300 拳聖 S.魔術師
人間(?) 女 15歳
MP :1100/1500
攻撃力 :99999(+5000)
防御力 :12000(+10000)
魔攻力 :1000(+5000)
魔防力 :12000(+10000)
素早さ :45000
体力 :2000
精神力 :10000(+2000)
魔法 :『火魔法 5/5』
『無魔法 4/5』
『闇魔法 3/5』
『雷魔法 3/5』
技能 :『拳術 10/10』
『体術 10/10』
『脚術 9/10』
『剣術 6/10』
『刀術 5/10』
『闘気』
『鬼神化』etc…
特異技能:『拳神華撃』
『技神演武』
『魔纏瞬打』
称号 :『拳を極めし者』
『無手を極めし者』
『王者』
『ギルドマスター』
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⋯⋯これはひどい。
もうこれ俺に勝てるやついないんじゃないか?
⋯⋯いやいや、慢心は駄目だ!いつか足元を掬われるかもしれん!
兎に角ステータスは抑えなければ。
竜を相手取った時に思ったが、この身体のスペックはこの世界じゃバグとしか言いようがない。
ゲーム内だと俺のステータスと近しい人は数人いたのだがな⋯⋯。
早く力をコントロール出来るようにならないと、お巫山戯で死人が出かねないぞ⋯⋯。
結局夜明けまでコントロールの特訓をしていた為、ベッドを堪能することが出来なかった。お陰で寝不足だ。
だが力を抑えることが出来るようになったので良しとしよう。
寝惚け眼を擦りながらリィルと朝イチでギルドへ向かう。
昨日みたく酔っ払いに絡まれたらたまったものではないからな。
力加減が上手くなったから次絡んできたらテンプレ通りはっ倒してやろうか。
物騒なことを考えながら扉をくぐると、そこは昨日とはまた別の顔を見せるギルドの姿があった。
清潔なことに変わりはないのだが、まだ朝の早い時間帯だからか冒険者も疎らにしかおらず、数人いる冒険者もむさいオッサンなどではなく若々しい青年達だった。
残念ながらミルアはおらず、猫耳を拝むことは出来なかった。
気を落としながら掲示板に近づき、Fランクで受けることが出来る依頼を見ていく。
殆どがお使いのようなものばかりだが、やはりここは基本である薬草採取であろう。
依頼書を持って受付へ向かうと、ギルドカードを提示するように言われた。
どうやら専用の魔道具か何かで依頼の受注・報告をカードにデータとして刻むらしい。
電気も流れていないこの世界でよくここまでのことが出来るもんだ。
関心していると、どうやら作業が終わったようだ。
返されたカードを裏返してみると、
受注:1
成功:0
失敗:0
と書かれていた。
なるほど、確かにわかりやすい。
一体どういう仕組みなのか、成功・失敗は嘘偽りなく記載されるらしい。
不正は出来ないので地道に頑張って下さい。最後にそう締めくくって受付は説明を終える。
勿論不正などするつもりは毛頭ない。
コツコツ真面目に繰り返すことが大事、と先ほど受けた説明を頭の中で繰り返しながら、リィルと街の外へ向かう。




